第12話 ニンファ


2人は、南の国ニンファから少し離れた、森の木陰に転移した。


「ちょっと、転移失敗してるじゃん」

アーシャが呆れる。


「わざとだ」


グレンは手を添えて、アルケイトの魔法を唱えると、手からカードの様な物が作られる。


「何よそれ?」


「身分証だ。マスクつけた奴らが、いきなり国に現れたら確実に怪しまれるからな。正面でこれを提示して中に入った方が安全だ」


「なるほど。もしかしてグレンって…頭いい方?」


「お前よりかはな」


それを聞いたアーシャはムキー!と言いながら身分証を手に取る。


その身分証に添付された自分の顔写真を見て驚く。

「何よ!?この顔!」

その写真は、アーシャの右目が酷く爛れており、醜い顔となっていた。


「そのマスクには"ファントムアイ"の魔法を掛けた。だからマスクを外した時、相手からはその顔写真の姿が見える様になる」


「仕掛けは分かったけど、どうしてこんな顔なのよ!」


「念には念をだ。もしマスクの中を確認されても、俺達の顔が割れないなようにな」


そして、2人は入国の準備をしてから森を後にする。


大自然に囲まれたニンファは精霊の国とも言われ、ここでは木材などの資源が多く獲れる。

世界で流通している木材の殆どが、ニンファで獲れたものであり、獲っても獲っても次の日には資源が湧き出てる事から、精霊の仕業と噂され、精霊の国と呼ばれる様になったのだ。


国の入口には大きな門があり、そこにはニンファに仕える兵士が立っていた。


2人はその兵士の所まで行き、身分証を提示する。


「入国したい」

グレンがそう言うと、ニンファの兵士は身分証を手に取り確認する。


「そのマスクはどうした?」

ニンファの兵がグレンに問う。


「幼少期の頃に家が全焼して、その時に負った傷を隠す為に着けている。こんな顔だ。周囲を怖がらせてしまうのだ」

グレンはマスクを取り、その姿を兵士に見せる。


グレンの左目は酷く爛れていた。


「こっちは妹のフウラ・ルシエルだ。ほら、身分証を渡せ」

グレンは、アーシャの事をフウラという偽名で呼び、身分証を受け取って兵士に渡す。


「確認した。入国を許可する」

兵士は身分証をグレンに返した。


「ありがとう。行こうフウラ」


こうして2人は大きな門を通過し、入国した。


夜にも関わらず、ニンファの町は人々で溢れていた。


並ぶ店々からは明かりが灯され、人が歩く道を照らしていた。


「いっぱい人がいる…」

アーシャは声を漏らす。


「ここは精霊の国と呼ばれ、観光地としても有名だからな。俺たちが今いる町の方は、比較的まだ人が少ない方だ。王都周辺まで行けばもっと人がいるぞ」


「へぇ〜」

アーシャは周りを見渡しながら返事をする。


暫く町の大通りを歩くと、大きい建物が姿を現す。


「今日はここに泊まるぞ」

グレンは宿屋の前で足を止める。


アーシャは建物の前に置かれた看板を読む。

「宿屋ニーフ」


「そうだ。ここなら部屋の数も多いから、泊まれるはずだ」


2人は中に入り、カウンターの方へ行くと、受付嬢が不思議そうな目で対応をする。


「一つ部屋を用意して欲しい」


「かしこまりました。お名前を伺っても宜しいでしょうか?」


「アラン・ルシエルだ」

グレンは偽名を名乗り、それを承諾した受付嬢は空き部屋を確認する為に、カウンターの奥の部屋へ向かった。


「やっぱり、このマスクだと見られるね」

アーシャは小声でグレンに話しかける。


「ファッションだとしても、こんなのは普通着けないからな。慣れるまでは我慢だ」


受付嬢が部屋の鍵を持って、グレンの元へ戻る。


「27号室の部屋が空いてましたので、そちらを使って下さい」


「助かる」


「それでは一泊で4500ベールとなります」

受付嬢がお金を請求する。


グレンは服のポケットから、4500ベールをカウンターに置いた。


それを見たアーシャは堪らず声を出す。

「アンタそのお金——」


「何も言うな」

グレンはアーシャにそれ以上言わせないようにした。


そして、2人は宿の2階へ行き、27号室の部屋に入る。


部屋の中を歩くと、無垢床が軋み、温白色の空間が落ち着きを助長させ、風情を感じさせる内装となっていた。


「私こっちのベッド!」

アーシャは窓際のベッドにダイブする。


「おいおい。シャワー浴びてからにしろよ」


「え、何?誘ってるの?キモ」


「んな訳あるか!お前が入らんなら俺が先に入る」


「ど〜ぞ〜」

アーシャは寝っ転がったまま、手を振る。


ベッドで堕落するアーシャをみて、グレンはあえて何も言わず浴室は向かった。


そして、グレンがシャワーから上がる頃には、アーシャは既に夢の中にいた。

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