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社長室の中・・・





「社長・・・私、そろそろ限界かもしれません。」




社長が怖い顔で、でも驚いた顔で私を見てきて・・・




「ここまで来たら、もう絶対にお化けなんだと思うんです・・・。

何でエレベーターこんなにダメになるんですか!?

こんなこと、“普通”ありますか!?」




「美マネ・・・珍しいな、そんなに感情的になって・・・。」




「だって・・・もう怖いです。

加瀬さんだけじゃなく、この前もまた違う人が来て・・・それでも分からないって!!」




「エレベーター、もう使用中止にするか!

みんなで階段使えばいいだろ!」




「階段・・・私、キライなんです!!」





少し泣きそうになり・・・





「エレベーターの動画撮ってきます・・・」




「お願いします・・・。」





社長の小さな声が聞こえた。





エレベーターのボタンを押しても反応しない動画を、震える手で撮っていく・・・。





泣きそうになっていると・・・





「あら、大橋さん久しぶりね。」





と・・・。

それさえも怖くて、ビクッと身体が跳び跳ねた。





ソーッと振り返ると・・・





1年くらい前、色男先輩にお願いをした建築関係の会社の女性・・・。





「お久しぶりです・・・。」




「どうしたの?元気ないじゃない。」




「エレベーターが・・・」




「エレベーター?

ここ、よく使えないわよね?」




「お化けなんだと思うんです。」






泣きそうになりながら女性を見ると・・・

一瞬固まり、大笑いをした。







「そんな一面もあるのね~!

可愛いじゃない!」







大笑いしながら紙袋を見せてきて・・・








「たまに寄ってるのよ、あれからお世話になってるからね。

クリスマスも近いから大きめのお菓子持ってきたわ。

後で営業の子に貰って元気出しなさい?」





「ありがとうございます・・・。」





「お化けなんて怖くないわよ!

私は会ってみたいくらいなんだから!」





そう言って、色男先輩に会いに受付の受話器を取っていた。

溜め息を吐きながら、また動画を少し撮り・・・怖いので一旦社長室に戻った。





社長が私のことをチラチラ見ているのに気付きながら、それにモヤモヤとしてくる。





深呼吸を繰り返しながら、仕事をしていると・・・





社長室の内線が鳴り・・・加瀬さんが来てくれたのが分かった。





「野球部のグラウンド整備の確認、行って参ります・・・。」




「美マネさん・・・無理しないで・・・」




「大丈夫です!!私は野球部のマネージャーなので!!!」




「お願いします・・・」





社長が怯えながら小さな声で言い、私はまた深呼吸をして社長室を出た。





作業着の加瀬さんが作業をするのを見ても、今日はムラムラも何もしない。

いつもは近くで見ているけど、今日はエレベーターから離れた壁にくっつき、その作業を見ている。




黙々と作業をしていて・・・

何か原因が分かることを両手を合わせて見守る。





「・・・おかしいですね。

今日も特に問題がないようで・・・。」





私は少しだけエレベーターに近付き、さっきの動画を見せる。





苦笑いしながら、加瀬さんがそれを少し遠くから確認し・・・難しい顔をしながらまた作業していく・・・。





またすぐに壁にくっつき、その作業を両手を合わせて見る・・・。






そして、少し経った時・・・






「“莉央ちゃん”、ここにいたんだ!」






と・・・。

色男先輩が来た。






ビクッと身体が跳び跳ね、色男先輩を見る。

そんな私に驚きながら、お菓子を差し出してくれた。





「これ、さっきのお客様から。

“莉央ちゃん”にもって言ってたから。」





「ありがとうございます・・・」





色男先輩の誘いを断ってからも、結構頑張ってくれていて・・・

最近は“莉央ちゃん”とまで言うように。





渡してくれたお菓子を、震える両手で受け取る・・・。





「“莉央ちゃん”、大丈夫・・・?」





「怖くて・・・」





「怖い?」





「お化けが・・・」






色男先輩が固まった後・・・クスクスと笑って・・・。






「何も面白くありません・・・。」





「いや、可愛いなと思って。」





「お化け関係は、ダメで・・・。

私の力ではどうにも出来ないと思うので・・・。」





「俺見てるから、社長室戻りなよ。」





「野球部の部員、しかもレギュラーになった色男先輩にそんなことはお願い出来ません・・・。」





「じゃあ・・・2人で見てる?」





私は、少しだけ悩み・・・首を振った。





「これはマネージャーの仕事なので、気合いで頑張ります・・・。」




「心配だし、一緒に見てるよ。」








と言って・・・






色男先輩が、私の肩に手を回した・・・。








ビックリして、固まり・・・







色男先輩を見上げる・・・。








何か言いたいけど、色んなことが頭の中を回り・・・上手く処理出来ず・・・。








色男先輩は、私を見ずにエレベーターの方を見ていて・・・








私の肩に回した手に、また力が入れられた・・・。








どうしよう・・・







と、








悩んだ時・・・













「大橋さん。」







と、加瀬さんが声を掛けてくれた・・・。





「申し訳ありません。

今日も特に問題が見付かりませんでした。」





近くまで歩いてきてくれ、私は加瀬さんを見ながら何回か頷き・・・





「ありがとうございます・・・。

お見送りします・・・。」





そう言って、色男先輩の手から逃れようとした・・・





のに、色男先輩が放してくれず・・・。






ビックリして、どうしようかと思ったら・・・






「大丈夫ですか?」






と、加瀬さんが私の腕を結構強く引っ張ってくれ・・・

色男先輩の手から逃れられた・・・。






すぐに加瀬さんが手を離し・・・






「それでは、失礼します。」






と、色男先輩にお辞儀をした・・・。














その、時・・・
















「君、わざとじゃないよね?

