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小学校3年生







気付いた頃から、私はお節介なタイプだった。

困っている人や泣いている人を見たら放っておけない、そんなタイプで・・・。






そんな私の前に、強敵が現れた・・・







「毎回毎回忘れ物をして!!!

そんなにやる気がないなら、学校来るのやめなさいよ!!!!」





担任の眞砂(まさご)先生が叫ぶように怒鳴り・・・

また隣の席の男の子、加瀬勝也の腕を引っ張り立たせようとする。

勝也は毎回静かに抵抗をして、その度に何も言わず椅子に座り直す。




「忘れ物ばっかりする人間には、学校に来る“資格”はない!!」




何度もそう叫び、怒鳴り、その授業はそれで終わってしまった・・・。




休み時間になり、私は勝也に話し掛ける。




「勝也・・・大丈夫?」




「うん、大丈夫。莉央こそ、大丈夫?

いつも俺の隣の席で・・・1学期だけじゃなくて、2学期になってからもだな。」




勝也が笑いながら私の心配をしてくれる。




勝也とは、1・2年生の時も同じクラスで。

その時はそこまで話したことはなかったけど・・・こんなに忘れ物をしていた記憶はない。




「放課後、一緒に宿題やろうよ。」




「放課後は・・・時間がなくて。」





3年生になってから毎日のように繰り返されたこの会話。

何で時間がないのかは教えてくれなくて・・・。





1つだけ考えられるのは・・・






「野球・・・?」






私の言葉に、勝也はピクリと少し身体を震わせた。






1・2年生の時、勝也が少年野球をやっているのは知っていて、一緒にやっている他の男子とも学校で仲良くしていた。

その中でも、勝也は凄く運動神経が良くて・・・

放課後も毎日野球をやっているのかな?と思っていた。






「そういうわけではないんだけど・・・。」






そう言いながら、また勝也は笑っていて・・・。






何で放課後に時間がないのか、いまいち分からないままだった。






私の性格で、“お節介”な部分・・・




それと、もう1つの困った部分もあって・・・。






お昼休み・・・






1人残され、給食を目の前に固まっている女の子の姿が・・・。

最近は毎日、それを横目に皆がお昼休みで遊んでいるんだけど・・・。





一緒に集まっていた女の子達に、私は言う。






「眞砂先生・・・私、キライ。」




「わたしも!」




「わたしもキライ。

最近学校来るの本当にイヤでさ~。」





3年生になってから、毎日のように誰かと繰り返されるこの会話。






そして・・・






「校長先生に、一緒に言いにいこうよ!

こんなの・・・私、徹底的にやりたい!!」




「校長先生までは・・・」




「うん・・・。

それに、何もないとただイライラしてるだけだし。」




「忘れ物をしてる勝也も悪いし・・・」




「給食を食べないあの子も・・・。」






モヤモヤモヤモヤモヤモヤ






モヤモヤモヤモヤモヤモヤ







止まらない・・・・







止められない・・・・









「何でっ!!そんな酷いこと言うの!?」








急に大きな声を出した私に、女の子達が驚き・・・

でも、すぐに冷めた目で私を見る。





「また、そんなに怒って・・・」




「うちらには関係ないし、目立たないようにしてれば大丈夫なんだから。」




「放っておけないタイプだって分かるけど、今回は大人しくしてよう?

何か行動起こしてこっちが標的になるのイヤだし。」





そんな、みんなの言葉に・・・





モヤモヤモヤモヤモヤモヤ





モヤモヤモヤモヤモヤモヤ






止まらない・・・・






止められない・・・・








いつも、この言葉が、出て来てしまう・・・






















「みんな・・・私、キライ!!!!」




「出たー・・・莉央のそれ。」




「うちらだって、莉央のこと心配して言ってるんだよ?」




「あの女の子と莉央が仲良いのは知ってるけど、うちら特に仲良くないし・・・。

莉央の方が心配で言ってるんだよ?」






私は泣きながら、みんなを見る・・・






「仲良くなくても・・・どうにかしないと!!

あんなこと目の前でされたら・・・徹底的にどうにかしないと!!!」






必死に訴えるけど・・・






みんなはやっぱり冷めた目で・・・。








「うちらは、いいや。」





「やりたいなら、莉央1人でやってよ。」





「これでもっと眞砂先生が変なことになったら、莉央のことこっちがキライになるけど。」






そんな言葉を残し、女の子達は教室から出ていった・・・。





涙を拭き、給食を目の前に固まっている女の子を見る・・・





「よし・・・っ」





気合いを入れて、私は教室を出た・・・。






そして・・・






向かった先は・・・




















“校長室”・・・。





校長室の大きな扉の前・・・





私は、なかなかノックが出来ずにいる。






深呼吸をして、また手を扉に近付けるけど・・・






それは、すごく勇気のいることで・・・。







“お節介”なだけで、勇気のない自分がイヤになる・・・。








私には、何も力がない・・・









人を傷付けるような人と闘う力が・・・









私には、何もない・・・。












モヤモヤモヤモヤ








モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ












止まらない・・・・










止められない・・・・

















「私・・・・私が、キライ。」

















そう、泣きながら呟いた・・・















その時・・・















「莉央?」








と・・・。





声の方を振り向くと・・・





「勝也・・・。」





9月でまだ暑いからか、勝也はまた汗だくで・・・。

Tシャツの色は変わっている。





「汗・・・凄いね・・・。」





「今みんなとドッジボールしてた!

暑すぎて、俺はここに避難!

