Ⅲ
1
今日未明、XXランド付近の駐車場奥の空き地で、久利川隆一君(十五)が意識不明の重体で発見されました。発見当時、久利川少年の身体には鈍器で殴られたような複数の跡あり、警察では……
2
「こんな所に連れてきてごめん。本当は、XXランドなんか興味ないんだ。ただ、君のことが好きなんだ。なぁ、俺と……」
「……っつあっ! 離せ! 何のつもりだやめろ! 気色悪いんだよ、この、変態野郎ォ!」
……ガツン!
3
「……は、はい、し、白川です……」
白川くんの声。本当に繋がった。くりくんの手紙通り。
「もしもし。河合です。どうしたの? 声震えてるよ?」
「え? か、河合さん? う、嘘、ウソッ! え? え? ち、違うんだ。その、あ、あの、あ、いや、何でもない……あの、その……」
「もしもし? もしもーし」
「は、はい!」
「今XXランドに着いたんだー。今から会えない?」
「え? ぼく、そんなところに、い、居ないよ。うん。今、家、だから」
「帰らないで、ってこの前行ったでしょ?」
「……え? あ、あっそうだった! ごめん! ごめんなさい! あ、ああ、あの、ホントは、その……」
「ふふふ。ねぇ、今どこなの? 正直に言って。くりくんも居るんでしょ?」
「隆一、くんは……あの、えー、今、ね……トイレに! い、居るんだ。ぼくは、今……今ね……観覧車の前に、居る、う、うん、居るんだよ、ね」
「そう、じゃ、そこで待ってて。じゃ」
はぁ、ちょっと緊張した。でも、吃ってる感じといい、声が小さい感じといい、いつも通りだった。なんかいつもと違うところがあるとすれば、ちょっと息が荒いところかな。
ずいぶん楽しそうなデートだったんじゃないかなぁ? ふふ。
くりくんにエスコートしてもらってさ。全然気付いてないだろうけど、しばらく前からつけてたよ。くりくん、どうせあたしのことのけものにするだろうから、遠くからだけど。
観覧車のところに行くと、いつも以上に白川くんが挙動不審な様子でこっちを見ているのが見えた。緑のファー付きジャケットが少し乱れている。俯いていてよく見えないけれど、顔がいつも以上に引きつって青白い気がする。
あたしはにっこり笑顔を作って近づいた。
「おまたせ、白川くん。ねぇ、くりくんの携帯にさっきから全然繋がらないんだけど何で? 何があったか知らない?」
目を泳がせながら、何か喋ろうとしている。た、多分、で……の後がモゴモゴしていて聞き取れない。あたしは観覧車を仰ぎ見て、まだキョドってる白川くんの方に目を戻す。あたしは耳元でこっそり告げた。
「ちょっとここじゃ人いるからさ。ねぇ、観覧車乗らない。二人きりで話そっか」
……は、はい。
白川くんの、ボソッと力がない返事が、かすかに聞こえた。ちょっと、お疲れなのかしらね。
全部見てたから分かるよ。人殺しお疲れ様、白川くん。
夏休み前だったし、元々ガラガラな遊園地だったけど、腐っても地元唯一のデートスポット。夕方ともなると、ちらほらカップルがなだれ込んでくる。観覧車は二十分くらい待った。
「そのうち来るかしらね、くりくんさ」
白川くんは体を少し震わせて、俯いて黙ってる。あたしはそんな白川くんの姿を見ながら一人、笑いを堪えるので必死だった。でも、もうくりくんを待つ演技も疲れたから、話題を作ろうとした。最初から様子を見ていてずっと気になってたことを尋ねてみる。
「ねぇ、バッグ重そうだね」
「へ? 何で?」
だって、デートだっていうのに、そんな物が入ってパンパンな重そうな鞄してるもん。さぞ何か買い物したんだろうけど、そもそもこの遊園地は大層なテーマパークじゃないから、グッズ買いまくるなんて有り得ないし。
「プレゼントでも入ってる? もしかして」
「何で? んなわけ、な、ないよ」
「ちょっと見して」
「ちょ、わ」
本ばっかり。いつもこんなに本持ち歩いてるのかな。財布はいいけど筆箱に参考書まで入ってるのにはちょっと吹いた。学校行くんじゃないんだから、全く。
