第3話

 千景ちかげあおられた翌日。

 オレは昼休みに永嗣えいじを屋上に呼び出した。


「ちょっと屋上に来てくれないか。話がある」


 コッソリと、耳打ちして。

 その耳打ちの時から既に、オレの心臓は爆発しそうな勢いで胸を叩いていた。緊張で頭もクラクラしていた。


白楽はくら、大丈夫か?」


 フラリとよろけそうになる体を、永嗣の手が支える。


「大丈夫だ」


 永嗣が触れた部分が熱く感じられ、そっけなく永嗣の手を振り払うと、オレは先に教室を出て屋上へと向かった。

 千景は運よくどこかに行っていて居なかった。

 その場にいたのは、美也子みやこ大毅だいきだけ。二人ともキョトンとした顔で、オレと永嗣を見ていた。

 この二人は絶対に気づいていないに違いない。オレの、永嗣への想いを。

 二人とも一歩引いて周りの人間を冷静に見ている。深入りはしない。そんな奴らだったから、オレはこの二人との関係も気に入っていた。


「白楽」


 少し遅れて永嗣が屋上に到着した。

 永嗣が来る前にぐるりと屋上を眺め、他に人が居ないことは確認している。

 もう、昼休みも終わり間際の時間だ。だからこの時間を狙って永嗣を呼び出した。

 その永嗣が、ゆっくりとオレの方へ歩みよってくる。

 オレより少し背の高い永嗣が、出会ったあの日と同じ目を、真っすぐにオレに向けて。


「なんだよ、こんなとこに呼び出して。話なら教室で」


 体が自然と動いていた。

 永嗣に近づき、気づけばその唇に唇を重ねていた。

 ほんの一瞬の出来事。

 永嗣は驚きの表情を浮かべてオレをガン見していて、思わずオレは笑ってしまい、笑顔のままで永嗣に想いを告げることができた。


「俺、永嗣が好きだ」


 その時、永嗣の後ろで構内へと戻る扉が開きかけた。

 扉の隙間からチラリと顔を覗かせたのは、千景だった。

 物音に気付いたのか、振り返ろうとする永嗣の顔を、オレは両手で挟み込んで前を向かせた。

 前を-オレの方を。

 そして再度、口づけた。


「好きだ、永嗣」


 相変わらず、永嗣はポカンとした顔をしてオレをガン見している。

 少なくとも、拒絶はされていないと感じて安心したオレは、何故だか腹の底から笑いがこみあげて来た。

 既に、扉は閉じている。千景はきっと、あのまま戻ったのだろう。

 もしかしたら、オレが永嗣にキスをしている所も、見たかもしれない。

 見ていなかったとしても、オレの永嗣への告白の言葉くらいは、聞いたかもしれない。


 悪いな、千景。

 永嗣は渡さない。

 後は、この想いを永遠に永嗣の中に宿らせるだけだ。


 呆けたままの永嗣をその場に残し、オレはゆっくりと構内へと戻った。

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