第6話 妄想に悩まされる男子 

「あんっ……駄目、そこは……弱いの……ハァァ……」


 俺もチャミも裸だった。


 月明かりに照らされたチャミの裸は、手軽にネットで見たどの裸の写真よりも生々しく、美しかった。


 「女の人の胸ってこんなにも綺麗で柔らかくて、神秘的なんだ……いや、これはチャミさんの胸だからたよね?」


「もう……ルール通り褒めてくれるのは嬉しいけど……感想をまざまざと言われると恥ずかしいから……」


 チャミはこれ以上声が出ない様にタオルを口にあてて、我慢しているのが分かる。


「ハァァァ……もう我慢出来ない、来て……」


「来て? えっ、どういう意味?」

「どうしたの? 早く! 早く!」


「いや、ちょっとチャミさん。どういう意味?」


「はー? テメー、そのつらで童貞か?」


 目の前のチャミさんの顔がだんだん高山の顔に変化していく。



「うわぁぁぁーー!」


 身体が大きくビクッとして目が覚める。


 夢か……


 あっ……やってしまった……


 パンツに違和感がある。

 それに右手が痺れて感覚が無い。

 右を見るとずっしりと乗っかるチャミの頭が見える。

 寝る時は腕枕をする事。それがチャミのルールだった。


 パンツを変えよう……

 それに喉乾いた……


 そっとチャミの頭を枕の上に置き、脱衣所で新しいパンツに穿き替える。古いパンツは手洗いして証拠隠滅し、洗い場に突っ込んだ。


そして、キッチンまで歩いて冷蔵庫を開け、コップにお茶を入れて一気に飲む。


 ふー……


 三日連続で同じ様な夢を見た。

 原因は分かってる。

 隣に裸のチャミさんが寝ているからだ。


 どんなにカッコつけて平静を装っても、所詮は16歳の童貞。

 性欲はあるし、いつ暴発してもおかしくない。


 夢はいつもセックスをする前に終わる。

 原因は分かっている。俺が童貞でその先がイメージ出来ないからだ……


 でも、目標を達成したら俺はチャミさんと……


◆◇


 「んー、おはよう…… 後無君もう起きてたの?」


 チャミが目を擦りながら上半身を起こす。

 掛け布団を胸にあてて見えない様にしているけど、朝から刺激が強い。


「洗濯物が溜まっていたから……先にある洗濯しておこうと思って……」


 本当は違うけど……


「あっ、そうだ。今日はね、私の後輩が三人遊びにくるからよろしくね❤️ 後無君を見たいって言うから呼んじゃった、テヘッ」


 チャミはペロッと舌を出しておどけて見せた。


「えっ? じゃあ……部屋を片付けておかないと。チャミさん、何時に来るんですか?」


「えーっとね、11時頃だったかな?」


 今は10時17分。もうすぐじゃないか? 

 チャミさんのんびりしすぎだよ。


◆◇


 ピンポーン


 部屋のチャイムが鳴る。このマンションはセキュリテイが万全のオートロック付マンション。モニター越しにチャミが応答してロックを解除する。

 

「後無君、私は化粧するから三人が来たら開けてあげてねー、ふぁーあ」


 チャミはアクビをしながら部屋に入って行った。


 程なくして扉をノックする音が聞こえたので、部屋へ招き入れようと扉を開ける。


ガチャ


?!


 目の前の光景に言葉を失う。

 制服を着たギャルの三人組が目の前に立っていた。


「うわっ、本当に超イケメンじゃん!」

「チャミさん、本当にイケメンを飼ってたんだ」

「へー、イケメン、いいないいなー!」


 三人が好き勝手に話し始めた。


「あっ、どうぞ」


 ラチが開かないので三人を部屋の中へ入れる。


「「「お邪魔しまーす」」」


 三人揃ってハモる様に喋る。


「チャミさーん、来たよー。あれ? チャミさんは?」


「今、化粧してる……みたいです」


 それにしても……女子高生みたいだけど、学校はどうしたんだろう? 

