第23話 精霊
作戦2日目、早朝。
アンドレア王を乗せた5台の箱馬車は、ニンファ国の規制された大通りを行く。
魔王を退治し、世界的に有名となったエタニティ部隊の姿を一目見ようと、道路に現地の人々が群らがった。
ラザレオの兵達は、外敵から王を守るように箱馬車を囲み、隊列を組んでゆっくりと王城を目指した。
——城門にて、ネレとメリーヌ、そしてニンファに仕える兵達がアンドレア王の到着を待機していた。
「いよいよですね」
メリーヌは少し緊張した面持ちで構える。
「そうね」
300年以上生きたハーフエルフのネレは、短い返事をする。
今まで多くの場数を踏んだネレは、人間であるメリーヌとは違い、肝っ玉が据わっていた。
——町を抜けて王都へ着き、アンドレア王を乗せた箱馬車は城の目の前に着くと、隊列を組んだ兵達が止まる。
そして、王とエタニティ部隊を乗せた箱馬車は大きな城門を潜り、2人の前で停まった。
先に降りたのは、先頭と後尾の箱馬車に乗っていたマリアとデルバとルーラとマーラだ。
彼らはアンドレア王が乗った箱馬車の前へ隊列を組んで待機した。
そして、アンドレア王の乗る箱馬車の扉が開き、ウォレンとミーリアが降りて4人に合流する。
2人に続き今度は専属メイドが降り、馬車の前で頭を下げる。
それに続きエタニティ部隊も頭を下げた。
最後にゆっくりと降りて来たのは、ラザレオのトップであるアンドレア王だ。
アンドレア王はメイドの誘導で、ネレとメリーヌの前へ行き挨拶をした。
「お久しぶりです。ネレ女王殿」
アンドレア王は丁寧に頭を下げた。
「30年ぶりね。元気で何よりだわ。アンドレア王」
アンドレア王の前でもネレは毅然とした態度を取る。
2人の会話を隣で聞くメリーヌは、今までにない緊張を覚え、自然に背筋が固まる。
「じゃあ、会談の場に案内するわ」
ネレは踵を返して城の方へ歩き出し、メリーヌが後を追う。
アンドレア王と専属メイドはそれに続き、エタニティ部隊のメンバーは、ニンファ兵の案内で休憩室へ行った。
エタニティ部隊が案内された休憩室は、高級感のある天然木目調の部屋だ。
部屋の中にある、ありとあらゆる物はニンファで採れた天然木材で作られていた。
エタニティ部隊のメンバーは、ラザレオ城では絶対に見ることの出来ない自然の部屋を物見遊山する。
「すごい…。殆ど木で出来た部屋だ」
ルーラは木材で出来たアンティークの模型を触りながら言う。
「あまり、触らない方がいいわぁ」
マリアはゆっくりとした口調でルーラに注意する。
「え?何でですか?」
「ニンファで採れる天然木材は高いのよぉ。その小さな模型でも数百万ベールはするわ」
「えぇ!?」
ルーラは直ぐにその模型を置き、驚愕する。
「こ…こんな模型が…数百万ベール…!?」
「…ルーラのお小遣いじゃ、一生買えない」
「ひぃぃぃいい」
マーラの皮肉は悲しくも事実であり、ルーラは膝から崩れ落ちる。
「おっ!このソファもすげーぞ!見た目はただの木の板なのに、座るとフカフカだ」
デルバが座ったソファは、一見ただの木の板で作られた硬そうなソファに見えるが、腰を下ろすと木が物理変化し、忽ちフカフカのソファへと変わる。
それを見たルーラは何事も無かったように一転し、興味津々に走ってデルバの横に座る。
「うわっ!なにこれ!?きもちわるっ!」
見た目とのギャップに、ルーラは率直な感想を言った。
「精霊の息が掛かっているのか」
「せーれー…ってなんですか?」
ウォレンの言葉にルーラは質問する。
「この国の民間伝承さ。常識じゃあり得ない事が、この国では当たり前のようにあったりする。今のようにな」
「へぇ〜。精霊ってどんな人なのかな」
「精霊は人じゃない。精霊は実態を持たない」
「え!でも、実態がないのにどーやって息を吹き掛けるんですか!?」
ウォレンは手を顔に当て、小さくため息を吐く。
「すまない。俺の言い方が悪かった…」
「ルーラ。"息が掛かる"って言うのはただの比喩よぉ」
「でも、精霊に実態がないのは本当の話だ!精霊の正体は死獣の魂だと言われているからな!」
マリアとデルバがルーラに説明するが、さらに混乱してしまう。
「死獣の魂はこの国の大地に還り、精霊として生まれ変わる。そして、ニンファを見守っているの」
「…それがこの国に伝わる精霊の伝承」
ミーリアとマーラも説明に入った。
「な、何でみんなそんな事知ってるのさ…!?」
「…学校で習う。…ルーラ勉強不足」
そして、ルーラは再び膝から崩れ落ちた。
——勉強不足が露呈してしまったルーラに、エタニティ部隊のメンバーは、この休憩時間を使ってニンファ国の歴史を頭に叩き込ませたのだった。
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