第17話 魔眼
2人が冒険者になり、ゼオライト級に昇格した次の日。
町では最速でゼオライト級に昇格した、謎の男女の話で持ちきりだった。
そんな事も知らずに、アラン達は今日もギルドへ足を向ける。
2人の髪の毛は前日と打って変わって、黒の髪色に変わっていた。
2人はギルドの前に立つと、中からフラット団が騒ぐ声が聞こえてくる。
「あいつら、朝から騒いでんの!?」
フウラが呆れたように話す。
「迷惑な奴らだな」
アランはそう言うと、ギルドのドアを開けて中に入る。
フラット団は、中に入って来た人物を見ると、すぐに騒ぐのを辞めた。
「えっ、何?気持ち悪いんだけど…」
直ぐに静まった声に、不気味さを感じるフウラ。
「昨日とは違ったお出迎えだな」
アランはそのまま真っ直ぐ行き、昨日の受付嬢に話しかける。
「昨日ジオールから通達があったと思うが——」
「は、はい!手続きも済ましております!」
「あ、あぁ。話が早くて助かる。ゼオライト級の依頼を見繕ってくれ」
「は、はい!直ぐに!」
受付嬢は昨日と態度が変わり、目上の人物と接するような態度をする。
「——ねぇ、アラン」
フウラに呼ばれたアランが踵を返すと、そこにはフラット団のリーダーとそのメンバー達が目の前に立ちはばかっていた。
「何だ?俺に何か——」
「昨日は申し訳ありませんでしたぁ!!!!」
フラット団のリーダーが腰を曲げ、頭を深々と下げる。
それに伝播されるように、フラット団のメンバー達も頭を下げ出した。
「何のつもりだ?」
「前日のご無礼をお許しください!」
フラット団のリーダーが何度も頭を下げる。
フウラが何となく空気を読み取り、アランに小声で話しかける。
「格下だと思ってた相手が、自分達よりも全然格上だったからビビって謝ってるんだよ。実際、ゼオライト級はクォーツ級の一個上の階級だし」
「なるほどな」
深々と下げるリーダーにアランは優しく話す。
「頭を上げろ」
リーダーはサッと頭を上げた。
「昨日は俺も言いすぎたからな。おあいこだ。だからもう謝るな」
「ありがとうございます!!!!」
リーダーはもう一度深々と頭を下げた。
「格の違いが分かったなら、私をお嬢と呼びなさい!」
フウラが調子に乗る。
「おい、あんまり調子に——」
アランが止めようとすると、
『お嬢!!!!!』
フラット団全員がその名で呼んだ。
——こうして騒がしい朝を過ごした2人は、昼からゼオライト級の依頼、アースゴブリンの討伐に出かけた。
ニンファより少し東に位置する村、ガンバ村に転移した。
「どうして今回は転移水晶で移動したのよ?」
フウラはアランに問う。
「なるべく怪しまれないようにだ。毎回森の中で転移していたら、誰かに見られる可能性もあるしな」
「何言ってんのアンタ。毎日仮面舞踏会してるような奴は、どんな事しても怪しいと思われるわよ」
「まぁ、それもそうか」
「納得すんなし!」
「お前が仮面舞踏会とか言い出したんだろ!?」
案の定、この村でも2人は注目の的となった。
——ガンバ村から、さらに東にあるベスティノ大森林へ2人は足を踏み入れる。
アランは歩きながら、魔法を唱えた。
「テーリア」
アランの足元から魔法陣が展開され、それが徐々に大きくなる。
ある程度大きくなった魔法陣の外周から、2人を囲うように透明な結界が展開された。
フウラが透明な結界を見ながら質問をする。
「これもアンタが作った魔法?」
「少し違う。昔から使われてる魔法に、俺が手を加えて改良したやつだ。元は結界内に侵入した敵を感知する魔法なんだが、俺が今唱えた魔法は、敵の侵入を阻止する魔法だ」
「でも、そんな事したらアースゴブリンが近寄って来れないじゃない」
「安心しろ。侵入できる敵の対象を絞ったから、この結界内に唯一侵入出来るのはアースゴブリンだけだ」
「やっぱりアンタって何でも出来るのね。何かもう慣れて来たわその感じ」