この廊下が1番涼しいんだよな!!」





「そっか・・・」





毎日毎日毎日、眞砂先生から沢山怒られて・・・酷いことも沢山言われているのに、勝也はいつも笑っていて。





強いな・・・と、思っていた。






私は“お節介”しか出来なくて・・・






それに、“キライ”の感情をすぐに出してしまって・・・






これじゃあ、眞砂先生と・・・同じ・・・。







また、涙が流れる・・・。










「莉央、どうした?」







勝也が何でもない感じで聞いてくれて・・・








その、明るい感じに、救われるような気がする。








「校長先生に、言いにいこうと思って。」




「校長先生に?」




「うん・・・眞砂先生のこと。」




「だよな!?可哀想だもんな!!!」





勝也の言葉に、私は何度も頷く。





そんな私を見ながら、勝也が笑って・・・























「眞砂先生、可哀想だもんな!!!」










と・・・。





「眞砂先生が・・・可哀想・・・?」





勝也の言葉に、私は驚く・・・。





「眞砂先生は・・・可哀想じゃないでしょ?

勝也とか、給食食べられないあの子とか・・・たまに標的にされるみんなの方が可哀想でしょ?」





「それもあるけど・・・」





勝也が少し考え・・・また、笑った。






「やっぱり、あんなに毎日怒らないといけないの、可哀想だよ。」






と・・・。






「俺なんかの担任になって、可哀想だし・・・。」






そう言いながら、笑って・・・






「それだけじゃなくて・・・毎日あそこまで怒らなきゃいけない何かがある、眞砂先生が可哀想だよ。」






衝撃的だった・・・。





そんな考え、私には出来なかった・・・。





気付いたこともなかった・・・。






もしかしたら、1番困っているのは・・・






1番泣きたいのは・・・






眞砂先生なのかもしれない・・・。







そんな風に、私も思って・・・。









目の前に立つ勝也を見る・・・。








汗だくで笑う勝也は、凄く格好良いと思った・・・。









「俺も行くよ。」






「行くって?」






「校長先生の所、俺も行くよ。」






「いいの・・・?」







勝也は笑いながら、頷いた。









「莉央は凄いな、誰かの為にそこまで動けるの。

俺も・・・もっと頑張るよ!」







笑いながら、勝也は簡単に・・・









校長室の扉をノックした・・・。








それから、数日間は・・・

眞砂先生の機嫌はそこまで悪くなくて・・・






校長先生に言って、良かった・・・なんて、思っていた。






でも、それは大きな間違いで・・・






ある日・・・







爆発した・・・。








この数日間の物が、一気に・・・。







隣の席・・・






勝也の席から・・・






教科書を机に叩き付ける音が・・・






響く・・・。







「また宿題忘れて!!!!

教科書も忘れてるなんて、やる気あるの!!!??」






眞砂先生が、勝也の机を教科書で何度も叩く・・・。






さっきは、給食が食べられなかった女の子にも酷いことを言っていて・・・。

その時も、私は見ていることしか出来なかった・・・。






1人の、勇敢な男の子の姿を思い出す・・・。

助けたようには見えないように、あの女の子を助けていた・・・。

私には、そう見えた・・・。






「こんなに忘れ物ばっかりして!!!!

アンタなんて、学校に来る“資格”なんてない!!!!」






モヤモヤモヤモヤ






モヤモヤモヤモヤモヤモヤ







また、眞砂先生が勝也の腕を強く引き・・・








そして・・・









「アンタ!!!校長に私のことチクったでしょ!!!???」






と・・・。






私は驚き、眞砂先生を見る・・・






「最初っから!!!アンタのことは気に食わないのよ!!!!」






そう言いながら、また勝也の腕を強く引っ張る・・・






「アンタのことも!!!アンタの母親も!!!

あんなに派手な母親なんて、母親じゃない!!!!

母親の“資格”なんて、ない!!!」






心臓が、震えた・・・





イヤな感じに・・・





震えた・・・。






呼吸が出来ないくらい、苦しくなる・・・






涙が、流れる・・・。







やめて・・・







やめて・・・








口から言葉は何も出てこなくて・・・。








私は、ただ“お節介”なだけ・・・







肝心な時には、何も言えない・・・。








誰も一緒に行ってくれなかった・・・

私も1人では出来なかった・・・

そんな私の代わりに、校長室の扉を叩いてくれた勝也・・・







勝也の為に、私は何も出来ない・・・。








そんな自分が、キライ・・・。








大嫌い・・・。










そう、思った時・・・








眞砂先生が・・・









言った・・・






















「だから、父親が死んだのよ!!!!」






私は驚き過ぎて、涙が止まる・・・






「母親の“資格”もない!!妻の“資格”もない!!

そんな女と一緒にいたから、アンタの父親は死んだの!!!!」






驚きながら、勝也を見ると・・・






こんなに酷いことを言われても・・・






笑っていた・・・。







その笑顔を見て、やっと気付いた・・・。








勝也は、いつも笑っている・・・。









理由は分からないけど・・・









でも、いつも笑っている・・・。








「アンタも死んでしまいなさい!!!!

そしたら、あの女も母親じゃなくなる!!!

母親の“資格”もない女から産まれたアンタは、生きてる“資格”もない!!!」









モヤモヤモヤモヤモヤモヤ







モヤモヤモヤモヤモヤモヤ








止まらない・・・・







止められない・・・・








でも、それでいい・・・







それで、いい・・・










「何でっ!!そんな酷いこと言うんですか!?」

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