第4話 炎の巨人~どんな無理ゲーですか?~
アースゴーレムが粉砕された拍子に、大量の砂煙が発生していた。
それにより、ロボット兵の姿は完全に覆い隠されている。
砂煙の向こう側から、ロボットを操縦している者の声が響く。
地球でいうスピーカーのような装置から聞こえたのは、品のないダミ声だった。
『土人形ごときで、このユリウス様に勝てると思ってんのか! そこの女! てめえ、行方不明になってたエリーゼ王女だな!? 大人しく投降すれば、処刑台は勘弁してやる。俺がこっそり飼って、可愛がってやるぜぇ~』
もちろん軍の上層部に見つからぬよう、王女を飼うなど不可能だ。
ユリウスという操縦兵はエリーゼを
(男の方は、ぶっ殺しても問題ないな)
操縦席で
土煙が収まると同時に、機体の右腕に握られた片手剣で真っ二つにする。
それでおしまいだ。
ユリウスは、舌なめずりをしながら待ち受けていた。
そして土煙が収まった時――
そこにはすでに、
エリーゼの読み通り、ユリウスは判断の甘い未熟な操縦兵で間違いなかった。
■□■□■□■□■□■□■□■□■
土の巨人アースゴーレムが、森の中を駆け抜ける。
今回作られたゴーレムは機動性を重視し、先程よりひと回り小さい約3
左肩に乗せているのは、【ゴーレム使い】である賢紀。
彼は右腕をアースゴーレムの頭に回し、バランスを取っていた。
さらにゴーレムに左手を添えてもらっているので、安定感は充分だ。
小さな子供がお仕置きでお尻を叩かれる体勢みたいで、かなりカッコ悪い。
「ちょっと!
顔を真っ赤にしながら足をバタつかせ、エリーゼが抗議する。
「悪いが、なんとかしている時間はない。追いつかれてしまうぞ」
逃亡する際、賢紀は自分の真下からアースゴーレムを作成した。
あまり土砂が噴き上がらないように、コントロールしながら。
前回派手に土砂を噴き上げたのは、過剰な演出だったりする。
そのまま地面からせり上がってくるゴーレムの肩に、腰掛けた賢紀。
彼はゴーレムが完成すると、駆け抜けながらエリーゼを
この世界に召喚される前から、「危険そうな敵に出会ったら、さっさと逃げよう」と決めていた。
なので
「『
「…………」
「『偵察兵1人どころか、1個小隊くらいは蹴散らしてくれよう』とも言ってましたね?」
エリーゼは呆れた口調で、嫌味を続ける。
初っ端から「神の使徒」し過ぎたことを、賢紀は後悔していた。
「はぁ~。御使い様って、口ばっかりなんですね」
深くため息をつくエリーゼ。
さすがに賢紀も、ムカっとした。
先程の「チェンジ」発言の件もある。
(このガキ……。このままゴーレムで、ケツを引っぱたいてやろうか? ちょうどおあつらえ向きの体勢だしな)
しかし自分に添えられているゴーレムの左手で叩くと、体の支えが減るのでやめておく。
結構な速度と高さなので、
「このまま逃げ続けるわけにはいきませんよ? 奴を倒さなければ、集落は発見されてしまいます。そうなれば終わりです。増援を呼ぶまでもなく、1機で全滅させられてしまうでしょう」
「増援を呼べるってことは、あのロボット兵は他にも何機か配備されているんだな? やっかいだ。アー⚫ード・トルーパーよりは大きく、アーム・スレ⚫ブよりは小さかった。1番イメージが近いのは、ヴァ⚫ツァーか……。生身の人間やアースゴーレム程度では、勝てる気がしないな」
「……??? 御使い様? 何を言ってるんだか、さっぱりなんですけど?」
自分の知っているロボットアニメやゲームの機体と比較し、敵の戦闘力を推しはかる賢紀。
こちらの世界に来る前は、それなりに戦えるという自信があった。
【神の加護】が、それだけ強力だったからだ。
しかし、今は違う。
あまりの戦力差に、目が
「倒すには、火力が足りない。あのポンコツ神め。何が『俺様の加護を持っていたら、やりたい放題の無双状態』だ。ただの駆け出し兵士が、ボス級の強さじゃないか。こんなバランスブレイカーな兵器があるなら、教えとけ」
