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朝・・・寝苦しくて目が覚めると・・・
羽毛布団の中、勝也に後ろから抱き締められ・・・
2人とも汗だくで寝ていた。
「体温・・・高い・・・」
笑いながら、勝也の腕の中で回転し勝也と向き合う・・・。
「んー・・・」
「もっと寝てて大丈夫だよ、まだ朝だから。」
「・・・今日、昼出るんだった!」
勝也がいきなり目を開け、自分の腕の中にいるわたしを見て驚き・・・
「・・・っ」
いきなりキスをしてきて・・・それも、結構ちゃんとしたやつで・・・
かと思ったら、勝也の方から慌てて離れ・・・
「遅れる・・・!!」
と、シャワーを浴びに行った。
少しだけ聞こえるシャワーの音を聞きながら考える・・・。
“いたした”後はすぐにシャワーを浴びに行く勝也。
汗だくだから仕方ないのかもしれないけど・・・。
それでも、付き合っていると思ってた1ヶ月くらいはそんなことはなくて。
汗だくのままでも抱き締めたまま、一緒に朝を迎えてくれていた。
こんな朝は、本当に久しぶりで・・・。
ここまでが、“お給料”の分なのか・・・。
ここまでが、“お礼”なのか・・・。
私の何が、“彼女”として認めてもらえなかったんだろう・・・。
料理・・・上手になれば、“彼女”になれるのかな・・・。
*
「“美マネ”ちゃん、胸チラッと見せてよ~」
月曜日、朝から営業部の男の人から絡まれる。
いっつもこんな感じの人で、私だけでなくみんなにこうで・・・
「セクハラ大魔人先輩、早く営業に行きましょうね?」
「行ってきます!!」
誰かにこれを言われてからの方がやる気になるらしい、厄介なクセの持ち主。
実際何かをされるわけでなく、結構売上も良いので・・・朝に1回だけのこの発言は、女の人はみんな気にしていない。
「“美マネ”!俺外出てくるから、あと・・・頼んだぞ!!」
「承知いたしました。」
社長が会社を出ていき、あとを頼まれたけど・・・
そこまで何か特別なことはしていないので、今日もいつも通り親会社に提出するデータの作成をしたり、社内を回って色々と確認したり。
その時、受付の方で女性の怒鳴り声が・・・。
受付に来てみると、総務部の先輩が、50歳くらいの派手な女性から怒鳴り付けられていた。
「この会社の社員は本当に使えない!
全然私の話なんて聞いてない!!
希望通りの物件なんて1件も紹介されてないのよ!?」
総務部の先輩がまた口を開く直前、私が声を出した。
「弊社の社員が、ご迷惑をお掛けしたようですね。
なんてお詫びを申し上げれば良いか・・・。
どうぞ、なんてことのない社長室ですが、いらしてください。」
名刺を女性に差し出す。
「社長秘書の大橋、大橋莉央と申します。
貴重なご意見、教えていただけますでしょうか。」
社長室に通し、ソファーに促した。
少しだけゆっくりと、お茶とお菓子の準備をする。
女性が少しだけ社長室の中を見渡し、ソファーに深く座った。
ほんの少しだけ、クラシックの音楽を小さくかける。
お盆にのせたお茶とお菓子を持ち、ゆっくりと女性の横にしゃがみ・・・
ゆっくりと静かに、お茶とお菓子のお皿を置いた。
「すぐに弊社の社長に連絡を致しますので、どうぞ召し上がって下さい。」
そう言って、社長室を出た・・・。
そしてその足で、売買の営業部の島に向かう。
社内で仕事をしている残っているメンバーを確認し、ホッとした。
1人の男の営業の人のデスクに行き、その人の横にしゃがむ。
「色男先輩、お客様の対応お願いできますか?」
「さっき受付で怒鳴ってたオバサン?
やだな~・・・美マネのお願いでも。」
「まとまれば、大きな契約取れますよ?」
「本当・・・?」
私は色男先輩を見上げ、しっかり頷く。
「何であんなに怒ってたの?」
「詳しくは分かりません。」
「嫌だな~・・・。」
「色男先輩なら大丈夫ですよ、安心してください。」
社長室の扉をノックし、少ししてからゆっくりと入る。
有名店の和菓子とお茶が減っているのを確認し、女性の横にしゃがむ。
女性をゆっくりと見上げる。
50歳くらいの女性。
綺麗に白髪染めされている茶色い髪の毛、長めの髪の毛はボリュームが出るようセットされている、
一見、普通の服・・・少し派手な服にも見えるけど・・・
着ているコートは質の良い生地。
綺麗に大切に履かれている靴。
指輪を2つしていて、右手にしているのは少し大きめな宝石のついている指輪、
左手の薬指にしているのは、華奢なシルバーの指輪・・・。
困った顔をしながら、女性に話し掛ける・・・
「弊社の社長に連絡をしたところ、到着まで時間が掛かるようです。申し訳ございません。
それまで私がお話を伺いたいところですが、お客様のことを私よりも心配している社員がおりまして・・・」
社長室の扉が、丁度良いタイミングでノックされた。
「お客様の貴重なご意見、その社員が伺ってもよろしいでしょうか。
優秀な社員ですので、ご安心ください。」
女性は怖い顔で怒りながらも、小さく頷いた。
私はお礼を言い、ゆっくりと立ち上がり、社長室の扉を開けた・・・。
扉の前の色男先輩を見る・・・
35歳、綺麗で色白な肌、
目は一重だけど大きめで、鼻が高い、
口はしっかりと口角が上がっていて、
少しクセのある黒髪は、今日もしっかりとお洒落にセットされている。
私は色男先輩に小さくお辞儀をして、社長室を出た・・・
そして、色男先輩が、社長室の中に入っていく・・・。
色男・・・。
見た目が色男なわけではない。
喋りや雰囲気が色男なわけではない。
女性関係が色男なわけではない。
打たなければいけない場面で、絶対に打てる・・・。
その1本に勝負の行方がかかっている場面ほど、打てる・・・。
普段は埋もれてしまいそうな存在だけど、その時ほど魅力を増す。
その時だけなのに、忘れられない存在になる。
“あいつなら大丈夫”と思わせてくれる。
あとは、お願いします・・・。
代打の色男・・・。
*
1時間程経った後・・・
社長室の扉が開いたのを確認し、扉の前で待つ。
「申し訳ございません、弊社の社長が遅れておりまして・・・。」
「いいのよ、社長さんに話すほどでもないから。
社員となんて話したくないと思ってたけど、この人は確かに優秀だった。」
「これから、物件のご紹介に行ってきます。」
色男先輩が、コートを羽織直した女性と一緒に会社を出ていく後ろ姿を見る。
こういう時は、取れる。
一旦落ちた時に上げられることが出来れば、どこまでも上がる。
そして、信頼関係が強くなる。
安心して、私もいつも通り仕事に戻った。
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