5
1
クリスマスまで、あと10日・・・
仕事終わりに、何件かお店を回っているけど・・・
勝也へのプレゼントがなかなか見つからなくて、どうするか毎日のようにお店をウロウロとしている。
あまり高級な物をあげても困らせてしまうし、お安い物だと私が納得できなくて。
勝也には、去年も“シェフ”の料理をお願いし、今年もそれがプレゼント。
“シェフ”の味を家で食べられることほど、贅沢な物はない。
また、お店をウロウロし・・・
時計を見たらもう良い時間で・・・
夜ご飯も作るために家に帰る。
最寄り駅の電車を降り、出口を出た所で・・・
「莉央?」
と、声を掛けられた。
振り向くと・・・
「お母さん!」
21時と遅い時間なのに、お母さんが買い物袋を持って歩いていた。
「今仕事帰り?遅くて大変ね~。」
「仕事は定時で終わって、買い物してたんだよね。
お母さん何してるの?」
「パフェ食べたくなったから、パフェ食べてきたのよ。
その後に少し買い物。」
その言葉に、私は笑った。
「12月の寒い時期、しかもこんな夜にフラッとパフェだけ食べに行くの、お母さんくらいだから。」
「そんなことないでしょ?
莉央だってよく一緒に食べに行ってたのに。」
「分かった、訂正する。
お母さんと私くらいだよ?」
久しぶりに親子の会話をして、少し近況報告・・・勝也のこと以外の近況報告をした。
「実家に少し寄っていく?」
「いいや、家に帰って夜ご飯作りたいし。」
「少しは料理作れるようになったのね?」
「相変わらず失敗ばっかりだよ。」
「お母さんもお父さんも料理出来るのに、どうしたんだろうね?
最近は陸(りく)まで料理してるよ?」
2歳上のお兄ちゃんまで料理を初めたらしい・・・。
「お兄ちゃん、まだ実家いるんだ?
早く一人暮らしすればいいのに。
うちの物件紹介するって言ったのに断ってきたし。」
「26歳だし、いいんじゃない?
莉央こそ同じ最寄り駅で、一人暮らしの意味あるの?」
「この街、好きなんだよね~・・・」
「お母さんも、パフェ美味しいし。」
「それ大きいよね。」
実家の近くに住んでいるけど、全然帰っていないからお母さんに会ったのも久しぶり。
久しぶりに会えて、元気そうで安心した。
お母さんと話した数分後・・・
「お兄ちゃん、何があったの・・・?」
お兄ちゃんからメッセージが送られてきて、写真を見てみたら・・・。
どうやら、ビーフストロガノフを作ったらしい。
私は、目の前のフライパンを見る・・・
そこには、ベチョベチョになった生姜焼きが。
苦笑いしながら写真を撮り、お兄ちゃんに送っておいた。
生姜焼きをお皿に移していると・・・
「寒~!!!今年も、寒~!!!!」
ただいま~!!!!
と、野球部のように大きな声の男が帰って来た。
「お帰り~!!」
キッチンから大きな声で言うと、リビングの扉が開き・・・スーツ姿の勝也と一緒に冷たい空気も入ってきた。
「寒い!!寒い!!」
キッチンにいた私に、後ろから抱き付き・・・
「私も寒くなるって!!」
「だよな!?」
その相槌に、笑ってしまった。
「生姜焼き、ベチョベチョになっちゃった。」
「ベチョベチョの生姜焼きにも、俺負けねーから!」
「今日もよろしくお願いいたします。」
勝也が大笑いしながら私から離れ、マフラーを取った。
私は手を洗う勝也を見ながら、言う・・・。
「クリスマスのプレゼント、コートにしようか。」
「俺、今年の冬にも負けねーから!」
そう言って笑う勝也に、今度は私が後ろから抱き付く・・・。
「もう、大丈夫だよ。
もう大丈夫だよ、勝也・・・。」
勝也は水を止めることなく、手を洗うのも忘れ、ただ手を水に流している・・・。
そんな勝也に、私はもう1度、言う・・・。
「もう、上着を着ても・・・ちゃんと冬の格好をしても大丈夫だよ。
きっと、許してくれるから。」
勝也がやっと水を止め、タオルで手を拭いた。
「母ちゃん、許してくれるかな・・・」
笑っている勝也を、私は強く抱き締める・・・。
「お母さんは絶対に大丈夫だから、安心して。
お母さんじゃなくて、お母さんじゃなくて・・・
もう1人、いるでしょ?」
「“お父さん”・・・?」
私は首を振りながら、勝也に向き合う。
勝也を見上げると、笑っている・・・。
勝也は、いつだって笑っている・・・。
これが“最後”の顔になるかもしれないから・・・。
良い笑顔を、私に見せてくれる・・・。
“最後”になったとしても、私にこの笑顔が残るように・・・。
そんな勝也の笑顔を見ながら、私は泣いてしまった・・・。
こんなに格好良い顔をして、社会人歴は私より4年間も長いのに・・・。
それでも・・・こんなに幼さを残した顔をしているのは・・・。
私は泣きながら、勝也の肩にオデコを付けた・・・。
「小さな頃の勝也も、きっと許してくれる・・・。」
勝也をソッと抱き締める・・・。
「24歳になった勝也が上着を着ても、小さな頃の勝也もきっと許してくれるから。」
勝也は何も言わず、固まっている・・・。
「着せてあげよう、あの頃の勝也と一緒に・・・。」
勝也を強く、強く、抱き締める・・・。
「寒いのに、頑張ったねって・・・。
あの頃の勝也を褒めてあげて、あの頃の勝也にも、着せてあげよう。」
勝也が、震える両手で私を抱き締める・・・。
「許してくれるかな・・・」
「許してくれるよ、勝也は優しい子だから。
もしも許してくれなかったら、私もあの頃の勝也と話すから。」
「それなら、すぐに許してくれそうだな・・・。」
「一緒に見に行こう、2人が似合う上着。
私がサンタさんになるから・・・。
私がサンタさんになるから、安心して。」
「ありがとう・・・。
でも、もう少し時間ちょうだい・・・。」
「うん、待ってる・・・。
1年でも2年でも3年でも・・・。
きっと、あっという間だから。」
そう言って、勝也に笑い掛ける。
これが“最後”になっても大丈夫なように。
勝也も、いつもと同じ笑顔を見せてくれる。
これが“最後”になっても、この笑顔を私が一生思い出せるように。
「勝也、大好きだよ。」
「俺も、莉央が大好き・・・。」
忘れないように・・・。
一生、忘れないように・・・。
2人の愛が確かにあったと、
忘れないように・・・。
強く強く抱き締め合い・・・
唇を、重ねた・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます