3-7 SC同盟

(ったく、あんな顔見せられたら、

 でしゃばりたくもなる)


自分の部屋に戻ったコーは自分のパソコンを立ち上げた。


いとこのケーから

『防音室用に買ったけど、思った以上に音がうるさい』

という理由でもらったもので、

ゲームをするにはちょうどいいものだ。


チャットアプリを開き

『SC同盟』と名前がついた会議室を開いて

メッセージを打ち込む。


「協力を求む。

 おれのクー姉ちゃんが悩んでいる」


「聞こう」

「緊急の依頼だね」

「コーから協力要請が来るとはな」


すぐに返事が来た。

それを見てコーはニヤリとして礼を打ち込む。


「さすがSC同盟の仲間だ。ありがたいな」


SC同盟はコーのゲーム仲間だ。

ジャンルは様々でそれぞれ担当分野はあれど、

新作がでれば情報交換をする。


「同盟だからな」


「コーは前に僕のお姉ちゃんから悪い虫を払ってくれたから、

 お礼がしたかったんだよ」


「『同盟の姉に関わる悩みは無条件に協力する』

 という盟約に従うだけさ」


アカオ、ショウ、モツは

それぞれコーのお礼に答えた。


このSCとは『シスターコンプレックス』の略だ。

これでは到底カッコつかないので略しており、

シスコンをこじられた四人以外に正式名称も盟約も話すことはない。


彼らの仲間意識にうなずきつつ、

コーは少し考えながら文字を打ち込む。


「姉の困っていることを解決するために、

 クー姉ちゃんのクラスメイトに『風井ナル』という

 先輩の情報または、

 このひととのコネを探している」


「その先輩、僕の家庭教師をしてるよ」

「マジか」


すぐにショウから返事が来て、

コーはチャットの文字と同じことを口にした。

ショウから弱気なチャットが飛んでくる。


「紹介できるけど、

 どういう理由でコーのこと話したらいいかは

 思いつかないな……」


「いきなり『姉の話を聞きたい』は不審だ」


「共通の話題で地固めするか?

 自分たちならゲームがあるが、

 その風井先輩は?」


アカオ、モツは自分のことのように話に乗ってくれた。

コーは話し合いの速さに負けないよう素早くタイピングする。


「ナル先輩は、

 おれの姉が配信してるASMRにハマってる。

 でもいきなり札を出していいか?」


「あ、そうなんだ。

 じゃあナル先輩が勧めてくれた動画って、

 コーのお姉さんなんだ。

 いい声だったよ」


コーはショウの言葉に、

姉を褒められて嬉しい気持ちと、

ショウが自分の姉に好意を持ったのではないか

という嫉妬みたいな気持ちが同時に湧いて、

顔をしかめた。


だがショウから素早く続きが飛んでくる。


「僕のお姉ちゃんも

 膝枕で耳かきとかしてくれないかなぁ、

 って思っちゃった」


「残念だが、

 動画みたいなのはされたことない。

 頼めば絶対してくれるだろうけど、

 おれの心が持つかどうか……」


ショウの羨ましそうな文を見て、

コーは安心してチャットを返せた。


さらにアカオとモツからも

羨ましそうなお気持ちがくる。


「姉ちゃんに膝枕か……いい」

「自分は優しく耳かきがいい」


「ごめんね、

 僕のせいで話が変なところに流れちゃった」


「いや、これでこそSC同盟だから、

 そこは気にしなくていい」


コーはむしろ仲間たちの

シスコンぷりに口元を緩めた。

アカオも気を取り直して聞いてくる。


「風井先輩から姉上のことを

 聞きたい理由を聞いていいか?

 いや、難しいなら話してくれないて構わないが」


「答えられるけど、

 込み入ってるというか、

 ちょっと変な話をする」


そう前置きしてコーは話を始めた。


ナルはクーのASMRでなぜか寝てしまうこと、

クーはそんなナルに色々なASMRをしていたこと、

なにかをきっかけにナルが

ASMRで寝なくなったのでクーが落ち込んでいること。


コーはその理由を調べるために

SC同盟を頼ったと話した。

アカオ、ショウ、モツはそれぞれの感想を書く。


「たまたま眠気がなかったか?」

「さいみんじゅつは命中六〇だから

 結構外れるし、同じようなものだと思う」

「相性の問題だったとか」


「いつものクー姉ちゃんだったら、

 三人の言うのと同じように考えたかもしれないな。


 だが、クー姉ちゃんは

 ランダム性のある原因じゃないと直感的に思ったから、

 落ち込んだとおれは思う。


 もちろんそれを調べたくて相談してるから、

 原因についてはおれも全く分からんが」


「腹割って聞くしかない」

「部屋に押しかけて『腹を割って話そう』するの?」

「拳で分かりあえるのは格闘家だろ」


「逆ならできそうだ」


三人の話を聞いてコーは素早く打ち込んだ。

意見に迷いはないので、

そのままの勢いで続きを書く。


「おれがナル先輩に家庭教師を頼めばいい。

 そうすれば自然と話をできる」


「だが姉上がいると向こうが

 腹を割ってくれない気がする」


「アカオの言う通りだな。

 そこはクー姉ちゃんが

 週一回のASMR収録でいない時間に

 来てもらえるよう調整する」


「もし予定より早く収録が

 終わっちゃうことがあったらどうする?」


「ショウの心配はもっともだ。

 クー姉ちゃんに機材とかを

 貸してるひとにお願いして、

 家庭教師の時間が終わるまで

 引っ張ってもらえるようにする」


「それでも風井先輩が話してくれない可能性もあるが?」


「そのときは、おれも腹を割る。

 シスコンを隠さずに話してでも、

 なんでナル先輩が

 クー姉ちゃんのASMRで寝なくなったのか聞き出す」


コーは捨て身覚悟と言わんばかりの

勢いでチャットを打ち込んだ。


実際それほどの覚悟がある。

大げさ、こんなことで男気見せるなと

別の自分が言いそうだったが、

自分はそれほどまでに姉のためになにかしたい。


ときにその意気込みは空回りするが、

それでもなお姉のためを思えば気持ちは衰えない。


「すごいな、コー」

「分かった。ナル先生に連絡取ってみるよ」

「うまくいくよう祈ってるぞ」


コーの意気込みが伝わったようで、

三人はそれぞれに応援や協力の言葉を伝えた。

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