第16話 最速


2人が冒険者組合の会場を出ると、空は琥珀色に染まりかかっていた。


晴れて冒険者の資格を得たアランとフウラは、勾配が激しい坂道を降りていた。


「見た!?あの気持ち悪い男達の顔!!あっはははは!思い出しただけでも、笑えてくるわ!」

フウラは愉快に話す。


「あの調子だと、もう俺達にちょっかいは掛けてこないだろうな」


「それに、あのじいちゃん!気絶してたわよ!ぷっ!ははははは!」

フウラは思い出し笑いをする。


「あんま、笑ってやるなよ」

言葉とは裏腹に、アランの口角は少し上がっていた。


「それにしても、あの黒い魔法なんなの!?他の攻撃魔法とは明らかにレベルが違うわ!」


「あれは、二つの魔法を組み合わせた合成魔法だ」


それを聞いたフウラは、頭を悩ませながら話す。

「ごめん。ちょっと何言ってるか分かんない。普通に一つの魔法として構築したらいいんじゃないの?わざわざ、二つを合わせる必要なんてあるの?」


「それが出来ないから合成魔法なんだ」


「因みに聞いとくけど、それって人間界じゃ普通なの?合成魔法って」


「いや、これも俺が作った魔法だ」


「やっぱりアンタ、化け物だわ…」

フウラは引き気味に言う。


「んな事より、帰りにギルドへ寄って行くぞ」


「え?何で?」


「何でって、今日の宿泊費を稼がないと野宿になるぞ?」


「はぁー!?もう、夕方よ!今日くらい良いじゃん!」


「ダメだ!クリーンなお金を生み出す手段を作ったんだ。これ以上、不透明なお金は流出できない」


「ぶー!ケチ!」

フウラは唇を尖らせ文句を言う。


そして2人は、帰り道にあったギルドに足を運ぶ。



ギルド内は、依頼を受ける人やご飯を食べている人、お酒を飲んで騒いでる人達で溢れかえっていた。


入り口のドアを開け入って来たのは、マスクを付けた男女の冒険者。


ギルド内にいた大勢の冒険者達の視線を独占する。


「もう、慣れたわ。慣れたく無かったけど…」

フウラは、この格好が注目される事に慣れてしまった。


「それはいい事だ」


「はぁ…。これで私も、変態の仲間入りね…」

肩を落とし、分かりやすく落ち込むフウラ。


そして2人は、正面の依頼カウンターに座っている、受付嬢に話しかける。


「一番報酬金の高い依頼を受けたい」

アランは手っ取り早く金策を始めた。


こちらの受付嬢も、2人を不審がりながら対応をする。


「階級はいくつでしょうか?」


「ブロンズだ」


この言葉を周りの冒険者達が聞くや否や、ギルド内は笑いの渦に包まれる。


その場で酒を飲んでいた、筋肉質の大男がアランの肩に腕を回して話しかける。


「あんちゃん、素人かい?」


「今さっき、冒険者になった所だ」


「ハッハッハッ!そうか!そりゃめでてぇ!けどな、あんちゃん。成り立ての冒険者が、いきなり報酬金の高い依頼は受けられねぇんだよ。下積みって大事なもんでな俺が——」


「そうか。アドバイス助かる」

アランは言葉を遮り、肩に乗せられた腕を払う。


筋肉質の大男は呆気に取られた。


そして、アランはもう一度受付嬢に話しかけた。


「ブロンズで受けられる依頼を全部回してくれ」


「ぜ、全部ですか!?」


「はぁ!?全部!?」


フウラと受付嬢は声を合わせる。


「あぁ」


それを聞いた受付嬢は、動揺する。

「受けれない事は無いんですけど、かなりの数でして——」


「どのくらいだ?」


「ざっと40くらいです…」


「問題ない。内容を聞こう」


アランと受付嬢のやり取りを聞いていた、周りの冒険者達は唖然としていた。


アランは受付嬢から説明を受けてる時、些細な事に気づく。

「どうして、採集の依頼ばかりなんだ?」


「こちらで依頼を受けてくださる冒険者の殆どが、シルバー級からクォーツ級でして、ブロンズ級の仕事を請け負う人材があまり居ないんです。居ても、下級魔族などの比較的採集よりも報酬金の高い依頼を受けて行くんですよ」