——そして2人が森の最奥まで歩き続ける間、襲撃しようと数多くのゴブリン達が集まって来たが、アースゴブリンだけ姿を現す事は無かった。
探し回る事に痺れを切らしたアランは、手を空に突き出し空間を指で弾いた。
すると指から、けたたましい音が鳴る。
「え!?何!?何したの!?」
辺りを警戒しながら、咄嗟に構えるフウラ。
森の中にいた鳥達が飛び立ち、結界に張り付いていたゴブリン達はその場から逃げ去って行った。
「魔獣が反応する魔法の音だ」
静寂に包まれた森の奥から、徐々に足音を鳴らして何かがこちらに向かってくる。
足音は次第に地響きと変わり、2人を揺らす。
「——お出ましだ」
アランが言うと、暗影の中から巨大な体をしたアースゴブリンが姿を現す。
体長は2人の3倍ほどあり、全身は筋肉質でガタイのいい体をしている。
肌は深緑色で、顔は鬼の様な形相をしていた。
アースゴブリンは足で地面を揺らしながら、アランに襲いかかる。
「——んじゃ、後は任せた」
アースゴブリンは鋭い爪を使って、勢いよく引き裂こうと腕を振るった瞬間、アランはその言葉を残して結界の外に転移した。
「ちょっと!何してんの!?」
フウラが後を追うように、結界に近づくが外には出られなかった。
「いやほんと何してんの!?出しなさいよ!!」
「ほら、早く応戦しないと殺されるぞー」
アースゴブリンは体勢を立て直し、今度はフウラに襲いかかる。
「んな事言われても——」
フウラはアースゴブリンの攻撃を間一髪で避ける。
「お前の高いポテンシャルなら、アースゴブリンも楽勝だろ」
結界の外から、他人のように傍観するアラン。
アースゴブリンは絶え間なく攻撃を繰り返し、フウラは後手に回る。
「何をしている?さっさと終わらせろ」
「うるさい!魔法を唱える暇がないのよ!」
「鈍臭いなぁ」
「てか、私に戦わせて何の意味があんのよ!?アンタが戦えばすぐに終わるでしょ!?」
「それじゃ、意味がないんだよ」
「だから、意味って何よ!?」
アランは少しして、口を開く。
「——躊躇してるだろ?」
フウラの眉がぴくりと動く。
「図星か」
フウラの表情を見逃さなかったアランは、そのまま言葉を続ける。
「冒険者試験の時と同じ顔をしている。同族と戦う事に抵抗があるんだろ?」
「うっさいわね!今は——」
アランが言葉を遮る。
「今は何だ?集中してるから話しかけるなと?俺が黙っていれば、アースゴブリンを殺せるのか?」
「だから——」
「俺達は世界を変えて、王国を再建するんだろ?この先も俺たちは同族を殺さなきゃならない。必要な犠牲って——」
「アンタに何が分かるのよ!!!」
フウラは叫ぶ。
「アンタに私の何が分かるって言うの!?産まれた時から人に育てられ、生きる為に魔族を殺してきたアンタなんかに!!」
「お、おい——」
アランの言葉を無視して、フウラは怒ったように話す。
「私は産まれた時から、魔族である父に育てられたの!アースゴブリンも種族は違っても、私にとっては家族なんだよ!平気で殺せるはずがないでしょ!?」
「お前——」
アースゴブリンは2人の会話も気にせず、フウラに襲いかかる。
「ちょっと待ちなさい!!」
フウラはしつこく攻撃してくるアースゴブリンに強く叱責した。
アランは驚いた表情で口を開く。
「目が——」
「何よ!!私は怒ってんの!!私がどんな気持ちで——」
ここでフウラが冷静になり気づく。
先程まで獰猛に襲いかかって来たアースゴブリンが、急に静かになった事に。
フウラは踵を返し、アースゴブリンの方を向いた。
そこには、信じられない光景が見える。
アースゴブリンはフウラの前で、膝をつき頭を下げていた。
「アーシャ…お前、目が——」
フウラの変化とアースゴブリンの異様な態度にアランも驚愕する。
フウラの左目は、赤く光っていた。
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