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クリスマスまで、あと10日・・・





仕事終わりに、何件かお店を回っているけど・・・

勝也へのプレゼントがなかなか見つからなくて、どうするか毎日のようにお店をウロウロとしている。





あまり高級な物をあげても困らせてしまうし、お安い物だと私が納得できなくて。





勝也には、去年も“シェフ”の料理をお願いし、今年もそれがプレゼント。

“シェフ”の味を家で食べられることほど、贅沢な物はない。





また、お店をウロウロし・・・





時計を見たらもう良い時間で・・・





夜ご飯も作るために家に帰る。





最寄り駅の電車を降り、出口を出た所で・・・




「莉央?」




と、声を掛けられた。





振り向くと・・・





「お母さん!」





21時と遅い時間なのに、お母さんが買い物袋を持って歩いていた。





「今仕事帰り?遅くて大変ね~。」




「仕事は定時で終わって、買い物してたんだよね。

お母さん何してるの?」




「パフェ食べたくなったから、パフェ食べてきたのよ。

その後に少し買い物。」





その言葉に、私は笑った。





「12月の寒い時期、しかもこんな夜にフラッとパフェだけ食べに行くの、お母さんくらいだから。」




「そんなことないでしょ?

莉央だってよく一緒に食べに行ってたのに。」




「分かった、訂正する。

お母さんと私くらいだよ?」





久しぶりに親子の会話をして、少し近況報告・・・勝也のこと以外の近況報告をした。





「実家に少し寄っていく?」




「いいや、家に帰って夜ご飯作りたいし。」




「少しは料理作れるようになったのね?」




「相変わらず失敗ばっかりだよ。」




「お母さんもお父さんも料理出来るのに、どうしたんだろうね?

最近は陸(りく)まで料理してるよ?」




2歳上のお兄ちゃんまで料理を初めたらしい・・・。




「お兄ちゃん、まだ実家いるんだ?

早く一人暮らしすればいいのに。

うちの物件紹介するって言ったのに断ってきたし。」




「26歳だし、いいんじゃない?

莉央こそ同じ最寄り駅で、一人暮らしの意味あるの?」




「この街、好きなんだよね~・・・」




「お母さんも、パフェ美味しいし。」




「それ大きいよね。」





実家の近くに住んでいるけど、全然帰っていないからお母さんに会ったのも久しぶり。

久しぶりに会えて、元気そうで安心した。





お母さんと話した数分後・・・





「お兄ちゃん、何があったの・・・?」




お兄ちゃんからメッセージが送られてきて、写真を見てみたら・・・。

どうやら、ビーフストロガノフを作ったらしい。




私は、目の前のフライパンを見る・・・




そこには、ベチョベチョになった生姜焼きが。

苦笑いしながら写真を撮り、お兄ちゃんに送っておいた。




生姜焼きをお皿に移していると・・・




「寒~!!!今年も、寒~!!!!」

ただいま~!!!!




と、野球部のように大きな声の男が帰って来た。




「お帰り~!!」




キッチンから大きな声で言うと、リビングの扉が開き・・・スーツ姿の勝也と一緒に冷たい空気も入ってきた。




「寒い!!寒い!!」




キッチンにいた私に、後ろから抱き付き・・・




「私も寒くなるって!!」




「だよな!?」




その相槌に、笑ってしまった。




「生姜焼き、ベチョベチョになっちゃった。」




「ベチョベチョの生姜焼きにも、俺負けねーから!」




「今日もよろしくお願いいたします。」





勝也が大笑いしながら私から離れ、マフラーを取った。





私は手を洗う勝也を見ながら、言う・・・。





「クリスマスのプレゼント、コートにしようか。」




「俺、今年の冬にも負けねーから!」




そう言って笑う勝也に、今度は私が後ろから抱き付く・・・。




「もう、大丈夫だよ。

もう大丈夫だよ、勝也・・・。」




勝也は水を止めることなく、手を洗うのも忘れ、ただ手を水に流している・・・。




そんな勝也に、私はもう1度、言う・・・。




「もう、上着を着ても・・・ちゃんと冬の格好をしても大丈夫だよ。

きっと、許してくれるから。」




勝也がやっと水を止め、タオルで手を拭いた。




「母ちゃん、許してくれるかな・・・」




笑っている勝也を、私は強く抱き締める・・・。




「お母さんは絶対に大丈夫だから、安心して。

お母さんじゃなくて、お母さんじゃなくて・・・

もう1人、いるでしょ?」




「“お父さん”・・・?」




私は首を振りながら、勝也に向き合う。




勝也を見上げると、笑っている・・・。




勝也は、いつだって笑っている・・・。




これが“最後”の顔になるかもしれないから・・・。




良い笑顔を、私に見せてくれる・・・。




“最後”になったとしても、私にこの笑顔が残るように・・・。




そんな勝也の笑顔を見ながら、私は泣いてしまった・・・。





こんなに格好良い顔をして、社会人歴は私より4年間も長いのに・・・。





それでも・・・こんなに幼さを残した顔をしているのは・・・。







私は泣きながら、勝也の肩にオデコを付けた・・・。







「小さな頃の勝也も、きっと許してくれる・・・。」







勝也をソッと抱き締める・・・。







「24歳になった勝也が上着を着ても、小さな頃の勝也もきっと許してくれるから。」








勝也は何も言わず、固まっている・・・。











「着せてあげよう、あの頃の勝也と一緒に・・・。」









勝也を強く、強く、抱き締める・・・。










「寒いのに、頑張ったねって・・・。

あの頃の勝也を褒めてあげて、あの頃の勝也にも、着せてあげよう。」







勝也が、震える両手で私を抱き締める・・・。






「許してくれるかな・・・」








「許してくれるよ、勝也は優しい子だから。

もしも許してくれなかったら、私もあの頃の勝也と話すから。」




「それなら、すぐに許してくれそうだな・・・。」




「一緒に見に行こう、2人が似合う上着。

私がサンタさんになるから・・・。

私がサンタさんになるから、安心して。」




「ありがとう・・・。

でも、もう少し時間ちょうだい・・・。」




「うん、待ってる・・・。

1年でも2年でも3年でも・・・。

きっと、あっという間だから。」






そう言って、勝也に笑い掛ける。






これが“最後”になっても大丈夫なように。






勝也も、いつもと同じ笑顔を見せてくれる。






これが“最後”になっても、この笑顔を私が一生思い出せるように。







「勝也、大好きだよ。」






「俺も、莉央が大好き・・・。」







忘れないように・・・。






一生、忘れないように・・・。






2人の愛が確かにあったと、







忘れないように・・・。








強く強く抱き締め合い・・・








唇を、重ねた・・・。

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