第4話
寝苦しさから目が覚めて、今のが夢だったことに気付く。
いつもは忘れていたはずの存在を思い出して、そしてそれがもう二度と取り戻せない関係だということを理解して、心にぽっかりと穴が空いたように寂しさから起き上がれない。あの時に戻りたいけど絶対に戻りたくない。そんな矛盾に浸ることがとても楽で、いつまでもそうしていたいような気持ちに駆られた。
そしてそこで、この部屋に僕しかいないことに気付いた。布団から顔を出してキッチンを見ると、丁寧に水が切られた食器が重ねられているのを見つけた。
どうしようもなく体の穴が寒くて、僕は再び布団に潜った。
次の日。
――檜扇ちゃんは僕の目の前に現れなかった。
二日後も、三日後も、秋の終わる日も。
彼女は僕の目の前には姿を現さなかった。
いつも彼女と会う日は必ず挨拶をして、彼女と別れる日は挨拶をしていた。それは一日という単位でもそうだけれど、一年という単位でもそうだった。秋の終わりの日には、いつも彼女はまた来年と言ってくれた。
僕は十年振りに一人で秋を終えた。
いや、そうなのだろうか。
秋を終えぬ間に冬を迎えた。
そんな言い方の方がしっくりくる気がした。
だって僕はまだ。
秋を忘れられず、取り残されたままで――。
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