18
「ん~と、ベルの話を纏めると、ここはゲーム?の世界ってやつで、ベルは元々この世界の人間ではなかったと。更にこの世界にはヒロインと悪役令嬢が存在して、その悪役令嬢がベルで、ヒロインがあのいけ好かない聖女って事?」
「このままだとお嬢様がより重い罰を受けることになるって事ですよね?」
二人は黙って最後まで聞いてくれ、自分達なりに解釈しようとしてくれていた。
「正直、にわかには信じ難い話だよね」
「そうですね……私もお嬢様がお嬢様でないとは、ちょっと頭が混乱してます」
当然の反応を示しながら怪訝な顔でベルベッドを見つめていた。
「急にこんな話をしてごめんなさい。けど、ロジェルートが解放されようとしている今、私だけでは解決方法が見つからないのよ」
目を伏せ、今にも消えそうな声で訴えた。そんな様子を見た二人は、互いの顔を見返し溜息を吐いた。
「まあ、ベルの雰囲気が変わったのもその頃だし辻褄は合ってるよね。あの二人から逃げたい理由もそれなら納得いく」
「結論から申しますと、お嬢様はお嬢様です」
そう言って笑顔を見せてくれた。この二人が自分の元にいてくれて本当に良かったと改めて実感すると共に胸が熱くなり、泣き出しそうになってしまった。
「ほらほら、泣いてる暇ないよ。ベルの言ってる事が本当なら、ルートとやらが解放されちゃうんでしょ?」
「それ、どうにか阻止出来ないんですか?」
「あ、じゃあ、僕が聖女殺っちゃう?あいつ、ムカつくし」
俯いているベルベッドの耳に聞こえてきたのはそんな会話。リアムが言うと冗談に聞こえないから本当にやめて欲しい。
ここまで来たらロジェルートは回避不可能。だが、ゲームの内容と違うのは
本来はシャノンが国に戻った所でベルベッドがシャノンを虐げ、その場面をロジェが目撃すると言うシナリオだが、まずそのシナリオが破綻している。
「ふ~ん。じゃあ、そんなに心配する必要なくない?」
「甘いわよリアム。ゲームには補正力っていう摩訶不思議な力が加わる事が稀にあるのよ」
両肘を机の上に立て、両手を口元で組みながら伝えた。
「ん~、僕はそのゲームとやらの中身も補正力ってもよく分かんないけど、もしも仮にだよ?ベルが言った通りの事態になっても、あいつがベルを罰する事はないと思うよ?」
「あ、それは私も思ってます。なんなら、聖女様に靡くこともなさそうな感じですけど……」
リアムとネリーは互いの意見に同調するように頷いている。この二人はゲームの本当の恐ろしさを知らないから、そう構えていられるのだ。
今まさに、現在進行形で補正力がかかっている状態だと何故気付かない!!
テーブルの上で拳を握りしめて俯いているベルベッドの頭にポンとリアムが手を置くと、そのままワシャワシャと撫で回してきた。
「まあ、話は分かったよ。とりあえず、僕が様子を見てくるから。ベルはこの部屋から一歩も出ない事。いい?」
そう言うと窓から出て行ってしまった。リアムが出て行った窓から外を覗けば町の人らが喜び浮かれ、祭りのように賑わっている様子が見える。出店も沢山出ていて部屋の中にいても香ばしい匂いが漂ってきて、鼻と目に非常に悪い。
ベルベットとて、こんな状況でなければ一緒になって騒ぎたいと思う気持ちはある。そんなベルベットの気持ちを察したのか、ネリーが声を掛けてきた。
「お嬢様、少し待っていてください。町には出れませんが、食べることはできますからね。私が何か買ってきますね」
財布を手にしながら任せろと言わんばかりの顔で言っている。
「そうね。けど買い過ぎは駄目よ?」
眉を下げながらネリーに伝えると「わ、分かってますよ」と少し焦ったように言うものだから、思わずクスッと笑みがこぼれた。
「では行ってまいります!!」
ネリーが元気よく出て行くのを見送ると、再び窓際で外の様子を眺めることにした。実際に行けずとも眺めていれば少しは行った気になれるというもの。
(女将さんが言うにはシャノンがこの国に到着するのは明日だと言っていたな……)
まだ一日猶予があるとベルベットは完全に警戒を怠っていた。
(……ん?なんだ?)
悲鳴に似た女性達の声が聞こえ、気になったベルベットは少し身を乗り出して様子を伺っていると、バチッと悲鳴の正体であろう者と目がかち合った。
(…………………………)
「…………………………」
一瞬、二人の間に時が止まったかのような時間が訪れたが、正気に戻ったベルベットが素早く身を隠した。バクバクと高鳴る心臓の音がうるさいぐらい耳につくが、まったく気にならない程ベルベットは狼狽えていた。
「な、なんで……!?」
中々現実を受け止められずにいたが、理解できているのはここからすぐに逃げなければという事だけだった。
(ネリーにはリアムがいる大丈夫)
私がいなくなって騒ぎになるかもしれないけど、察しのいいリアムなら分かってくれる。
ベルベットは何も持たずに、この部屋から一刻も早く出る事だけを考えてドアのノブを手にした。
「どこへ行く」
ドアを開けた瞬間、ドクンと胸が波打った。そこには見目麗しい騎士が地を這うような低い声でベルベットを見下ろしていた。
「……あ……」
逃げれないと分かったベルベットは顔面蒼白になりながら、出来るだけジェフリーから距離を取ろうとふらつく足でゆっくり後退った。後ろ確認しないまま後退ったものだから、テーブルにぶつかり態勢を崩してしまった。
「危ない!!」
床に叩きつけられると思ったベルベットだったが、間一髪の所でジェフリーに助けられた。
「本当に貴女は危なっかしいな」
そう言いながら体を起こしてくれた。その表情はどこか柔らかく、今までのジェフリーとは違って見えた。
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