呆れちゃうけど、そんな白川くんが可愛くすら思えてくる。
でも、鞄の上の方、まっ先に目に入ったのは、岩波の文庫本。青の上にデカデカと、死に至る病、の文字。
「白川くんのどこがいいの?」と訊いた時、くりくんが「この本を読んでないお前になんか一生理解できるものか!」と怒鳴られたことを思い出した。あたしは、少し顔が引きつるのを抑えられなかった。
「難しい本ばっかり。ねぇ、デートの時は、こんなに本は持ち歩かないものよ?」
「で、デートなんて! 冗談だよ、そんな……」それからボソっと、男同士だし、っていうのが聞き取れた。
「ふふ、男同士でもいいんじゃないの? 面白いじゃない。そういうの好きよ」
「じょ、冗談はよしてよぉ! 有希ちゃんまで! あ、ごめんなさい、ちが……あの、か、河合さん……ま、で……」
ドキッとした。その瞬間、あたしは白川くん、いや、裕一くんのことを、こんなに可愛い……ううん、それすら通り越して、なんだろう、多分、愛おしいっていう、そういう気持ちになる人だなんて、思ったことがなかった。
「いいよ。有希でいいよ、有希ちゃんって、呼びなよ」
そう、目を見て言った。裕一くんはすぐに目を逸らしたけど、ほんのり顔が赤らんでたから、それがますます可笑しくって、可愛くって、あたしは黙って、手を握ってあげた。
しっとりして、多分どんな女子の手よりも繊細な、裕一くんの手。
観覧車に乗るなり、裕一くんは俯いたままあたしの向かいに座ったきり、一言も話しかけない。
「ねぇ、せっかくの観覧車だからさ、なんか楽しい話しよ?」
そう言ってあたしが隣に座っても、お尻をずらして距離を置こうとする。
「……もしかして、そんな気分じゃない?」
裕一くんの手にあたしの手を重ねる。とても、冷たい。
「ねぇ、本当はくりくんに何があったか、知ってるんでしょ? 言いたくなくても教えて」
「は、離してくれ!」
そう言い放ってから、裕一くん、あからさまなしぐさで呼吸を整えた。そっぽを向いて、何も話したくないって、全身全霊で拒絶している。
しばらく、沈黙の時間が流れた。
「素直じゃないね。そういう態度されると、本当に何があったか聞きたくなるんだけど」
あたしは、思い切って彼の膝の上に乗っかって、無理やり胸の中に抱き寄せる。
イライラしていた。屈辱だった。ダメだよ。そんなに拒絶しちゃ。何であんたみたいな奴なんかに、このあたしが、こーんなにまで迫らなくちゃいけないの、って、そうあたしのおなかが叫んじゃうじゃない。ほら、せめてさ、
「目くらい、見てよね」
裕一くんはますます息遣いを荒くさせながら上目遣いであたしを見た。睨むような目だった。
「……その前に、どういう事か、答えてください」ボソッとした声。でも、声音は苛立っていた。
「何を?」
「これです」
そう言って、彼はバッグの中、近所のCD屋さんのロゴが入った黒いビニール袋から、何枚か写真を取り出した。
「この裸の写真、有希ちゃんで間違いないよね」
そこに写っていたのは、隆一くんが撮ったあたしのヌードやオナニーシーン、ヴァギナの写真だった。身体が強張った。
「なんだよコレ……ぼくは、ぼくは認めないぞ!」
突然、暴力的に腕を突き出されて、あたしは観覧車の床に尻餅を付いた。
「なんなんだよお前ら! ぼくの心を掻き乱しやがって! 絶望したよ! こんな、こんな女の子だって思わなかったよ! ふざけんじゃないよっ! 何でこんなことすんだよぉっ! 理由を言え! 理由を言えェ!」そう一頻り叫んで、裕一くんは崩れ落ちた。
「理由なんて、言ったって聞かないでしょ? それにさぁ……」
痛むお尻を押さえながら、あたしは立ち上がる。
「ぶっちゃけ、ヌいたんでしょ? ヌけたでしょ? それで十分なんじゃないの?」
あたしは足元に
「うん。その写真、隆一くんに撮ってもらったよ。でも、こんなふうに使うだななんて、思ってなかったなー。個人的に使うだけにしてって、アレ程釘を差したのにね」
「何で……応じたんだよ……あんなヤツに、あんなヤツに!」
「好きだったからに決まってるじゃない」
そう、唾を吐き捨てるように言って、ショーツを脱ぎ捨てた。
「あたしはいいように利用されただけだったのよ。結局、あたしのココは」おま○こを指さして言い放つ。
「裕一くんのズリネタとしてのあたし、それ以上でも、それ以下でもない。でしょ? あーあ、あたしもうお嫁に行けないねー」
見ないようにしてるんだろうけど、屑の目線はチラチラあたしの目の前のおま○こを捉えて、顔を赤らめ息をより荒くさえしている。話していて怒りを抑えきれなくなってくる。あたしは屑の首根っこを掴んで、いっその事よく見えるようにしてやる。
「ねぇ、そういうもんでしょうが! あんたらオトコのすることなんてさぁ! あんたらの妄想でいたぶるだけいたぶっておいて、学校じゃヘーキで知らん顔してんでしょうが! ホラ、ねぇ、いっぺんでもちゃんと見てみろよ! あたしのココを! 目の前にあんだろ! 興奮の一つでもしてみろよ!」
「……かしいよ……」
「はぁ?」
「お、おかしいよ。訳がわからないよ! 今日のデートといい! この写真といい! 有希ちゃんの、その、態度といい!
ねぇ、有希ちゃん、そういう人じゃないでしょ? 何でぼくにそんなことを言うの? ぼくはヌいてなんかいないんだよ? 無実だって、無実。むしろ、ヌードを撮ってぼくに渡した隆一くんがいけないんじゃないか。ねぇ。そうでしょ?
ぼくはそんなことはしない。有希ちゃんにこういうことを言うのはね、ぼくは、隆一くんにこんなものを渡されて、どれだけぼくが絶望したかって、隆一くんに失望したかって、分かって欲しいって、それだけなんだよ。ぼくにとって有希ちゃんは、女の子として魅力がある人だよ。好きなんだよ。告白するけど、隆一くんなんかより、ずっと、ずっと好きなんだよッ!
あの、ね……ぼくはね……あんなヤツとデートなんかしたくないし手も繋ぎたくないんだよ! 男同士の恋愛なんてキモイんだよ! 俺はあんなホモじゃない! あんな、あんな、何考えてるか分からない奴とぼくは違うッ!」
ハッ。
結構、戯言をベラベラ喋る屑だね。
あたしは鼻で笑った。
「それだったらあんただって同じじゃない」
「……は?」
「貧乏揺すりうるさくてすっごく迷惑してるしさ、昼食吐くのだって汚いしさ、何であんたみたいなキモイのに隆一くんが気に入ってんのかマジわかんない! あたしはね、あんたと隆一くんが手紙でやりとりするようになってからずーっと、どっちもどっちで、大っ嫌いだったのよ!」
屑の表情が目に見えて変化する。べそかいてやんの。あたしはいい気味になった。
「前にあたしの体操服にあんたの汚い精子こすりつけたのも、あんたでしょ?」
「違うゥッ!」
頭を抱えて悶えている。わっかりやす。
「股の部分が精子まみれのあたしの体操着、隆一くん嬉しそうにあたしに見せてくれたよ。『見ろ、裕一の精液だぞ』って。勿論あたしはキショ過ぎてドン引きしたけど」
「それは違うんだ! あいつがぼくに勝手に渡したんだ! だから、その……」
「で、ヌいたんでしょ? ヌいたからああなったんでしょ?」
この裕一とか言う名前の屑は、もうあたしを見ることすら出来なくなったみたいだった。あたしは彼の顔を両手で挟んで掴み上げ、お互いの眼の焦点を合わせ、にっこり微笑んで、言った。
「もういいよ。死ねよあんたなんか」
あたしは裕一のズボンに手を伸ばすと、パンツごと無理やり全部下ろして、勃起したペニスを取り出すと、それに一気にまたがり、そのまま身体を深く沈めた。
あっ……ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……あぁ……あぁ……ユキちゃん……あぁ……あぁ……あぁ……あっ……あっ……あぅ……あっ……ユキちゃん、ユキちゃん、ユキちゃんッ! あっ……あっあっあ……あっ……!
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