第18話 魔獣操作


「な…なんで、頭下げてんの…!?」


フウラは、アースゴブリンが取った行動に疑問をもつ。


そう、アースゴブリンはフウラに敬意を示すように、膝をついて頭を下げていた。


結界の外から一部始終見ていたアランは驚きつつも、フウラの姿を見て、何となく現状の把握をした。


「——魔獣操作ビーストオペレーター


アランは口から溢れるように言った。


「な、何よそれ!?」


「魔獣達を意のままに従わせる事が出来る力だ」


「うそ…これ…私がやってるの?」


「多分そうだ。俺は特に何もしていない。魔獣操作ビーストオペレーターは魔法じゃないからな」


「でも変わったことなんて、私何も…」


「おそらく、お前の魔眼が関係している」


「魔眼が…?」


「あぁ。お前の魔眼が発動したタイミングと"待て"という命令。そしてアースゴブリンの態度からして、十中八九そうだと思う。試しに何か命令してみろ」


フウラは少し考えて解を出す。


「じゃあ、"立ちなさい"!」


すると、アースゴブリンは命令通り立ち上がった。


「本当に立った…」


半信半疑だと思っていたフウラの心内は確信に変わる。


「やっぱりな」


「でも、どうしてこんな力が私に?」


「遺伝だ。ルーク・エンドメルも同じ魔獣操作ビーストオペレーターを使っていたからな。まぁ、魔獣操作ビーストオペレーターをするのに魔眼が必要だったとは俺も初めて知ったが、父親の血を濃く受け継いだお前なら、それが出来ても不思議ではないさ」


「凄い力ね…。魔獣操作ビーストオペレーターって…」


「そうだな。——しかし」


アランはアースゴブリンの前へ行く。


「この世界にはもう、必要のない力だ」


「え…?」


「悪かったな、"アーシャ"。お前の気持ちも考えず、ずっと試す様な真似をして。これからは俺が魔獣を殺す」


アランはアースゴブリンの頭に向かって手を伸ばした。


「これで、辛い決断を下す必要もないだろう」


手の先から魔法陣が展開される。


「——ちょっと待って!」


フウラは急いでアランの前に立ち、両手を広げアースゴブリンを庇う。


「何だ?危ないぞ」


「ちょ!ちょっと待って!何も殺さなくても!」


「何を言ってる。殺さなきゃ依頼が達成出来ないだろ」


「アースゴブリンさえ、ここから居なくなれば問題は解決するんでしょ!?」


「まぁ、依頼は討伐だからな。殺す他ないと思うが」


「だったらいい方法あるじゃない!」


「何だ?」


「このアースゴブリンも私たちの国で一緒に暮らすの!」


「は!?」


アランは素っ頓狂な声を出す。


「だから!このアースゴブリンをあの孤島に連れて行けば万事解決じゃん!この森から居なくなれば、討伐した事と同じでしょ!?」


「い、いや、そうかもしれんが…」


「"グレン"!」


フウラは真面目な顔して語る。


「いくら私達の望みの為とは言え、必要な犠牲なんて言葉で終わらせたくない。私の命も、アンタの命も、父の命も、このアースゴブリンの命も、何ら変わらない同じ命なの。尊いものなの。だから殺す事に慣れないで」


アランはフウラの真剣な眼差しを見て、手を下ろす。


「俺もお前の目に感化されたのかもな」


「もう目は光って無いでしょ?」


「あぁ」


短い返事をしたアランは、アースゴブリンに手を置き、孤島に転移させた。


「後は、残りのゴブリン達をどうするかだな」


フウラが周りに目を向けると、結界の中を虎視眈々とする大量のゴブリンの達がいた。


「任せて!私の魔眼で——」


フウラは肩をグルグルと回した後に叫ぶ。


「その場でおすわりしなさい!」


フウラの声が森に響いた。

確かに命令をしたはずだが、ゴブリン達がそれに従う事は無かった。


「あれ、どうして」


「目が光ってないぞ。やっぱり魔獣操作ビーストオペレーターの条件は魔眼だな」


「うそ!何で光らないの!」


「そう簡単に出来るもんでもないさ。少しずつコツを掴んでいくしか無い」


「えー…。じゃあ、この子達どうしようか…」

フウラはゴブリンに目を向ける。


「まぁ、俺たちにとってコイツらは脅威にならないからな。とりあえず転移だけさせるか」


アランが結界を解くと、虎視眈々としていたゴブリン達が一斉に飛びかかってきた。


「ぎゃー!!」

フウラが反射的に屈み込む。


「もう慣れろよ」


「——え」


アランの声を聞いたフウラは、顔を上げるとゴブリン達が空中で静止してた。


そう、アランが時間停止の魔法を掛けたのだ。


「もう、止めるなら先に言ってよね!!」


「少しは考えろ。行動の先読みは大事なんだぞ。生死に関わる問題だからな。一瞬の気の緩みが死を招く」


アランは大量のゴブリン達の足元に魔法陣を展開する。


「そうやって死んでいった兵士達を大勢見て来た。お前にはそうなってほしく無い」


アランが魔法を唱えると、宙に浮いていたゴブリン達が一瞬にして姿を消した。


「家族だからな」


それを聞いたフウラは照れる様に頬を赤くする。


「家族って思ってくれてるんだ」


「当たり前だ」


——アースゴブリンとその子分のゴブリン達は南の孤島へ転移し、その後ガンバ村から討伐の依頼が来ることは、暫く無くなった。

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