Side 篠 千景

第11話

 今年もまた、白楽はくらがいなくなってしまった日がやってくる。

 今年で5回目。

 忘れたい、忘れられない、忘れてはいけない、忘れる事なんて一生できない。

 だから、大毅だいきには感謝している。

 いつも声を掛けてみんなを集めてくれて。

 この日をみんなで過ごす事ができれば、ほんの少しだけ気持ちが軽くなるから。

 まるでここに、白楽も一緒にいてくれるような気がして。

 彼が-私を許してくれるような気がして。


 大毅も美也子みやこ永嗣えいじも私も、白楽がいない寂しさを、こうして集まることによって埋めている。

 そんな気がするの。

 みんな白楽のことが好きだった。陽キャで行動力があってグイグイみんなを引っ張ってくれていた白楽を。

 ねぇ、でも知ってる?

 白楽にだって悩みがあったってこと。

 知っていたのはきっと、私だけ。

 それなのに私、彼を応援する振りをしてずっと嫉妬してた。

 運命というものがもし変えられるのなら、あの日、白楽じゃなくて私が消えてしまえば良かったのに。どこをどう変えれば、そんな運命になるのかは分からないけれど。


「もし白楽がいたら、今頃何してたんだろうな」


 相も変わらず同じ言葉を、大毅は今年も繰り返した。


「バイクが好きだったから、レーサーとかになってたんじゃないかな」


 そしてこちらも、相も変わらず同じ答えを、美也子が口にする。

 私はと言えば、心の中にいつでも答えはあった。多分、これが正解。でも、言えない。


 白楽がいたらきっと、今頃永嗣と一緒に楽しく暮らしているんじゃないかな、なんて。


 チラリと永嗣を見ると、「どうだろうな」なんて曖昧な言葉で濁したりして。

 まぁそうだよね。永嗣には、それぐらいの事しか答えられないよね。



 私ね、白楽。

 あなたが永嗣の事好きだってこと、知ってたよ。

 だけど、私はあなたが好きだった。

 あなたの恋愛対象が男だって打ち明けてくれた時はビックリしたと同時にショックだったの。

 だって、その時私は既にあなたが好きだったから。

 千景、千景って、いっつも笑って私に色々な話をしてくれる白楽が大好きだった。

 陽キャの仮面を被って人知れず悩んでいた事、教えてくれて嬉しかったけど。

 同時に私はあなたに失恋してしまったの。

 そのことに、あなたは気づいてもいなかったでしょう?白楽。

 だから私も、あなたの前では陽キャの仮面を被ることにしたの。

 あなたへの恋心を押し殺して。


 あなたはきっと、誤解してたよね、白楽。

 私が永嗣の事好きなんじゃないかって。

 そう仕向けたのは、私なんだけどね。まんまとひっかかってくれてありがとう。

 まぁでも、私が永嗣に興味があったことは事実。だって、永嗣はあなたが好きになった人だから。どんな人か知りたくなるのは当たり前でしょう?

 あなたが永嗣のどこに惚れたのか、ものすごく興味があった。

 と同時に、常に嫉妬してたの、永嗣に。

 だって、私は逆立ちしたってなにしたって、永嗣になることはできないし。

 あなたの事、永嗣に取られてしまったように思えて。

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