 三人は好き勝手に部屋の中をグルグル探索して、窓を開けて外を眺めたりしていた。


「お待たー」


「あっ、チャミさんこんにちわー」


 チャミが部屋から出てくると、三人はチャミの元へ駆け寄った。


「後無君、紹介するね。お店の後輩で……」


「リナでーす❤️ 」

「モモカでーす❤️」

「アイでーす❤️ 」


 チャミが紹介する前に、三人共、目元でピースをして自己紹介をした。


「ええと……不破後無です」


「ノリ悪いね……」

「うん……超ノリ悪い」

「てか、つまんなーい」


 三人がコソコソ喋っている。


「ハイハーイ。お互いの自己紹介は終わったね。後無君、彼女達に今日来てもらったのはね、女子高生に慣れて貰うために連れてきたの」


「でも……この娘達、学校は?」


「あー、この娘達19歳だから。コスプレしてもらってるの」


「チャミさーん、私達、一年前までは女子高生だったんだよ? まだまだ女子高生で通じるよねー」


「「ねー!」」


「リナ、モモカ、アイ。あなた達のミッションはこの男の子を今時のモテる男子校生に仕立て上げる事」


「おっけー、任しておいて! 後無、私達の事、”姉御”って呼んでいいから!」



 俺は三人から言葉遣い、女の子への接し方について駄目出しされ、強制的に矯正されることになる。


 チャミさんが仕事やアフターで居ない時はこの三人組の内の誰か一人と必ず制服デートをさせられた。


◆◇


「後無君、ちょっと出掛けようか?」


 追い込まれている俺を見かねてか、チャミが気を遣って声を掛けてきた。


「何処に……行くんですか?」

「……」


 一緒に外に出ても、チャミは黙ったまま先を歩くので、俺は黙って付いて行くしかなかった。


「後無君、ここに入っていいかな?」


 チャミが指差す方を見ると絵画展だった。

 

 チャミは俺の分の入場チケットも一緒に買い、俺はチャミに手を引かれて中へ入った。


 初めて入る絵画展に若干緊張しながら辺りを見回す。来場者は静かに展示された絵画を鑑賞している。


 チャミも同様に一つ一つ飾られた絵画を静かに鑑賞しているので、俺も黙ってチャミさんの隣で鑑賞する。


「後無君、私、この絵画が好きなの。フェルメールの有名な作品なんだけど」


「そうなんですか……」


 何処かで見たことがある様な無いような絵だ。


「実は私ね、教員免許持ってるんだよ? ねぇ、この絵画を見てどう思う?」


「え? 良く分からない……ですけど、構図とか、雰囲気とか……色合いとか……凄く良いと思います。さすが、展示される位の絵画だけありますね……」


 突然のチャミの質問にしどろもどろになりながら誠実に答える。


「そっか……」


「チャミさん、俺、何か悪い事……言いました?」


「ううん。実はこの絵画ね、贋作がんさくなの」


「贋作?」


「贋作はね、人を騙す意図で造られる偽物の事を指すの……まるで私達みたいに……」


「え?」


「でもね、気付かれなかったらそれは紛れも無く本物なの。現に、後無君はこの絵画を凄く良いって言ってくれたじゃない?」


「確かに……」


「私ね、偽者なら偽物らしく演じたら良いと思うの。そうしたら恥も外聞も無く突き進める事が出来るよね?」


「でも……そんな簡単には……」


「私は出来たよ?」


「え?」


「周りが本物だと思えば、それは紛れも無く本物になる……後無君なら絶対出来るって信じてるよ?」


「チャミさん……」


「あんまりプレッシャーかけるのも駄目だね? 行こっか!」


 チャミさんは俺の手を引いて絵画展を出た。


 偽者なら偽者らしく演じればいいか……


 チャミさんは俺なら出来るって信じてくれてるんだ……やってやる!


 チャミさんのこの言葉が深く胸に刺さり、これからの俺の行動に大きく影響を与える事になった。



———2週間後


「リナ、サンキューな!」

「モモカ、お勧めのスイーツまた教えてよ!」

「アイ、今思えばお前の毒舌的確だったよ」


「うぇーん、後無ー、お別れなんて寂しいよー」

 三人は俺に抱きついて泣いて来た。


「姉御、またデートしような!」


 何だかんだで、俺の為に貴重な時間を割いてくれた三人には感謝してる。 


 チャミが外まで見送るから後無は玄関まででいいと言われ、俺は渋々三人を玄関で見送った。



「チャミさん、後無に一体どんな魔法を掛けたの? まるで別人の様に変わったよ?」

 モモカがチャミに質問する。


「さぁ? 私は何もしてないよ?」

 キョトンとした顔でチャミは答えた。


「あー、チャミさん、まさか後無の童貞奪ったとか?」


「ふふっ、な・い・しょ」


「でも、後無は凄いよ。飲み込みが早すぎて怖いくらい……」

 アイがボソッと喋る。


「うん……私達だって沢山の男客を相手に接客してきたプロだけど、後無を相手にしているつもりが逆に相手にされている時が有るよね?」


「「私も感じた」」

 リナもモモカもアイが感じた事に同意した。



 チャミさんとの生活で女慣れをし、この三人組の駄目出しで、人格矯正されながら不破後無という男は作り上げられていった。

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