大橋さんに会いたいから、わざとエレベーターおかしくしてるとか、ないよね?」




その言葉には私も驚き、色男先輩を見る。




「そのようなことは“普通”は出来ませんので。」




「じゃあ、担当変えてよ。

こんなに毎回毎回おかしくなるとか、“普通”ないだろ?

君の前の担当の時はこんなことなかったけど。」




「分かりました。

次回からは別の者が伺います。」




「だいたい、君・・・若いけどちゃんと1人で出来るの?」





そんな失礼なことを言う色男先輩の腕を、私が引く・・・





「“先輩”、やめましょう・・・。

加瀬さん、担当者のお話は・・・またご連絡しますので、その時に・・・」





加瀬さんにお辞儀をして、色男先輩の腕を引く。





それなのに、色男先輩は動かない・・・。





「こういうのは、ちゃんとしといた方が良いから。

グループ会社だし、他の顧客先でもいい加減なことされると、結果的にうちにも影響出るから。」




正論でもあって、私も何も言えなくなる・・・。




「君・・・加瀬君?いくつなの?」




「もうすぐ、24歳です。」




「若いね、2年目じゃん。」




「いえ、高校卒業してから働いているので、6年目になりました。」




「高卒なのか・・・。

あっちの会社・・・高卒でも雇ったっけ?」




「指定校求人は毎年あるようです。」




「そう・・・。

他の顧客先でも、こんなにトラブル出てるの?」




「いえ・・・このビルだけです。」





私は深呼吸を繰り返し、色男先輩の腕をまた引っ張る。





「“先輩”、もういいですか?」




「・・・なんか、気に食わないんだよな。」





私は深呼吸を繰り返す・・・





「やる気あるの?

毎回ちゃんとやってる?」





深呼吸を、繰り返す・・・





深呼吸を、繰り返す・・・













「そもそも、資格とかちゃんとあるの?」









モヤモヤモヤモヤモヤモヤ











止まらない・・・・









止められない・・・・













「何でっ!そんな酷いこと言うんですか!?」











急に大声を出した私に、色男先輩が驚いている・・・





「そんな酷いこと、何で言えるんですか!?」





「大橋さん・・・」





加瀬さんが止めているのも分かるけど、止まらない・・・





「加瀬さんが毎回ちゃんとやってるの、私は見てますから!!!」





「でも・・・変だろ?こんな・・・」





「何も知らないのに!!!

色男先輩は何も分からないのに!!!

そんなこと・・・そんな酷いこと言わないでくださいよ!!!」





「大橋さん・・・」





加瀬さんが、私の腕を引く・・・






それでも、止まらない・・・






止められない・・・・










止められない・・・・










止められない・・・・














モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ












込み上げてくる、この言葉が・・・


















私には、止められない・・・・



















「色男先輩・・・私、キラっっ」







「ストップ!!!!」








言い終える直前で・・・







私の口を・・・









加瀬さんの手が塞いだ・・・。








加瀬さんの手に口を塞がれてる私を、色男先輩が驚いて見ていて・・・






私はそれでも何か言おうと、口を開き・・・







「落ち着け・・・落ち着け、莉央。」






その言葉に、私は深呼吸を繰り返す・・・。






何度も・・・






何度も・・・






何度も・・・








深呼吸を・・・







繰り返す・・・。










「2人・・・知り合いなの?」





色男先輩が、驚いた顔で私と加瀬さんを交互に見ている・・・。





私は深呼吸を繰り返しているので、何も言えなくて・・・






「はい、小学校の時の同級生です。」





「そう・・・、あ・・・再会して、莉央ちゃんにアプローチしてたのか。

まあ・・・正直、そういう気持ちは分からないでもないからな。」






色男先輩が困った顔で笑っていて・・・







「そういうわけではないのですが・・・」





「莉央ちゃん、綺麗で可愛いしな。

でも・・・加瀬君には可哀想だけど、彼氏いるみたいだぞ?」





「そうですか・・・」





「同棲までしてる、シェフの彼氏がいるらしいから、諦めた方がいいな。」














後ろに感じる加瀬さんの身体が、小刻みに震えた・・・。








そして・・・
















「“シェフ”って、あだ名ですから。」





色男先輩が、また驚いた顔をして・・・。





後ろにいる加瀬さんは、どんどん笑ってきて・・・





私の口を塞いでる手をゆっくりと放し・・・






大笑いしている・・・。







そして・・・






















「俺のこと、どんな風に話してるんだよ!?」








と・・・









それを見ながら、私も笑って・・・。









「毎週土日はレストランの“本日のシェフ”なんだから、間違ってはないでしょ?」











大笑いしている勝也を見ながらそう答え、私も笑った・・・。

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