第2話

 もしかして、永嗣えいじ千景ちかげが好きなのか?


 気づいてからは、胸の中には常にモヤモヤとした嫌な感情があった。

 嫉妬だ。

 オレは千景に嫉妬していた。

 そのうち千景に永嗣を取られてしまうかもしれないという、恐怖にも似た感情も湧きおこってきた。

 それを表面上は出していないつもりだったが、千景には見抜かれていたのだろう。

 千景と二人きりになったある日、彼女はこんな事を言って来た。


「ねぇ、知ってる?隣町まで行く道の途中にね、【走らずの道】っていう脇道があって、好きな人に想いを告げた後その日のうちに無事バイクでその道を走りきることができたら、その想いは永遠に相手の心の中に宿るって。ライダーの中では有名な話らしいよ?遠くからもわざわざ走りにくるライダーが居るんだって」


 千景の話は、うっすらと聞いたことがあった。

 オレは16歳になってすぐにバイクの免許を取り、今じゃバイク通学だ。千景はもちろん、そのことを知っている。

 千景はものすごく勘がいい奴だ。だからきっと、オレが永嗣の事を好きなことにも、気づいている。

 気づいていて、あおっている。

 そう、感じた。


「知ってるよ。なに、オレに実践じっせんしろとでも言うつもりか?」

「さぁ?どうでしょう?」


 含み笑いで千景がオレを見る。

 こういう時の答えは、YESに決まっている。

 千景は、そういう奴だ。

 俺の勘ではおそらく、千景も永嗣が気になっているはず。なのに、オレを煽るという事は、ある意味宣戦布告のようなものだろう。


 できるもんならやってみろ。

 永嗣は渡さない、と。


 千景はおかしな奴で、オレが男にしか興味が無いことを知りながらも、これっぽっちもおかしいなどと思っていない。

 それどころか、おかしいと思う方がおかしいと、きっぱりと言い切る。

 だからオレは千景が好きなんだ、人として。

 だけど、それとこれとは話が別。永嗣の隣は千景にだって譲りたくはない。


 永嗣はどうだろうか。

 オレを、受け入れてくれるだろうか。


「でも、やるなら気を付けなきゃダメだよ。あそこ、けが人も出ているし、亡くなった人もいるって話だから」


 千景に言われるまでもなく、オレだってそんなことくらい知っている。


「気を付けるべきは、そこか?」

「まずは命が大事。当たり前でしょ」


 カラカラと陽気な声で、千景は笑った。

 千景は、そういう奴だった。

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