第19話 特訓


2人は依頼達成の報告をする為に、転移水晶を使ってガンバ村からニンファの町のギルドに転移した。


そしてアランは、アルケイトで作ったアースゴブリンの頭をギルドの受付嬢に差し出す。


「ひっ!」

受付嬢は鬼の形相をしたアースゴブリンの頭部を見て声を上げる。


「達成証明だ。報酬金を貰おう」


「は、はい!今すぐに!」


受付嬢はそそくさと奥の部屋へ行き、報酬金の準備を始めた。


「何で報告するだけなのに、アースゴブリンの頭が必要なのよ?」


フウラはアランの取った行動に疑問を持つ。


「お前、ジオールの話聞いてなかったのか?」


「殆ど寝ていたからね!」

フウラは威張る様に答えた。


「何で誇らしげなんだよ…。——討伐依頼された、その魔獣の生命活動を断つ部位を持っていけば、直ぐに報酬金が貰えるんだよ。それが達成証明だ。その証明がなく口頭だけの報告だった場合は、ギルドの職員が現地に行って討伐の有無を確かめるんだ。だから、報酬金を貰うまでに時間が掛かる」


「なるほどね。色々考えてあるのね」


「当然だ。そこの穴をちゃんとしておかないと、ズルして儲ける輩もいるからな」


「よく言うよ。アンタが一番の大穴じゃない」


「俺みたいな奴が大勢いれば、いずれ対策もするはずだ」


お金が入った小袋を持って受付嬢がカウンターへ戻ってくる。


「お待たせしました!これが報酬金です」


「ありがとう」


アランは礼を言ってお金を受け取り、明日からの予定を受付嬢に話す。


「——明日からの事なんだが、採集依頼を見繕ってくれ」


「す、すみません!こちらに届いてる採集依頼は全てフラット団の方達が引き受けて行きました…」


「ほう。どう言う風の吹き回しだ」


「なんか、フラット団のリーダーが"初心に戻る事も大事だ"とかなんとか言ってました…」


「そうか。それはいい心掛けだな。じゃあ、俺達は暫く遠征に出る」


後ろでそれを聞いていたフウラが慌てて話に割り込む。


「ちょ!遠征って何処に行くのよ!?」


「まだ決めてない」


「はぁー!?」


「まぁ、兎に角そう言う事だ」


アランは小袋を持ってギルドを後にしようとすると、


「あ、アランさん!待ってください!」


受付嬢がアランを引き止める。


「——戻ってきますか?」


受付嬢は心配そうな顔をしていた。


「どうして、そんな事を聞く?」


「い、いえ。少し気になったので…。ゼオライト級の冒険者はこの世界にそう多くは居ませんので。その——」


「すぐに戻ってくるから、心配するな。俺も拠点はコロコロと変えたく無いしな」


それを聞いた受付嬢は嬉しそうに返事をした。



——2人はギルドを出て、宿屋ニーフに向かった。


その道中。


「明日から魔獣操作ビーストオペレーターの練習をするぞ」


アランが歩きながらフウラに話しかける。


「え、じゃあ遠征ってもしかして——」


「そうだ。孤島に帰る」


「げっ!じゃあ私の練習相手って、ゴブリン!?」


「そう言う事になるな。明日から頑張れよ」


「うぇーん。やだぁー!」


「お前が魔眼を使いこなせるようにならないと、俺たちも生計が立てれないんだ。同族は殺したく無いだろ?」


「そうだけど〜。——って、アンタが採集依頼を頼んでたのって生計を立てるためだったの?」


「当たり前だ。まぁ、それもフラット団が全部引き受けてしまって、収入源が無くなってしまったけど」


「じゃ、今の私達の全財産って——」


「この小袋の中身だけだ」


「うそーん!!!」


「だから、お前には是が非でも魔眼を習得してもらう必要がある」


「うぅ。頑張るわ」


その後、2人は宿屋ニーフで体を休め、明日に備えた。


——翌日。


微睡のフウラは、外から強い光を受けて目を少しずつ開ける。


その正体は日光であり、気持ちの良い朝を迎えたと思いベッドで寝返りをすると一転、それは地獄と化する。


「ぎゃぁああああああああああ!!!」


寝返りを打ったフウラの視界に飛び込んできたのは、鬼の形相をしたアースゴブリンだった。


「やっと目が覚めたか」


アランはアルケイトで作り出したベットの上にあぐらをかいてフウラに話しかける。


「ちょっ!えっ!どーゆこと!?」


フウラは周りを見渡すと、そこは3日前に訪れた孤島の頂に転移していた。


空は青く、雲は優雅に浮かび、海は静かに音を立てており、そこから見える景色は絶景だった。


「ここはいい眺めだな」


アランはベットから降りてフウラの元へ行く。


「まぁ…、そうだけど。——いや、何でもう転移しちゃってるの!?」


「気持ちよさそうに寝ていたからな。起きてすぐにこの絶景を見せてやろうと思ってな」


「起きてすぐに絶叫だったわ…」


それを聞いたアランはクスクスと笑った。


「アンタ狙ってやったでしょ!?」


「いやー、悪い!本当にそんな気は無かったんだ」


遂にアランは声を出して笑い出した。


それを見てフウラも笑う。


「なんか、初めて見たかも。アンタが声出して笑ってるの!」


「そうか?まぁ、そうかもな。あの日からずっと張り詰めていたからな」


「そうね。色々あったもんね」


フウラもベットから降りて背伸びをする。


2人は孤島の頂から見える景色に恍惚とする。


——暫くしてアランがストレッチを始めた。


「そろそろ、特訓を始めるぞ」


「え?もう?早くない?」


「時間は有限だ。早く習得してニンファに戻るぞ」


「有限って、時間を止めれる人の言うセリフかね」


こうして2人は、空と海が一望できる孤島の頂で、魔獣操作ビーストオペレーターの特訓を始めた。

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