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「私と手を組みませんか?」


 ロジェからの思いもよらない提案に目を見開いて驚いた。


 手を組む?自分の命を奪おうとした者に?意味が分らない。


「先日の一件を見て、聖女様よりも母親の方が危険だと言うのが私の見解です。どうも、あの母親はベルの事を忌み嫌ってる様です」

「は?母親?」


 ベルベットから聞いていた情報にない人物の登場にリアムは困惑していた。


 と言うか、何故あの女の母親がベルを嫌う必要がある?接点なんてなければ会ったこともないはずだ。


 リアムは必死にベルベットが関わり持った人物を思い出すように頭を巡らせたが思い当たる節が無く、何が何だか分からなくなっていた。


「あの二人からにベルをここから出さないようにしていたのですが……ベルの行動力を甘く見ていた私の失態です」


 ベルベットを監禁していたことをサラッと自白してくれたが、頭の理解が追いつかず呆然としていた。


「私はベルを傍に置きたい。貴方はベルを守りたい。利害は一致しているでしょう?」


 頬杖を付きながら不敵な笑みを浮かべている。


 この男が言っている事が本当ならば、ベルベットを守る為には手を組んだ方が有益なんだろうが、この男は色んな意味で道徳を疑う。


 なんなら今一番警戒している人物だ。


「悪いけど、お断り。ベル本人があんたと関わりを持ちたくないって言っている以上、僕があんたと手を組むことは絶対ない」


 こういう事は濁さずハッキリ言った方いい。主を守る為と言うならば、この男から守る事も必須。


「……ベルが私と関わりを持ちたくない……と?」


 リアムの言葉が信じられないとばかりに愕然としている。


 嫌われていると分かれば少しは行動を改めるだろうと思っての発言だったが、すぐにそれは間違いだった事に気がつく。


「……ふ……ふふ……あはははは!!!!まったくベルは私の気を引くのが上手いですね」

「──は?」

「戻って貴方の主に伝えなさい。『気を引くのは結構ですが、あまり私の心を掻き乱すのは宜しくない』と」


 ゾッとするほど冷ややかで淡々とした口調で話すロジェを見て、リアムの顔は引き攣った。


(マジで狂ってやがる……)




 ◈◈◈




 ──夢を見た……


 ジェフリーを攻略して喜んでいるがいる。


 その手には携帯が握られ、SNSで同士達と喜びを分かちあっているのだろう。


『は?裏設定!?何それ!!』


 飛び起き携帯を釘いるように見ているが、その内容までは分からない。


『マジかぁ~、やっぱりねぇ……まあ、こっちもこっちで嫌いじゃない』


 ニヤつきながら再度寝転がり、ゲームの画面を開いた。


(え!?ちょっと、裏設定ってなに!?そんなのあるの!?教えてよ!!)


 必死に叫ぶがこちらの声は届かない。そうこうしている内に視界は狭まり……


 ──ハッ!!


 勢いよく目を開ければ、そこは自室のベッドの上だった。


 先程の夢は、忘れかけていた前世の記憶だろう。


「……何なのよ裏設定って……」


 ここに来て更に頭を混乱させるワードが出てきて泣きそうになる。


 窓の外を見れば夜が明け、鳥達の元気の良い囀りが聞こてくる。ベルベットはゆっくりベッドを降りると、部屋のドアを開けた。


「なっ!?」


 そこにいたのはお互い向かい合って項垂れているネリーとリアムの姿だった。その様子があまりにも異様な雰囲気で、思わず声が出てしまった。


「ちょ、二人共どうしたの?」


 恐る恐る訊ねるが二人は下を向いたままで一言も喋らない。


(一体何があったの?)


「……僕さ、今まで色んな人間相手にしてきたけど、怖気立つ事なかったんだよね。だけどさ、初めてその恐怖心ってのが分かった気がする」

「私も。憧れるのはいいけど、遠くから眺める程度で下手に関わりを持たず憧れのままがいいって事に初めて気がついたわ」


 ようやく口を開いたが、話の内容がまったく理解できない。


「えっと~……何の話?」


 頬を人差し指で掻きながら問いかけると、二人の視線がようやくこちらに向いた。


「「………………はぁぁぁぁぁ~~…………………」」


 そして、同時に溜息を吐かれた。


「え?なになになに!?私、なんかしちゃった!?」


 呆れる表情を浮かべている二人に謝りながら何をしたのか教えてと懇願するが、更に頭を抱えてしまった。


「ホント、僕らの主は仕方ないねぇ」

「ええ。危なかっしくて目が離せませんよ」


 その目は幼い子供を見つめる親の様……


(本当に何があったの?)


 逆に気になるが、ここまで頑なに口にしないと言うことは、これ以上は追求するだけ無駄だと言うこと。

 仕方なく問い詰めることを断念したベルベッドを見て、二人も重い腰を上げだした。


「ああ、そう言えばあの聖女様、強制送還されるようですよ?」

「え?」


 ネリーの言葉に動きが止まった。


 シナリオではまだこの国に滞在してロジェとの仲を深めていくはずなのにおかしいとベルベットがネリーに詰め寄るが、ネリーも耳にしただけで詳しくは知らないと言っていた。


 大方、教会での一件が要因だとは思うが、ちょっと性急しやしないだろうか……

 まあ、聖女の面目を保つためには仕方ない事なのだろう。今回ばかりはシャノンの性格が招いた結果だと思う事にした。

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