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家に帰り、手を洗い・・・部屋着に着替える。




自分の部屋を出た後・・・向かい側にある勝也の部屋の扉を見る。




少し悩んだ後、静かに・・・




その扉を・・・




開いた・・・。





久しぶりに見た勝也の部屋の中・・・





“入らないで”と言われていないけど、私は扉を開けられないでいた。





1度・・・最初の頃に中を見て、それから怖くて見られなかったから。





今開けて、やっぱり後悔した。





開けなければよかった・・・。





確認しなければよかった・・・。












この、



















何もない部屋を・・・。




何もない、本当に何もない・・・。




綺麗に畳まれた敷き布団も掛け布団も、元々家にあった物。

掛け布団は冬用の物ではなく、夏用で薄い物。




クローゼットにはスーツが何着かあり、仕事用の服や私服も少しあるみたいだけど・・・。




部屋の中自体には、布団しかない。




5月に勝也と合コンで会い、その日から私の家に・・・。

今日はもう2月14日・・・それなのに、この部屋には何も増えない。




「実家が、近くにあるしね・・・」




仕事帰り、近くにある実家に頻繁に帰っているのは知っている。




でも、この部屋を見ると・・・




“彼氏”どころか“同居人”でもないような気がする・・・。




それに・・・

夏の時期も、今の冬の時期も・・・電気代を見る限りクーラーも使用していない。




お金が最低限しかないのは知っているので、家賃や生活費は請求するつもりはなかったけど・・・それはちゃんとくれている。




勝也のことを考えていたら・・・




「また、失敗しちゃった。」




クリームシチューに、何故か茶色くて細かい物が沢山入っていて・・・。

溜め息を吐く・・・。




今日は絶対に失敗したくないから素を入れるだけのクリームシチューにしたのに・・・




更に・・・




「ジャガイモがまた消滅した・・・」




私の料理には、いつもジャガイモの姿は存在しないらしい。

これでは、“胃袋を掴む”どころの話ではない・・・。




「“彼女”か・・・。」




茶色いクリームシチューを見下ろしながら、溜め息を吐く・・・。




私の料理が問題なのは、分かる・・・。

でも、勝也の“彼女”になれないのは、料理だけが原因なわけじゃない気もする。




勝也からの“いたしたい”という誘いもなく、

デートみたいなこともしてくれず、

私からの“いたしたい”という誘いまで連日断られ・・・。




これは・・・




どうすればいいんだろう・・・。





勝也と関係を持つまで、“彼氏”がいたことのない私には・・・どう解決したらいいのか分からない問題になってしまった・・・。





茶色いクリームシチューを見下ろし、少しだけ泣きそうになった時・・・





「寒~!!!今日も、寒~!!!!

ただいま~!!!!」





と、野球部のように声の大きな男が帰って来た。

それに少し笑いながら、でも顔を上げられず・・・クリームシチューを見下ろし続けていた。





「リビング・・・あったけ~!!!」





キッチンにも少し冷たい空気が入り、それを感じながら「お帰り」と小さな声で言った。

深呼吸を少ししてから、キッチンを出る。





「また・・・失敗しちゃった。」





今日は落ち込みながら、勝也に報告をする。

そんな私を見て面白そうに笑いながら、勝也がマフラーを取っていく。





そして・・・





「はい、これ。」





と・・・。






箱を私に渡してきて・・・。







受け取り、箱を見てみると・・・。

勝也の働いているレストランの、箱で・・・。








「何か持ってきてくれたの?」





「ケーキ!」





「嬉しい、ありがとう。」






「今日は、バレンタインだからな!」





「バレン・・・タイン・・・。」





箱を持ちながら、勝也を見上げる。




「うん、バレンタイン。」




勝也が照れたように笑っていて・・・




「そっか、今日は・・・バレンタイン・・・。」




私の大嫌いな、バレンタイン・・・。

大嫌いで大嫌いで・・・

その存在を私の中で消滅させていた・・・。




勝也が働いているレストランの箱を見下ろし・・・キュッと抱き締める・・・。




「ありがとう・・・。」




勝也をまた、見上げる・・・。




「勝也、ありがとう・・・。」




笑ったけど、まばたきをしたら涙も流れた・・・。




そんな私に勝也は少し驚いていて・・・

照れたように笑って、キッチンに行き手を洗った。




「どれ失敗したの?」




「クリームシチュー・・・」




涙を拭き、ケーキの箱を冷蔵庫に入れる。

勝也がクリームシチューのお鍋を見下ろし、ジッとしていて・・・




「なんでか分からないけど、茶色いのが出て来て・・・。

あと、ジャガイモがまた消えてしまった・・・。」




落ち込みながら報告すると・・・




勝也は小刻みに震え・・・




大笑いした・・・。




そして・・・




「・・・ンッ・・」




急に抱き締められ、結構しっかりしたキスをされ・・・




「今日・・・“いたして”いい?」




「バレンタインだから・・・?」




「そういうのじゃなくて・・・俺が“いたしたい”からだけど・・・。」




それには、驚き・・・




「お願いいたします・・・。」




と・・・。


















私の部屋の中・・・




「莉央・・・今日すごいな・・・。」




「だって、勝也・・・最近“いたして”くれないから・・・っ」




1回の表が終わり、裏・・・私もかなり攻撃をしていて・・・。




勝也と初めて経験をして知ったのだけど、私は結構その欲が強いらしく・・・




「俺としてない間・・・誰かと“いたした”?」




そんなあり得ないことを聞いてくるから、攻撃を続けながらも首を振った。




この私のムラムラを止めてくれるのは、勝也しかいないのに・・・




勝也が“いたして”くれなければ、私はどうやって止めるのか知らない・・・。




そう思いながら攻撃をしていて・・・。




そしたら、勝也が起き上がり・・・




私の攻撃は無得点で終わり、勝也の攻撃に変わり・・・




2回の表に突入・・・。





「俺がまた“いたす”から・・・他の男とは“いたす”なよ?」



















今回は達成感もありつつ、疲労困憊で・・・

布団も掛けないまま、勝也に腕枕をされている。




「あつっ・・・」




「私も・・・勝也、体温高過ぎ・・・。

病気しなくていいね・・・。」




「それだけが取り柄でもあるからな・・・。」




「子どもは風の子だから・・・。」





勝也が笑い、すごくご機嫌になった。





そして・・・





「そろそろ・・・出ていかなきゃなって思ってた。」





と・・・。

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