第2話 自由神様のご加護~【ゴーレム使い】一択ですか?~

 やすかわけんは、銀色の不思議空間を走り続けていた。




 うねうねとひずんで見える景色以外、何も見えない。


 だが、地面は確かにあるようだ。


 中空を踏みしめながら、賢紀は走る。




 30秒ほど走った時、彼の視界は真っ白に染まった。






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 賢紀の視界が戻る。


 立っていたのは、神殿を思わせる神秘的な場所。


 ギリシャのパルテノン神殿に似た建築物だが、材質が異質なものでできている。


 大理石とガラスの中間みたいな、青白い半透明の謎物質だ。


 見上げると空はがね色に輝き、神殿の周りは空と同色の雲に覆われていた。


 先の景色がどうなっているのかは、よくわからない。




 神殿の奥に視線を向けると、ソファに寝そべる男が1人。


 年齢は、40歳くらいに見える。


 長身で、細いが筋肉質な体型。


 中年のしぶあふれる、ナイスミドルだ。




「よく来たな、ケンキ・ヤスカワ。俺様は自由神フリード」


 その言葉に、賢紀は衝撃を受けた。

 

 彼は異世界に転移・召喚されるタイプのライトノベルも好きだ。


 したがってそれらの物語と同じように、神様とかいこうする可能性は考えていた。


 考えてはいたのだが……。




(神様というより、まるでベテランホストだな)


 それがフリードの服装を見た、賢紀の感想。


 自由神は薄紫色のワイシャツに、パンツルックという格好だった。


 開いたえりもとからは、品がないデザインのネックレスがのぞいている。


 チャラさ全開で、全然神様に見えない。




「俺に助けを求めたのは、貴方あなたなのですか? 女性の声に、聞こえたのですが……」


 賢紀の問いを、フリードは手をヒラヒラさせながら否定した。


「あー、違う違う。助けを求めているのは、俺様の可愛い信徒ちゃんだ。地球とは、異なる世界にいる。その子を助けるための力を、お前にくれてやろうと思ってな。【神の加護】……最近流行りの、チート能力ってヤツだ」


 どうやら自由神様は、日本のサブカルチャーに詳しいようだ。




「今からお前を送り込む異世界は、地球で言うなら近世ヨーロッパくらいの文明だ。魔法あり、魔物ありの世界。お前の好きなド●クエや、初期のエ●エフみたいな世界をイメージしてくれればいい」


 自由神は、ゲームも詳しい。


 ゲームの好みまで把握されていることを「なんかヤだなぁ」と思いつつ、賢紀は黙って話を聞き続ける。


「そんな世界だから、俺様の加護を持って行ったらやりたい放題の無双状態だ。俺TUEEEってヤツだ。自由神フリード様の使徒ってことで、信徒からはちやほやされるぞ~。モテモテで、ハーレムも作れるぞ~。フリード教は、恋愛の自由も尊重する教義だからな。一夫多妻、全然OKだ!」


 ニヤリと笑いながら、サムズアップするフリード。


 賢紀はハーレムにあまり興味がなかったので、話題を核心的な部分に切り替えた。




「それで? 俺は異世界で、何をすればいいのですか? 強力な加護をもらえるってことは、その信徒ちゃんだけを助けて終わりってわけじゃないんでしょう?」


「お、話が早くて助かるぞ。ズバリ言うと、俺様への信仰心を集めて欲しい」




 フリードいわく。


 神は人々の信仰心が集まり、人格を持った精神生命体らしい。


 信仰が薄れたり信徒の人口が減ったりすると力が弱り、最悪では消滅してしまうそうだ。




「最近急激に、信徒の数が減ってな。正直、俺様は消滅寸前だ。どうやら戦争があって、俺様を信仰する国が滅亡寸前らしい。敵対している戦女神を信仰する帝国が攻めて来て、信徒は殺されたり、改宗させられたりしているそうだ」


