第12話
私はバイクの免許は持っていない。
だけど、兄が免許を持っていて、よくライダー仲間が兄の部屋に集まっていた。
年が離れていた兄は私の事を可愛がってくれていたから、ライダー仲間にも紹介して集まりに混ぜてくれて、だからライダー仲間内での噂話もよく耳にしていた。
その噂話の1つに、恋愛にまつわるものがあった。
『隣町まで行く道の途中にある脇道、【走らずの道】。好きな人に想いを告げた後その日のうちに無事バイクでその道を走りきることができたら、その想いは永遠に相手の心の中に宿る』
「なにそのロマンチックなお話!」
青春真っ只中な女子高生の私が食いつかないはずが無い話だ。もちろん私は食いついた。
すると、兄のライダー仲間は言った。
「確かこの話って、告白後に気持ちが
私はちゃんとこの話を聞いていた。
聞いていて、敢えて
数日後、白楽と二人きりになったチャンスに、私は白楽に言った。
「ねぇ、知ってる?隣町まで行く道の途中にね、【走らずの道】っていう脇道があって、好きな人に想いを告げた後その日のうちに無事バイクでその道を走りきることができたら、その想いは永遠に相手の心の中に宿るって。ライダーの中では有名な話らしいよ?遠くからもわざわざ走りにくるライダーが居るんだって」
白楽がバイクの免許を取ってバイク通学をしていることを、私は知っていた。
さぁ、白楽。あなたは、どうするの?
心臓が口から飛び出しそうなほどにドキドキしていた。まるで告白でもしているみたいに。
「知ってるよ。なに、オレに
白楽は、ニヤッと笑って私を見た。
「さぁ?どうでしょう?」
私も負けじと笑い返した。
やれるものならやってみれば?
そんな思いがあったのは確かだ。
でも、白楽がそんな事をするはずが無いとも、心のどこかで思っていた。
だって、相手はあの永嗣だ。
同性への恋愛感情がオープンになり始めた世の中とは言え、まだ根強い反対論や偏見が存在しているのも事実。それに、百歩譲って白楽が永嗣に告白をしたとして、永嗣が白楽の恋愛感情を受け入れるとは私には思えなかった。なぜなら、白楽に対する永嗣の態度には、恋愛感情的なものは感じられなかったから。私が気づいているくらいだから、白楽自身だってきっと気づいていたはず。
こんな状態で白楽は、そこまでの賭けに出るだろうか?
「でも、やるなら気を付けなきゃダメだよ。あそこ、けが人も出ているし、亡くなった人もいるって話だから」
ふと不安になって、慌てて言葉を付け加える。
もし万が一白楽が永嗣に告白をしたとしても、その後【走らずの道】で何かが起こっては大変だ。
「気を付けるべきは、そこか?」
「まずは命が大事。当たり前でしょ」
自嘲気味の白楽に、私は殊更陽気な笑い声をあげた。
自分の不安を吹き飛ばすように。
そう。
私は陽キャなんかじゃない。
ただ、陽キャの仮面を被っているだけの、卑怯な臆病者だ。
だからそんな目で見ないでよ、白楽。
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