「あーっ! 今、フリード神様のことをポンコツって言ったー! 今度お祈りする時、チクってやる!」
段々口調がくだけてきたエリーゼ。
どうやらこちらが
「エリーゼ。この辺に、岩場とかないか? 石で作ったストーンゴーレムなら、少しは奴の装甲をヘコませられるかもしれない」
「多分ダメ! カタパルトの投石を食らっても、平然としていたという話を聞いたわ。ちなみに
「俺はこの世界に来て、いきなりドラゴンより強い奴とエンカウントしたのか……。どんな無理ゲーだよ? まったく……」
「……! ちょっと御使い様! 来た! 来た! 追いついて来てる!」
頭が後方を向いているエリーゼは、いち早く追跡に気づいた。
賢紀もチラッと、後方を振り返って確認する。
視線の先には、追ってくるロボット兵の姿。
多少の木々など、まるで障害にならない。
なぎ倒しながら、賢紀の想定よりもずっと俊敏に走ってくる。
速度はアースゴーレムより、ロボット兵の
(マズいな、すぐに追いつかれそうだ。岩より硬い、ゴーレムの素材にできそうなものは何かないのか?)
賢紀は頭をフル回転させて突破口を探るが、ロボット兵は待ってくれなかった。
「攻撃魔法来ます! 【フレイムアロウズ】が5発!」
エリーゼの鋭い警告が飛ぶ。
賢紀はアースゴーレムを走らせるため、前方を向いたまま。
だが後方で大きな魔力が収束し、放たれるのは感じ取れた。
【ゴーレム使い】の能力の1つに、魔力感知があるのだ。
この世界に来て早々。
賢紀は魔力の流れや、力の大小、質などを理解できるようになっていた。
「これは、直撃はしないコース。……だが」
賢紀達の頭上を通り過ぎた、炎の矢が5本。
それが進路上に着弾し、燃え上った。
高い炎の壁が半円状に広がり、賢紀達の行く手を
「森でこんな強力な炎の魔法を撃つなんて、非常識な! 大規模な森林火災になったらどうするの!」
アースゴーレムの腕を、手でバンバン叩きながら
「大丈夫だ、エリーゼ。延焼は、俺が止めてみせる」
賢紀は炎の壁に向かって、意識を集中させる。
今度は、恥ずかしいオーバーアクションは無しだ。
すると炎は両端から消えてゆき、真ん中へと収束していった。
そして、炎の巨人が誕生する。
巨人は胸の前で、腕を組んだ。
「さあ、どんな命令でもこなしてみせよう」 とでも言いたげに、
まるで、アラビアンナイトに出てくるランプの精だ。
「行け。フレイムゴーレム」
賢紀はロボット兵の方を振り返り、淡々とした口調で炎の巨人に命令を下す。
中身はバタバタしているが、外見は冷静沈着。
それが本来の安川賢紀だ。
【神の使徒】らしさを意識した戦闘スタイルは、封印することに決めた。
燃え盛る炎の巨人は、賢紀達の乗るアースゴーレムの横をゆらりと通り過ぎた。
そのままロボット兵に襲いかかる。
美しく、
滑らかで、素早い身のこなし。
エリーゼも、期待に輝く
フレイムゴーレム渾身の右ストレートが、ロボット兵の胸部装甲に突き刺さる。
『うおっ!』
操縦兵ユリウスの声が、外部スピーカーのような装置から流れた。
パンチを食らい、焦ったようだ。
胸部装甲にフレイムゴーレムの拳が触れた瞬間、ぶわりと燃え広がり――
――そのまま消えた。
拳から腕、胴体と連鎖的に炎は膨れ上がり、そのまま霧散する。
『は?』
まさかのノーダメージに、ユリウスも面食らっていた。
(………ですよね。こうなりますよね。炎って、質量は無いですもんね)
【ゴーレム使い】は心の中で冷や汗をかきながら、妙に納得する。
「………………」
アースゴーレムの右脇に、抱えられたままのエリーゼ。
彼女の沈黙が、賢紀には非常に気まずかった。
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