30
その後、この国でのシャノンを支持する者は激減。それでも怒りの収まらない国民達は怒りの矛先を聖女を呼び寄せた国王に向け始めた。まさか自分に火の粉が降りかかるとは思いもしなかった国王は慌てて国民に謝罪し、シャノンの入国を一生涯禁じた。
「どいつもこいつも何なの!!!」
強制的に国に連れ戻される形となったシャノンとエリーザベトだが、城についてすぐ離れにある塔に入れられた。
塔の中は埃っぽく、明かりも蠟燭のみで薄暗くベッドも簡易的なもので寝心地が良くない事が見ただけで分かる。逃げようにも外から鍵がかけられており、内側から開かないようになっている。
「お前達の愚行は耳している。暫くの間そこから出ることを禁ずる」
ここに入れられる間に国王に謁見した際に言われた言葉がエリーザベトの頭を駆け巡る。
自分の思い通りにいかず苛立ちギリッと歯を食いしばる。
「お母様、その様に苛立っても仕方ありませんわ」
「この様な仕打ち黙っていられるわけないじゃない!!」
「落ち着いて下さい。私は聖女でこの世界を取り仕切る者なのでしょう?お母様がいつも言っていたではありませんか」
「そうよ!!こんなシナリオ有り得ない!!」
エリーザベトは「こんなのゲームに無かった」やら「ヒロインはシャノンなのよ」など爪を噛みながらブツブツ呟いている。
そんなエリーザベトをシャノンは冷静に見つめている。
「いいですかお母様。どんな物語も横道に逸れることはあります。けれど、どの物語も最後に笑うのは
エリーザベトの手を握りながら優しく問いかける。
「それに、私には王子であるヴィンセント殿下がいますわ。こんな所すぐに出してくれます」
「そ、そうね!!ヴィンセントはもうシャノンのものですしね」
シャノンの言葉にまだ挽回するチャンスがある事に気が付き、エリーザベトの顔が華やいだ。
そうは言っても不安は拭えない。
「……不安要素は早めに取り除かなきゃね……」
エリーザベトはそう呟くと、ある人物を呼び付けた。
◈◈◈
「荷物はこれだけ?」
大きな荷物を幾つも担いでリアムが言う。こういう時、本当にあの体のどこにそんな力があるのか不思議になる。
因みに今日は町から山中の家に戻る日。
短期の賃貸契約も終えるタイミングで戻る予定ではいたので、まあ予定通りと言えば予定通り。
この日を待ち望んでいたネリーは朝からフル稼働で休みなく働いている。そんな姿を見ながら、ベルベットも荷造りを手伝っている。
「そうね。これだけと言うけど、来た時より倍ぐらいには増えてるわよ?」
「当たり前じゃないか。あんな山奥からここまで来るの結構大変なんだよ?しばらく来なくていいように買いだめしたんだよ」
「いや、けどね、これは流石に全部持てないでしょ……?」
リアムの前には大きな荷物の塊が四つ。更にリアムの腕に三つ。いくら力に自信がある者でもこれは持てない。
「大丈夫。こんな時の為に、荷車用意してるから」
満面の笑みで言うものだから、気になって窓を覗きこんで驚いた。
「なっ!?」
そこにいたのはモフモフの白い毛で覆われた大きな狼、ヨルグだった。
「リアム!!
「知ってるよ?荷物運んでくれるから荷車と一緒でしょ?」
キョトンとしているリアムに頭が痛くなった。
荷車かどうかはさて置き、神格持ちの狼に荷物持ちなんて有り得ない。罰当たりだと罵られても不思議じゃない。
『ベルよ。我は進んでここへ来たのだ。そこの小僧の言うことには不満はあるが、まあ目を瞑ろう』
外からハスキーな声が聞こえた。
耳の良いヨルグはベルベットとリアムが口論しているのが聞こえ、声をかけて来たらしい。
「……貴方が納得しているのならいいけど……一体どういう風の吹き回し?リアムとは馬が合わなかったんじゃないの?」
窓に身を乗り出し問いかけてみた。
『それに関しては否定はせん。まあ、
伏目がちに言うヨルグの意図を汲み取るならば、ロジェの暴走を止めれなかったのは自身にも非があると思っての事だろう。
正直ヨルグは悪くはないが、こうして手伝いに来てくれたのだから遠慮するのはヨルグにも失礼だ。
「じゃあ、申し訳ないけど頼んでいいかしら?」
『あい、承知』
ベルベットが頼むと、嬉しそうに大きな尻尾をふりなが応えてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます