第10話

 そんな思考に耽っている間に、いつの間にか千景ちかげが教室に戻って来ていた。

 気づけば、自分の席で机の上に突っ伏している。そんな千景の姿は珍しい。

 何かあったのかと思っていると、白楽はくらが教室に戻ってきた。

 なんだか、楽しそうな笑顔を浮かべて。

 対して、少し遅れて戻ってきた永嗣えいじは、どこかぼんやりとした顔をしていた。


 3人の姿は、明らかに不自然だった。

 僕たちよりも距離感が近い3人が、敢えて距離を取っているような、そんな感じ。

 同じように不自然さを感じていた美也子みやこと一緒に、白楽のところに行って「何かあったのか?」と尋ねてみたが、返ってきた答えは「別に」だけ。

 それ以上は聞いてくれるな、という答えにも聞こえて、僕はそれ以上の追究を諦めた。

 きっと翌日には元に戻っているだろう。そんな風に安易に考えていた事は否めない。


 だがその日。

 白楽はこの世を去ってしまった。


 白楽はあの日、屋上で永嗣と何を話していたのか。

 千景はきっと、それを知っているはずだ。

 だが、5回目になる今年の白楽の命日の会でも、千景も永嗣もそのことには一切触れようとはしなかった。


 いつかは話してくれるのだろうか。

 それとも、ずっと言わないつもりだろうか。

 いや。

 言えない何かがあるのだろうか。

 だとしたら僕はそこに触れることは叶わないのだろうか、永遠に。


 美也子、君はそれでいいのか?


 僕の視線を感じたのか、美也子が僕へ顔を向けてくれる。

 その笑顔が僕には眩し過ぎて……僕は思わず視線を逸らせて俯いてしまった。


 白楽を想い続ける君が好きだ。

 白楽への想いも含めて、君を丸ごと受け入ることができるのなら。

 でも、そんなのは綺麗ごとだ。受け入れたところできっと僕はいつか、君の中にいる消えない白楽に嫉妬してしまうだろう。

 そんなのは、嫌だ。

 僕は、美也子のことも白楽のことも好きなのだから。

 ああ、もしも叶うなら、この想いごと全て消してしまえればいいのに。

 いっそ、君の白楽への想いになんて、気づかなければ良かった。

 ……せめて、気づかない振りを貫けるほどに、器用な人間ならば良かったのに。

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