「なるほど。事情は分かった」


アランは短い言葉を残し、フウラとギルドを後にしようとするが、扉の前で先程の大男が立ち塞がる。


「調子に乗るなよルーキー。ここは俺達、"フラット"団のシマだ。そのリーダーである俺に、何の断りも無しに好き勝手出来ると思うなよ」



「大人数でしか戦果を上げられないパーティなんて、直ぐに解散するんだな」


「何っ!?俺はクォーツ級だぞ!お前なんか、俺の一声でどうにでも——」


大男は顔を赤くして怒りに任せて話すが、アランとフウラはそれを無視し、大男を避けてギルドを出た。


ギルドを出て直ぐに、フウラが心配をする。

「ちょっとアラン!大見得張って依頼全部受けてたけど、大丈夫なの!?」


「なんか、問題でもあるのか?」


「いや、そういう訳じゃ無いけど、40個も依頼受けて終わるもんなの?」


「直ぐに終わる」


「直ぐに終わるってアンタ、採集依頼でしょ?それならギルドの転移水晶で移動した方がいいんじゃないの?」


「転移水晶は移動できる範囲と場所が決まっている。逆に非効率だ」


アランはそのまま真っ直ぐ歩き、町を出る。


「ちょっと、町から出てどうするのよ!?」


アランはそのまま歩き続け、最初にニンファへ転移した森の木陰で足を止める。


「少し、待ってろ」


「ちょっ——」


フウラの言葉を最後まで聞かずに、アランはその場から消えた。


「もう!1人にしないでよ!」


フウラの声は、静かに森の中に消えていった。


——待つ事15分。


フウラの前にアランが現れる。


アランの手にはアルケイトで生成した大きな袋に、たくさんの荷物を詰めて戻って来た。


「ちょっと!乙女を1人にするなんてどう言うつもりよ!?」


「悪い。1人の方が効率が良いと思ってな」


「酷い!私はもう要らない女なのね…」

フウラはその場に倒れ込み、嘘泣きをする。


「さっきから何してんだお前…?」


「こうしたら、少しは私に優しくしてくれるかなって思って。ぐすん」


アランは全てを無視して、ニンファに向かって歩き出した!


「やっぱり酷くない!?ちょっとは優しくしなさいよ!!」


フウラは怒りながらアランの後を追った。


——再びギルドに足を運んだ2人。


扉を開けて入ると、先程のフラット団達が騒ぎ立てていた。


しかし、アラン達を見ると急に静かになり、今にでも襲い掛かりそうな表情で睨みつける。


その視線も気にせず、アランは受付嬢の元へ行き、手に持っていた大きな袋を渡す。


「依頼の品だ」


「——はい?」

受付嬢は言われた言葉を理解できず、聞き返してしまう。


アランが荷解きすると、袋の中から依頼された数々の素材が出て来た。


「こっ!これは!」

受付嬢が驚愕する。


「確認してくれ。全部あるはずだ」


受付嬢は直ぐ確認に入る。


そして——


「全て…納品可能です…」


「そうか。報酬金を貰おう」


「は、はい!直ぐにお持ちします!」


ギルド内の冒険者達は、その光景に言葉が出ず、静寂が続く。


受付カウンターの奥の部屋から戻って来た受付嬢は、報酬金と一枚の紙切れを持って来た。


「何だこれは?」

アランが紙切れを受け取り、問う。


「昇格試験が受けられます。お手数ですが、冒険者組合の方へ行ってください」


「えぇ!!また行くの!?」

フウラは絶望した。


「仕方ないだろう。昇格試験なんだから」


「またあの坂登るの!?もぉー!きついって…」


2人はブツブツと言い合いをしながら、静寂に包まれたギルドを後にする。


——そして2人は冒険者組合へ行き、昇格試験の紙を受付嬢に渡す。


「承知しました。待合室でお待ちください」


受付嬢に言われ、2人は待合室で待機する。

暫くして、先程の組合受付嬢が息を切らして待合室に訪れた。


その後2人は、昇格試験を受ける事なく、宿屋ニーフへ帰った。





——アランとフウラが二回目のギルド退出後。


フラット団は、アラン達の話をしていた。


「リーダー!あの男やばいですって!」


「ただもんじゃねぇな。ギルド出て数十分でブロンズの仕事全部こなして行きやがった…」


「どうします!?」


椅子に座る、フラット団リーダーである大男の周りには、大勢のメンバーが集まっていた。


大男は、お酒が入った樽型ジョッキを机に叩きつけ、周りを静かにさせる。

「うるせぇ!!そんな事は分かってる!なんかカラクリがあるはずだ!じゃねーと、あんな速さで戻って来れる訳がねぇ!」


その言葉でさらに静寂に包まれたギルド内に、マジックレターで送られて来た手紙が、受付嬢の元へ届く。


その様子をフラット団全員が見ていた。


受付嬢は届いた手紙を開き、書かれた内容を見ると、そこには衝撃的な文章が書かれており、驚愕した。


「どうした!?」

大男がその様子を見て、受付嬢の元へ駆け寄る。


受付嬢は、震えながら読み上げる。




——特例。アラン・ルシエルとフウラ・ルシエルの昇格試験は免除とし、以上2名の階級は"ゼオライト"級へ昇格とする。


             ジオール・バッハ



2人はブロンズ級史上最速の昇格を果たした。

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