ゴースト

平 遊

Side 明暗 白楽

第1話

 照井てるい永嗣えいじとは、高校入学後に出会った。

 運命の出会いと言っても過言ではないだろう。

 オレは小さいころから男ばっかり好きになった。いつだって、惚れる相手は男だった。

 小学校高学年になって周りの男友達が色気づいて恋バナに花を咲かせるようになり、やれ、何組のなんとかチャンが可愛いの、いや、何組の何とかさんが綺麗だのとワイワイ騒いでいる中で、オレは一人取り残されたような気になったものだ。


 もしかしてオレはおかしいのか?

 ちがう、きっとまだオレは好きな人が居ないだけだ。

 いいなと思う男は、きっとただの憧れ。可能であれば自分もこうなりたい、という憧れに違いない。


 永嗣と出会うまでは、自分自身をそう誤魔化せていた。

 だけど、永嗣と出会った瞬間に、オレは自覚してしまったんだ。

 永嗣への、恋心を。


「あぁ、悪い。大丈夫か?」


 廊下ですれ違って肩がぶつかり、よろけてしりもちを付いた時に掛けられた言葉。差し伸べられた手。

 その時、悪かったのはオレの方だった。狭い廊下を塞ぐような形で仲間と並んで歩いていたのだから。

 それなのに、ひとりで端を歩いていた永嗣はオレに謝りながら、オレを気遣いながら、当たり前のように手を差し出してきた。

 心配そうな顔でまっすぐに、オレを見ながら。

 あの時の永嗣の目は、今でも心の中に焼き付いている。


 もしもオレの心というものが今でも存在するのならば、の話だが。


 もしかしたらあの時既に、オレの心は永嗣に捕らわれてしまったのかもしれない。

 寝ても覚めても、考えるのは永嗣の事ばかり。

 これはもはや、憧れ、などという言葉で誤魔化せるような感情ではない。

【恋はするものではなく落ちるもの】とは、なるほど上手い表現だ。オレはこの表現の通り、永嗣への恋にストン落ちてしまったんだ。

 翌年、同じクラスになった永嗣は、オレとの出会いなどすっかり忘れていたようだったが、構わず付きまとって半ば強引に仲間に引き入れた。

 当時よくつるんでいた仲間、在原ありはら美也子みやこ伊津いづ大毅だいきしの千景ちかげも、すんなりと永嗣を受け入れてくれた。


 一緒に居たい。

 永嗣と同じ時間を共有していたい。


 当時はその想いだけが、オレを突き動かしていたように思う。

 気づけば目は永嗣の姿を追っていたし、暇さえあれば永嗣の隣を占領していた。

 あまり人と群れる事を好まない永嗣だったが、拒絶されているようには感じなかった。

 だから安心して永嗣の隣を独占していた。


 だがある時ふと気づいた。

 永嗣の視線の先にいる人物の存在に。

 それはもちろんオレではなくて、いつもつるんでいる仲間のうちの1人。

 篠千景。

 千景とオレは中学も同じで1年の時も同じクラス。

 オレも陽キャだが千景も陽キャで、好みや感覚が似通っていて話していて楽しいしラク。だからよくつるんでいた。

 永嗣はどちらかというと陰キャで、仲間内でもそんなに多くを語る方ではない。

 そんな永嗣にオレの次によく話しかけていたのは、千景だった。

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