第24話 2人の王


ニンファ城の会談の場にて2人の王が、外交交渉をしていた。


「先ずは先の戦い、お見事でした」


ネレは魔族との戦争に勝利した事実を褒めると、アンドレア王は少し驚いたような表情をする。


「お褒めの言葉ありがとうございます。——しかし意外でした。先の件、ネレ女王にとっては心中複雑な事と思いましたが…」


「半分正解で、半分はずれだわ。私の中にも魔の血が流れていますが、心は人間です」


「そうでありましたか。志は初めて会った時と変わらずですな」



——コンコン


ドアをノックする音が響く。


その正体はネレに仕えるメイドで、ティーカップ2つを片手のトレイに乗せて訪れる。


メイドは手慣れた動作で、2人の前の机にカップを置き、その場を後にした。


アンドレア王はそのお茶を一口飲むと、直ぐに話を切り出した。


「さっそく本題ですが、話の全容は予め、ガルーマの方からお聞きになられてると思います」


「えぇ。資材融資の件だと聞いているわ」


「はい。一国を築ける領土を手に入れましたので、是非協力をして頂ければ——」


アンドレア王は、懐から質の良さそうな巻物を取り出し、それをネレに差し出す。


「こちらが、資金計画と領土開発計画書です」


ネレは巻物を受け取り中身を見ると、そこには目を疑うような事が記されていた。


メリーヌはネレの驚いた表情を見て、直ぐに近寄り巻物を見る。


「——これ…!?開発に必要な天然木材が70%も!?それに、この期日…!こんなめちゃくちゃな——」


メリーヌの1人走りをネレは手で静止させる。


「どう言う訳かお聞きしても宜しいでしょうか?」


アンドレア王は髭を触りながら、その理由を答えた。


「実は我々がここへ来る前、その領土が魔獣の仕業によって更地にされまして。再利用できるような資源は殆ど残っておらず、全て1から開発する羽目になりました」


「この期日に関しては?」


「元は魔王国があった領土ですから、周辺にはまだ強大な魔獣が縄張りとして蔓延っています。なるべく素早い対応が必要だと思いこの期日に致しました」


ネレは巻物を机の上に置き、アンドレア王の目をしっかりと見て話す。


「多少であれば私達も資材融資は可能ですが、ここまで必要になると話は変わってきます。これに掛かる資金と人員は莫大なものになるでしょうし、明日にもこの国の資材を必要とする人もいます。それに、私が今までどんな政策をしてきたか、あなたもご存知でしょう?」


「肩入れしない政策は、昔からお変わりなくですね」


「そう。私達の国は精霊の御霊によって繁栄をしました。それは過去の先人達が精霊と共に築き上げた産物。それを一つの国が、一時的に独占する事は許されません」


アンドレア王は軽く深呼吸し、言葉を出した。


「ネレ女王。私は、独占するつもりはありませんよ」


ネレは彼の話を黙って聞く。


「——独占では無く、共有です」


その言葉にネレの表情が曇る。


「共有?」


「はい。私がここへ出向いた本当の理由です」


アンドレア王は一呼吸おいて、口を開く。



「——我々の傘下に入って頂けませんか?」



その言葉に静寂が一瞬。


直ぐにメリーヌが大きな声を出す。


「何を言っておられるのですか!?そんな事——」


「やめなさいメリーヌ!」


ネレは強い口調で再びメリーヌを止める。


「し、しかしネレ様!これは…!」


「えぇ、当然答えは決まってるわ。しかし、こんな杜撰な提案をする程、彼は軽率な人間ではない」


「えぇ。傘下と言っても従属的な関係では無く、あくまで相互扶助として関係を築きたいと思っております。資材の共有をして頂ければ、この国の永続的繁栄を約束します」


「ニンファ国の歴史の長さは、あなたも知っておられるでしょう?今の我々にはその援助の必要ありません。それともこの先、永続的な繁栄が出来なくなるような事が起こると考えておられるのですか?」


アンドレア王は髭を触りながら笑う。


「いえいえ。そんな事は考えておりませんが、万が一と言う事があります。先程も言いましたが、一国を更地にする程、強大な魔獣がこの世界には存在します。我々の国には、とても優秀な兵が居るのでその心配はありませんが——」


ネレはアンドレア王の言葉を遮った。


「私にも優秀な兵はいますので、心配なさらず」


その言葉を聞くと、アンドレア王はニンマリと笑う。


「そうですか。女王は彼女の事をとても信頼しておられるのですね」


アンドレア王はメリーヌを見ながら再び懐を探り、今度は上質な紙切れを机の上に置いてネレに渡した。


「これは私の魔力が込められたマジックレターです。もし、何かあればこれを飛ばして下さい」



その言葉を最後に、2人の王の会談は終わりを迎え、5台の箱馬車はラザレオの帰路に着く。




——夜


「おかわりはどうなさいますか?」


「頂こう」


中央を走る箱馬車内にて、専属のメイドがおかわりのワインを注ぐ。


「今日はご機嫌ですね」


メイドはグラスを彼に渡しながら言葉を口にする。


そして彼は、小窓から見える佇んだ月を見て答えた。


「あぁ。今夜は酒が美味い」


その言葉は、王とメイドの2人だけの空間に響いた。

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