第13話 人柄


宿屋ニーフの27号室にて、早朝から大声が響く。


「早く起きて!!」

アーシャ改め、フウラがグレン改めアランを大声で起こしていた。


「——もうちょい…」

アランはまだ微睡の中。


「大事な事に気づいたの!!」

フウラはアランの体を激しく揺する。


「——やめ…」


「起きろ!!」

痺れを切らしたフウラが、アランの腹の上に乗っかる。


「イテッ!!」

堪らず飛び起きるアラン。


「何しやがる!?」


「ねぇ聞いて!重要な事に気づいた!」


「あー?」


ぼんやりと目を開けるアランに重要な事を話す。

「国を作るのに、お金が必要だわ!」


それを聞いたアランは呆れたように、ベッドへ倒れる。


「ちょっと、大事な事じゃないの!真面目に聞いてる!?」

フウラは跨った状態で話しを進める。


「んな事、最初っから分かってただろ」

こちらも目を瞑ったまま話しをする。


「はっ?」

今し方、その事に気づいたフウラは驚愕する。


「——だから今日は冒険者組合に行って名簿登録するんだ」


「ナニソレ…」


「お前…何も知らないんだな」

フウラに悲しい目を向けるアラン。


こうしてアランとフウラの1日が始まった。



マスクを着けた男女が、宿の一階で朝食を食べる。

テーブルの上には、2人分のパンとクリーム系のスープ、サラダと小さなお肉があった。


アランはそれを食べながら、冒険者と組合の説明をする。


「まずは冒険者の説明だな」


「うんうん」

フウラはテーブルの上のご飯を貪りながら話しを聞く。


「冒険者ってのは、まぁ職業みたいなもんだ。内容は簡単。ギルドにある依頼リストから自分に見合った依頼を受けるだけ。それを達成すればお金が手に入る」


アランが淡々と話し、フウラは淡々と食事を続ける。


「で、その冒険者になる為には、冒険者組合っていう団体に話しをつけなきゃいけないんだ。軽い模擬試験もあるみたいだから、絶対に受かれよ?」


「えっ?何の話?」

フウラはご飯を口いっぱいに詰め込んで聞き返す。


「お前なぁ…!」


アランは同じ話をもう一度した。


2人は食事を済ますと、宿を出る。


アランはポケットからお金を取り出し、フウラに渡す。


「10,000ベールだ。これで戦闘になっても大丈夫そうな服を買ってこい」


「えっ?服も錬金すればいいんじゃないの?」


「俺が魔法を解除すれば、すぐに素っ裸になるけど、それでもいいなら作ってやる」


「絶対!イ!ヤ!」

フウラはお金を受け取った。


「1時間後ここに集合だ。この後も予定があるんだから絶対に遅れんなよ」

アランは釘を刺すが、フウラは二つ返事でその場を後にする。


「ったく。分かってんのかアイツ…」

アランは小言を言いながら、服屋を探した。


(俺も早くこの隊服を脱がないとな。ま、こんな所にアイツらが来る訳ないだろうが、念には念を、だな)