 ずいぶん確証の無さそうな言い方に、賢紀は不満を覚える。


 「俺の個人的な趣味まで把握していたのに、異世界側の情報収集が全然足りてないじゃないか」と。




「だから俺様の加護を使い、帝国との戦争に勝て。そしてフリード教の信仰国を、復興させよ。……おっと、女神の信徒を全滅させたりまではしなくていいぞ。さすがにリースディースの奴が消滅したら、可哀想だからな」


 つまり賢紀の仕事は、神々の代理戦争である。


 「こりゃ、大変な異世界ライフになりそうだ」と、頭が痛い。


 もうひとつ賢紀には、不安な点があった。


 平和な日本で生きてきた自分が戦争を――人の命を奪うことが、できるのかと。




 そこで賢紀はふと、思いついた質問をしてみる。


「俺は使命を拒否して、地球に帰ることは可能ですか?」


「今は無理だぞ。もう地球へのゲートは、閉じているからな。すでにスタンバイ状態である、異世界側にしか送れない。しかしお前が俺への信仰心を集め直し、力を取り戻せば地球に送り返すこともできる。お前がその時、帰還を望めば……だがな」


「選択させてくれるんですね。……後で考えます」


「よろしい。ではそろそろ、俺様の加護を授けよう」




 そう言ってフリードは左手を少し上げ、手の平を上に向けた。


 ポウッという優しい音と共に、青白い光の球が出現する。




「加護の名は【ゴーレム使い】。この力を使い、女神の信徒共をじゅうりんせよ」


 ドヤ顔で告げる自由神フリード。


 それに対し、賢紀はぜんと答えた。




「すみません。チェンジでお願いします」




「おいコラ! ありがたーい俺様の加護を、チェンジとはどういうりょうけんだ? デリヘルじゃねーんだぞ」


 偉大なる自由神様は、日本のサブカルチャーだけでなく風俗事情にも精通していた。




「【ゴーレム使い】って、なんかイマイチかっこ良くないじゃないですか。敵……それもラスボスじゃなくて、中ボスっぽいです。もっとこう、『ザ・神の使徒』って感じの加護はないんですか? 【勇者】だとか、【聖騎士パラディン】みたいな。ある程度かっこ良くないと、信仰を集めるのも大変そうですし」


「そういう加護は、人気でな。売り切れ中だ」


「なら【暗黒騎士】とか、【死霊術師ネクロマンサー】とかってありませんか? 個人的には、そっち系がカッコいいと思います」


「神の使徒が【暗黒騎士】とか【死霊術師ネクロマンサー】とか、フザけんな! 怪しさ大爆発だろが! つーかそういうのがカッコいいっていう、お前のセンスは何だ? 中二病ってヤツか?」




 賢紀は少し、首をかしげて尋ねる。


「もしかして、【ゴーレム使い】一択ですか? 他に加護って、全然残ってないんですか?」


「実はそうだ。俺様の力が万全なら、【英雄】とか人気の加護も補充して与えることもできたんだが……」


「今は加護の補充ができないポンコツ神だから、残りものを渡すしかないと」


「あんまり調子に乗ってると、神罰を食らわすぞ? もっとも今の俺様では、『巻き爪になる神罰』とか『ケツ毛が生える神罰』くらいしか使えんがな」


「地味に嫌な神罰ですね。すみません、調子に乗り過ぎました。巻き爪もケツ毛もかんべんしてください」


「わかればよろしい。【ゴーレム使い】は人気こそないが、れっきとした神の加護。人間の限界を超えた魔力を得る。あとは土や岩からゴーレム……人形みたいなものだな。そいつを作り出せたり、ゴーレムを操れたり……色々だ」




 最後のほうは、しょってしまったフリード。

 

