第17話

 月の綺麗な夜だな。


 なんて柄にもない事を思いながら、俺はいつもの場所に向かった。

【走らずの道】。

 会が終わるといつも俺はひとりであの場所に向かう。

 白楽はくらが居なくなってしまったあの場所に。

 あれから少し経った頃だろうか、誰も居ないあの場所から、時折バイクの音が聞こえて、偶に突然少年が乗ったバイクが姿を現す事があると、噂で聞いた。

 きっと白楽だ。

 そう思った俺は、何度も足を運んでみた。もちろん、白楽に会いたかったからだ。

 だが、全て空振り。

 姿は愚か、俺には何の音も聞こえなかった。


 それでも、今日こそは、なんて思ってしまう。

 今日は白楽の5回目の命日だし、月も妖しいくらいに光っているし、何かが起こりそうだと俺の勘が告げていた。


 なぁ、白楽。

 お前は俺のどこが好きになったんだ?

 こんな、人と繋がる事を諦めて陰キャの仮面を被ってひっそりと生きていた俺を表舞台に引っ張り上げておいて、おまけに告白までして、放り出していなくなるなんて、酷いじゃないか。

 ある意味最高の嫌がらせだぞ?

 もしかしてお前は、本当の俺に気づいていたのか?

 陰キャの仮面の下の俺に。

 本当は、人と繋がりたくて、人が恋しくて、でも傷つくことを怖がっていた俺に。

 聞きたい事なんて山ほどあるのに、もう、何にも聞けやしない。

 それに、告白の返事だってできやしない。

 ……まぁ、返事は今でも考え中なんだけど。

 良く分からないんだよ。

 お前の言う「好き」って、なんなんだ?

 あぁ、分かってる。

 人が人を好きになるのに性別や年齢なんて関係無いって、俺は思っているから。

 だけど、お前は俺をどう「好き」だったんだ?

 あれは、あのキスは、そう言う意味だったと受け取っていいのか?

 こんな俺を、お前は本当に好きだったというのか……それは、何故?

 それに、お前のあの事故。俺の事が絡んでいるんだろう?

 なぁ、なんであんな場所なんか走ったんだよ。そんなことしたって、何かが変わる訳でも何でもないことくらい、頭のいいお前なら分かっていたはずだろう?

 それともお前はそんなにも、命を賭けられるほど、俺の事が好きだったっていうのか?


 教えてくれ、白楽。

 今すぐ、ここに姿を現してくれ。

 幽霊でもなんでもいい。

 俺はお前に、もう一度会いたい。

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