第20話 作戦


「良い動きだ!ミーリア!」


「ありがとうございます!」


グレンとアーシャが孤島へ転移した日と同日の早朝。


エタニティ部隊はラザレオ城にある広大な外庭で、いつものように剣術の稽古をしていた。


ウォレンはミーリアと剣を交え、ミーリアの機敏な動きと鋭い剣撃を褒める。


「なんか、人が変わったみたいだね。あんな真面目に稽古してたっけ?」


ルーラがミーリアの姿を遠くから眺めて言う。


「だよな。あれから2日しか経ってないんだぜ?女って本当わからねぇよな」


ルーラの話をデルバが共感しながら話す。


「そんな直ぐに人が変われるわけないでしょ。ミーリアは強い子だから、人に弱い姿なんて絶対に見せないわ」


マリアは少し悲しそうな表情をしながら話す。


「女の人って強いんですね。僕なんて、まだ受け入れられませんよ…。グレン先輩が…そんな…」


ルーラが少しずつ涙声になり、それを見たデルバがルーラの背中を優しく叩く。


「俺もだ、ルーラ。今でもあいつは飄々と生きてんじゃないかって思うよ。——ったく。泣きてぇ時に泣いときな。歳食ったら泣けなくなるからな。胸くらい貸してやる」


「うぅ…!うわーん!!」


ルーラは泣きながら走る。


デルバは腕を広げルーラが来るのを待つが、ルーラはそこを通り過ぎて、デルバの後ろに居たマーラに抱きつく。


「…なんで私に」


「だって、デルバさん汗くさいんだもん!」


それを聞いたデルバは泣きそうになる。


「さぁ、茶番は終わりよ。ほら稽古に戻って!」


マリアが手を叩き、皆を正す。




——暫くして外庭に1人のラザレオ兵が訪れる。


「ガルーマ様より伝令!"午後1時より会議室にて会合"との事です」


「了解した」


ウォレンが返事をすると、ラザレオ兵はその場を去った。


「よし、今日の稽古はここまでだ!各自、自室で休息を取り、1時に会議室へ集合だ!」


ウォレンは全員に聞こえるように大きい声を出して解散を命じる。


そして、各々外庭を後にして午後1時を待った。




——午後1時、会議室


部屋の真ん中に大きな机があり、それを囲むように椅子が配列され、部屋の入り口側にエタニティ部隊は、お互い顔を合わせるように3人ずつ向かい合わせで座る。


ガルーマは机の短辺側に立ち、マジックレターの魔法で、6枚の紙をそれぞれに渡す。


「今回のここにエタニティ部隊が集まってもらったのは、8日後に出立するはずだった護衛任務が、5日後に変更になったからです。本来であれば、もう少し余裕を持って念入りに作戦を練りたいところですが、アンドレア王様は急を要するとの事です」


ガルーマは堅苦しく今回の作戦の説明を始めた。


「5日後早朝6時より、ここラザレオを出立します。移動方法は箱馬車です。5台使用し縦陣で移動します。先頭馬車にはマリア殿とデルバ殿が乗ってください。後尾馬車にはオルタリア兄弟。そして、真中馬車にはウォレン殿とミーリア王女が乗ってください。ラザレオ兵が乗った残り2台の箱馬車は、真中の箱馬車を挟む様に右翼側とと左翼側に配置します」


淡々と話すガルーマにウォレンが質問をする。


「この陣形と人員配置には何か意味があって決めたのですか?」


「アンドレア王様が考えられて、この陣形と配置になっております。後方からオルタリア兄弟には結界を張ってもらい魔獣の感知をお願いします。もし感知した場合はテリパティの魔法で全員に共有をしてください。奇襲や襲撃をしてくる魔獣に関しては、先頭馬車のお二人とオルタリア兄弟での迎撃をお願いします。そしてアンドレア王様の安全を考慮し、ウォレン殿とミーリア王女には箱馬車にて護衛をお願いします」


ガルーマは事細かく完璧な説明をし、ウォレンや他のメンバー達もそれに納得する。


「次はルートですが、これは安全面を考慮し公道を進みます。ですので到着予想は、日を跨いで次の日の朝になると思います。到着しましたら、各自休息を取ってください。その間に話が行われると思います。恐らく、3時間程でアンドレ王様は戻られると思いますので、その後は帰路についてください。帰りのルートと陣形は出立時と同じようにお願いします。何か不明な点や質問などありましたらお願いします」


ガルーマがする説明には質問者はおらず、彼だけが話して終わる事が毎度の事である。


そして、ガルーマは会議室を後にしエタニティ部隊だけがその場に残った。


「てゆーか、なんで僕たちがニンファなんかに行かなくちゃ行けないの?」


ルーラは配られた紙をまじまじと見ながら言う。


「当然だ。王の護衛となると兵を総動員する必要がある。それに、俺たちはラザレオの主力部隊なんだ。何があっても、この作戦には参加しなきゃいけない」


ウォレンはルーラを諭すように答えた。


「でも一国の王様が、わざわざ危険を犯してまで行く必要なんてあるんですか?」


「急を要するって言ってただろ。危険を犯してまでやらなくてはいけない事があるんだよ」


「やらなくちゃいけない事って一体——」


「ルーラ。それ以上詮索すると、こわーい人達がお前を拐いに来るかもしれないぞー!!」


デルバが怖い顔をしてルーラを脅す。


「いやぁぁぁぁああ!」


「こらこら。あんまり、怖がらせるもんじゃないですよ」


マリアが優しく注意する。


「はは!わりぃ!まだ子供だもんな!!」


「ぼ、僕は子供じゃないです!!」


「…ルーラは子供」


「マーラまで!!」


ルーラの隣でずっと黙っていたミーリアが初めて口を開く。


「——別に隠す程の事でもないわ。先日の戦争で出来た魔王国領土の開発と開拓をする為に、ニンファへ行くのよ。魔獣達が領土に住み着く前に手を打っておく必要があるから急ぎなの」


「なるほどねぇ〜。ミーリアって意外と頭脳派?」


「フン!これでも一国の王女よ!騎士官候補生の時の座学は常にトップだったんだから!」


ルーラの質問に、胸を張って答えるミーリア。


その毅然とした姿は、数日前の悲しみすら無かった事の様に見せた。


しかし、誰の目から見ても彼女の心はここに在らずといった表情を常にしていた。


——そして、各々がいろんな気持ちを抱え、5日後の護衛作戦に備えたのだった。

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