 そのことから、賢紀は推測する。


 神様自身も【ゴーレム使い】の加護について、よく分かっていないのではないかと。




「とにかく受け取れ。向こうはモンスターもいる世界だぞ? 加護なしじゃ、小鬼ゴブリン相手にタイマンでも勝てるか怪しい」


 そう言うとフリード神は、光球を賢紀へと放った。


 光球はゆっくりと宙を飛び、賢紀の胸へと吸い込まれる。




  同時に服装も変わる。


 上は神官の祭服を動きやすく簡略化したような、あいいろの服だ。


 さらにその上から、暗い紫色のローブを羽織っている。


 下は作りのしっかりとした、草色のズボン。


 底が頑丈そうな革製のブーツまで、サービスしてくれた。




「あとは心の中で、自分の加護に問いかけろ。そうすれば自然と、力の使い方がわかる」


 さっそく賢紀は、加護に問いかけてみた。


 【ゴーレム使い】の能力について、頭の中に情報が流れ込んでくる。




「なるほど。これは思ったより、色々なことができそうな能力ですね」


「わかったなら、そろそろ行け。……あ。向こうでの言語は、心配しなくていいぞ。加護とは関係なく、言語理解の能力を与えた。そうしないと俺達神々は、様々な世界や国の言葉を使い分けないといけないから面倒でな。ここに着く前に、自動的に付与される仕組みになっている」


 だから自分は、向こうの世界からの助けを求める声が理解できたのか?


 そんなことを考えていた賢紀の足元に、がくようの魔法陣が輝いた。


 これを使い、異世界へと送られるようだ。




「ねぇ~。フリード様~♪ まだ、お話終わらないのぉ~?」


 突然だった。


 フリード神の寝そべっていたソファの後ろから、神族と思わしき女性が姿を現したのだ。


 古代ギリシャっぽい、いかにも女神様という格好。


 だが、露出が多い。


 彼女は豊満な肉体を、惜しげもなくさらしていた。




「ああ、グレース。悪いな。新しい使徒が、やたらとゴネる奴でな」


 フリードは女神らしき女性の腰に手を回し、イチャつき始めた。




「あ~ん♪ フリード様~、まだダメよ~♪ 使徒ちゃんが、見ているわ♪」


「大丈夫、大丈夫。転送の魔法陣から出る光で、見えないさ。すぐに居なくなるしな」


 賢紀は魔法陣から出る光のカーテンに包まれていたが、フリード達のイチャついてる様子はバッチリ透けて見えていた。


 この神様、自分が消滅するかもしれない時に余裕である。


 「さすが自由をつかさどる神」と、賢紀は変な方向で感心する。




 同時に思う。


 この神様は、女性関係も自由奔放そうだ。


 女神の新興国が攻めてきたというのも、痴情のもつれからとかではなかろうか?


 疑念を浮かべていると、賢紀の見ている風景がゆがむ。




 続いて、落下しているような浮遊感に見舞われた。






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 世界と世界のはざ


 異世界へと転送される途中。


 賢紀は色々と考えていた。




「さて。いよいよ異世界に転送……いや、呼ばれたんだから召喚か? 召喚後の展開について、心の準備をしておかないとな」




 1番危険なのは、異世界到着早々敵との戦闘が待っているというパターンだ。


 信徒とやらが助けを求めていたことからも、敵兵や魔物と交戦中という可能性は高い。




「ドラゴンとか強そうな相手に襲われていたら、信徒さんを連れて逃げることにしよう」


 加護に問いかけた時、理解した。


 【ゴーレム使い】の能力を使いこなせれば、ドラゴン相手に互角に立ち回ることもできそうだ。


 だがあくまで、使いこなせればの話。


 ドラゴン級の強敵に出会ったら、ゴーレムで足止めして逃げたほうが安全である。


 あれこれ思考を巡らせていると、歪んでいた周囲の景色が形を取り始めた。


 緑色に色づいている。

 どうやら森の中のようだ。




「む? 目の前に、人がいるな……。戦闘中とかではないようだ。フリード神の使徒だと名乗れば、無下に扱われるってこともないだろう。敵だという可能性は……低そうだな」




 まだ少し歪んで見えるため、断定はできない。


 だが目の前にいる人物は、12~13歳くらいの少女に見えた。




 ふいに賢紀の体から浮遊感が消え、足が地面に着いた感触があった。


 同時に周りの景色が、ハッキリと見えるようになる。




 次の瞬間、目の前に銀髪の少女がひざまずいていた。






使つかい様。ご降臨、感謝いたします。私は自由神フリード様の信徒、エリーゼ・エクシーズと申します」





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