そして、アランは大通りの道から外れた、人通りの少ない道へ行く。


散歩がてら歩くと、古びた服屋が顔をだした。

アランはその店に吸い込まれる様に入っていく。


店内はとても小さく、大量の服が散乱していた。

店舗兼住宅でありながら、こじんまりとした店内からは、人が生活するであろう居住スペースが見えた。


「いらっしゃいませ!」

アランの入店を快く受け入れたのは、ミーリアと同じく、年端も行かない女性だ。


「服を見繕ってくれ」


「どういった服がよろしいでしょうか!?」

彼女はとても元気に受け答えする。


「そうだな。なるべく顔や体を隠せる服がいいな。夜も姿が隠せるように、黒色の服を頼む」


「分かりました!!」

彼女は元気よく返事をすると、注文の品を探す為に、店内を駆け回る。


暫くして、アランの元へ戻ってくる。

「ごめんなさい!ありませんでした!」


「そ、そうか…」

アランは彼女の勢いに気圧され、そのまま店を出ようとすると


「あの!もしお時間さえあるのでしたら私に作らせてもらえないでしょうか!?」

彼女は真剣な眼差しで訴える。


「時間はどのくらいかかる?」


「1時間もあれば、すぐにでも作ります!」


「そうか。なら頼もう」


それを聞いた彼女は、

「ありがとうございます!」

と、満面な笑みでお礼を言った。


時間が掛かるからと、店舗兼住宅の家の方で待っていてくれと言われ最初は断ったが、彼女の勢いにまた気圧され、結局家に招待されたアラン。


六畳半の狭い空間に座り、アランは造服機に魔力を流し込み、服を作る彼女の背中を見ていた。


「名前を聞いてもいいか?」

アランは彼女に名前を聞く。


「はい!私はニーナ・ネルトリアです!」


「そうか。俺はアランだ」


「アランさん!いい名前ですね!」


「お、おお。そうか」

適当に付けた名前を褒められ、びっくりするアラン。


「アランさん、この町で見ないですよね。観光ですか??」


「いや、冒険者になる為にここに来た」


「へぇー!凄いですね!私、戦闘向けの魔法が使えないので羨ましいです!」


「そうか?俺みたいな人間はいっぱいいるけど、ニーナの様に、1から服を作れる人間はあんまり居ないからな。そっちの方がよっぽど凄いと思うけどな」


「えへへ。ありがとうございます!」

ニーナは嬉しそうに照れる。


「見たところ、18かそんくらいに見えるけど、この店は1人で切り盛りしてるのか?」


「はい!私のお父さんは物心つく前に亡くなってしまって、お母さんは2ヶ月前に病気で亡くなりました」

ニーナは寂しそうに口を開いた。


「すまん。野暮な事を聞いたな」


「いえ!謝らないでください!勝手に話したのは私ですから!」

ニーナは手を止めて、こちらを振り向いた。


「——寂しくないのか?」


ニーナは少し考え、口を開いた。

「寂しくない…って言えば少し嘘になるかもしれないです。私の家系は代々伝わる縫製職人で、この技も母が私に教えてくれたんです。私は服を作るのが好きです。服を作ってる時が一番、母を感じれるから。だから、寂しくはありません」

ニーナは優しく微笑む。


「ニーナは強いんだな」


「そ、そんな事ありませんよ!私は攻撃魔法が使えませんので!」


「いや、そういう意味じゃないんだが…」


ニーナは再び振り返り、仕事をはじめた。

「——でも、もうこの店は畳まなくちゃいけないかもしれないんですよ」


「なぜだ?」


「アランさんも薄々気づいてると思いますが、客足が無いんですよ。ここ数ヶ月、誰も来てません。だから私、今日アランさんが来て嬉しかったです!あっ、なんか勝手に舞い上がっちゃってすみません!」


「いや、いいんだ。俺もニーナと話せて良かった」


「アランさんは優しいですね!」


「別に俺は——」


「ほら!出来ました!アランさんに似合いそうな服!」

ニーナは嬉しそうに、その服を見せる。


「あぁ、とてもいい仕上がりだ」


ニーナから服を受け取り、アランはすぐに着替える。


「ニーナ、すまないがこの服は捨てて貰えないか?」

アランは先程まで着ていた自分の隊服を渡す。


「えっ、もう着ないのですか?」


「あぁ。ニーナの服が気に入ったからな」


ニーナは受け取った隊服をまじまじと眺め、暫くして返事をする。

「分かりました!私に任せてください!」


「助かるよニーナ」


そしてアランは、いつもの様にポケットに手を突っ込み、アルケイトの魔法でお金を作り出そうとすと、


「——お代はいりません」


ニーナはアランの様子を見て、先に言葉を発した。


「どうしてだ?望む額を言えば出す。だか——」


アランの言葉を遮る様にニーナが話す。


「本当にお代は大丈夫です!今日はアランさんのお陰で洋服を作ることができました!お話もしてもらったし!すごく楽しかったから、お代は大丈夫です!」


アランは彼女の優しさに甘えた。

「そうか。ありがとな。ニーナ。また来るよ」


「はい!」

そして彼女は、満面な笑みでアランを送り出した。


そして、2人の約束の時間が来る。

フウラは時間通り、宿家ニーフの前でアランを待っていた。


「遅い!アランのやつ何やってんのよ!」

1時間前まで来ていた服とは違い、戦闘向けの洋服に変えたフウラは、遅れてくるアランに腹を立たせていた。


すると、大通りの道からアランが姿を現す。

「何やってんのアラン!時間は過ぎてるわよ!」


フウラの声が聞こえたアランは、小走りで宿屋の前まで来る。

「悪い悪い!少し道に迷ってな」


「もー!鈍臭いんだから!」


「お前に言われたくねぇ!」


アランは着替えてきたフウラの姿に目を通す。


「おぉ。似合ってるぞ。その服」


「まぁね!私が着れば何でも似合うのよ!そういうアンタこそ——」


フウラは、アランの足から頭までを観察する。


「随分系統変わったわね。前はもっとラフな感じだったのに、これの何処を気に入ったの?」


アランは自分の服を見てからフウラに言う。


「人柄だ」


「はぁ?何いってんの?」


こうして2人は、噛み合わない会話を繰り返しながら、冒険者組合を目指した。

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