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朝・・・寝苦しくて目が覚めると・・・

羽毛布団の中、勝也に後ろから抱き締められ・・・

2人とも汗だくで寝ていた。




「体温・・・高い・・・」




笑いながら、勝也の腕の中で回転し勝也と向き合う・・・。




「んー・・・」




「もっと寝てて大丈夫だよ、まだ朝だから。」




「・・・今日、昼出るんだった!」




勝也がいきなり目を開け、自分の腕の中にいるわたしを見て驚き・・・




「・・・っ」




いきなりキスをしてきて・・・それも、結構ちゃんとしたやつで・・・




かと思ったら、勝也の方から慌てて離れ・・・





「遅れる・・・!!」





と、シャワーを浴びに行った。






少しだけ聞こえるシャワーの音を聞きながら考える・・・。






“いたした”後はすぐにシャワーを浴びに行く勝也。

汗だくだから仕方ないのかもしれないけど・・・。





それでも、付き合っていると思ってた1ヶ月くらいはそんなことはなくて。

汗だくのままでも抱き締めたまま、一緒に朝を迎えてくれていた。






こんな朝は、本当に久しぶりで・・・。






ここまでが、“お給料”の分なのか・・・。





ここまでが、“お礼”なのか・・・。







私の何が、“彼女”として認めてもらえなかったんだろう・・・。

料理・・・上手になれば、“彼女”になれるのかな・・・。


















「“美マネ”ちゃん、胸チラッと見せてよ~」




月曜日、朝から営業部の男の人から絡まれる。

いっつもこんな感じの人で、私だけでなくみんなにこうで・・・




「セクハラ大魔人先輩、早く営業に行きましょうね?」




「行ってきます!!」




誰かにこれを言われてからの方がやる気になるらしい、厄介なクセの持ち主。

実際何かをされるわけでなく、結構売上も良いので・・・朝に1回だけのこの発言は、女の人はみんな気にしていない。





「“美マネ”!俺外出てくるから、あと・・・頼んだぞ!!」




「承知いたしました。」





社長が会社を出ていき、あとを頼まれたけど・・・

そこまで何か特別なことはしていないので、今日もいつも通り親会社に提出するデータの作成をしたり、社内を回って色々と確認したり。





その時、受付の方で女性の怒鳴り声が・・・。





受付に来てみると、総務部の先輩が、50歳くらいの派手な女性から怒鳴り付けられていた。





「この会社の社員は本当に使えない!

全然私の話なんて聞いてない!!

希望通りの物件なんて1件も紹介されてないのよ!?」





総務部の先輩がまた口を開く直前、私が声を出した。





「弊社の社員が、ご迷惑をお掛けしたようですね。

なんてお詫びを申し上げれば良いか・・・。

どうぞ、なんてことのない社長室ですが、いらしてください。」





名刺を女性に差し出す。





「社長秘書の大橋、大橋莉央と申します。

貴重なご意見、教えていただけますでしょうか。」





社長室に通し、ソファーに促した。

少しだけゆっくりと、お茶とお菓子の準備をする。

女性が少しだけ社長室の中を見渡し、ソファーに深く座った。




ほんの少しだけ、クラシックの音楽を小さくかける。




お盆にのせたお茶とお菓子を持ち、ゆっくりと女性の横にしゃがみ・・・

ゆっくりと静かに、お茶とお菓子のお皿を置いた。




「すぐに弊社の社長に連絡を致しますので、どうぞ召し上がって下さい。」




そう言って、社長室を出た・・・。




そしてその足で、売買の営業部の島に向かう。




社内で仕事をしている残っているメンバーを確認し、ホッとした。

1人の男の営業の人のデスクに行き、その人の横にしゃがむ。




「色男先輩、お客様の対応お願いできますか?」




「さっき受付で怒鳴ってたオバサン?

やだな~・・・美マネのお願いでも。」




「まとまれば、大きな契約取れますよ?」




「本当・・・?」




私は色男先輩を見上げ、しっかり頷く。




「何であんなに怒ってたの?」




「詳しくは分かりません。」




「嫌だな~・・・。」




「色男先輩なら大丈夫ですよ、安心してください。」





社長室の扉をノックし、少ししてからゆっくりと入る。

有名店の和菓子とお茶が減っているのを確認し、女性の横にしゃがむ。





女性をゆっくりと見上げる。





50歳くらいの女性。

綺麗に白髪染めされている茶色い髪の毛、長めの髪の毛はボリュームが出るようセットされている、

一見、普通の服・・・少し派手な服にも見えるけど・・・

着ているコートは質の良い生地。

綺麗に大切に履かれている靴。





指輪を2つしていて、右手にしているのは少し大きめな宝石のついている指輪、

左手の薬指にしているのは、華奢なシルバーの指輪・・・。





困った顔をしながら、女性に話し掛ける・・・





「弊社の社長に連絡をしたところ、到着まで時間が掛かるようです。申し訳ございません。

それまで私がお話を伺いたいところですが、お客様のことを私よりも心配している社員がおりまして・・・」





社長室の扉が、丁度良いタイミングでノックされた。





「お客様の貴重なご意見、その社員が伺ってもよろしいでしょうか。

優秀な社員ですので、ご安心ください。」





女性は怖い顔で怒りながらも、小さく頷いた。






私はお礼を言い、ゆっくりと立ち上がり、社長室の扉を開けた・・・。






扉の前の色男先輩を見る・・・




35歳、綺麗で色白な肌、

目は一重だけど大きめで、鼻が高い、

口はしっかりと口角が上がっていて、

少しクセのある黒髪は、今日もしっかりとお洒落にセットされている。





私は色男先輩に小さくお辞儀をして、社長室を出た・・・





そして、色男先輩が、社長室の中に入っていく・・・。














色男・・・。









見た目が色男なわけではない。

喋りや雰囲気が色男なわけではない。

女性関係が色男なわけではない。








打たなければいけない場面で、絶対に打てる・・・。








その1本に勝負の行方がかかっている場面ほど、打てる・・・。








普段は埋もれてしまいそうな存在だけど、その時ほど魅力を増す。

その時だけなのに、忘れられない存在になる。

“あいつなら大丈夫”と思わせてくれる。







あとは、お願いします・・・。

代打の色男・・・。



















1時間程経った後・・・

社長室の扉が開いたのを確認し、扉の前で待つ。




「申し訳ございません、弊社の社長が遅れておりまして・・・。」




「いいのよ、社長さんに話すほどでもないから。

社員となんて話したくないと思ってたけど、この人は確かに優秀だった。」




「これから、物件のご紹介に行ってきます。」





色男先輩が、コートを羽織直した女性と一緒に会社を出ていく後ろ姿を見る。






こういう時は、取れる。

一旦落ちた時に上げられることが出来れば、どこまでも上がる。

そして、信頼関係が強くなる。





安心して、私もいつも通り仕事に戻った。

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