第11話 漠然
グレンの訃報が通達された日の前日。
最南端の孤島では、死んだとされた2人が漠然な計画を練っていた。
二人は向かい合わせで、砂浜にメモを取る。
「とりあえず、国を作るのに必要な事ってなんだと思う?」
アーシャはグレンに尋ねる。
「まぁ、ヒトとモノは確実に必要なんじゃねーのか?」
「漠然としてるなぁ」
「しょーがねぇだろ。俺だって国なんか作った事ねーんだから」
「周りにそういう知識持った人いないの?」
「居ない」
「万策尽きたわ…」
二人は頭を抱える。
そして、グレンは砂浜に寝っ転がり、青空を眺める。
「てか、難しく考えすぎなんじゃねーの?」
「——え?」
「いきなり、城を建てるとか、人を集めるとか、そんな難しい事じゃないで、まずは俺達が生きて行けるようなライフラインを確立していく事が重要なんじゃないのか?」
「んー、なるほどねぇ」
「んで、最初は漠然でいいんだよ。出来る事をやっていけばいい」
「出来ることって?」
グレンは立ち上がり、アーシャの前で両手を広げる。
「よし!今日から"ここ"が俺達の国だ!」
「"ここ"ってアンタ、何もないただの島よ!」
「あぁ!それでいい!ここで俺たちが暮らすためにはまず何が必要だ?」
「寝床とか食料?」
「だよな!まずはこの島を探索して寝床が作れそうな土地を探すぞ!」
グレンは足早に森の中へ向かった。
「ちょっ!置いてかないでよ!」
アーシャはグレンの後を追った。
森の中に入ると、グレンはアーシャに下位魔法のウィンドスプラッシュで足元の草木を刈ってくれと命令し、アーシャは渋々それに了承する。
「グレン、これ何の意味があるの?」
「ガーデニングだ」
「はぁー?」
「当然、ここはもう俺たちの国なんだ。庭は綺麗にした方が見栄えはいいだろ?」
「そうは言ってもこれ、果てしない気がする…」
「まぁ、キツくなったら俺が変わるよ」
「今すぐ変われ!」
二人は、ずっとこんな調子で森の中を探索した。
そして太陽が沈みかけた頃、この島の一番高い場所まで2人は来ていた。
その場所は、城さえも建てれそうな広大な敷地だ。
水平線に吸い込まれる夕陽、赤く染まった広大な海、雲一つない夕空、ここから見える景色全ては絶景そのものだった。
アーシャは広大な敷地を走る。
「わぁー!!すごいよ!見てグレン!」
歩きながらアーシャの後を追うグレン。
「あぁ。見てるよ。綺麗だな」
二人は崖の麓まで行き、心ゆくまで絶景を堪能する。
「ラザレオからじゃ、こんな景色見れなかったな」
グレンは遠くを眺めながら言う。
「私もよ。ヘルサイズから見える景色は、家とか店ばっかりだったから」
これをキッカケに、二人はいろいろな事を語り合った。
エタニティ部隊の事。ラザレオの事。
父親の事。ヘルサイズの事。
海風に吹かれ、黄昏れながら二人はその時を過ごした。
やがて夕陽は海の中に消え、後ろから静かに月がやってくる。
「——これから、どうしようか?」
話を切り出したのは、アーシャ。
「そうだな。昨日と今日で色々あって寝てないからな。とりあえず、ここから一番近い国に転移して、そこの宿に泊まるか」
「いや、アンタ寝床探してここまで来たんでしょ?ここで寝るんじゃなかったの?」
グレンは真顔で答える。
「こんな場所で寝れる訳ないだろ」
一刀両断されたアーシャも真顔になる。
「んじゃ、まずは——」
グレンは手を前に添えて魔法を唱える。
「アルケイト」
すると、手から鉄のアイマスクを作り出した。
それを見たアーシャは驚く。
「何その魔法!?」
「何って、創造錬金だ」
「ソーゾーレンキン?」
難しい言葉を言われ、カタコトになるアーシャ。
「そうだ。創造でモノを生み出す魔法」
「ちょっと待って!何サラッとすごい魔法使ってんの!?そんなのあれば何でも出来るじゃん!家とかお金とか、城も作れるじゃん!」
アーシャは目をキラキラと輝かせる。
「いや、そんな万能な魔法でもないんだ」
「えっ」
「確かに、家や城も作れるが、元は俺の魔力から作ってるモノだからな。もし俺が死んだり、魔力の維持が出来ない状態になった時は消滅する」
徐々にアーシャの目から輝きが無くなる。
「じゃ、じゃあお金だけでも…」
「お前なぁ…。一国の主人が言うセリフかよ。お金はダメだ」
アーシャの目から完全に輝きが消える。
「金銭はリスクが高すぎる。少量のお金なら錬金しても問題はないかもしれんが、積もり積もれば莫大な金額になる。出所の分からないお金を世界に流通させるのは危険だ」
「わ、わかってたし!」
アーシャは開き直り、プイッと横を向く。
グレンは創造錬金したマスクをアーシャに渡す。
「俺達は世にバレてはいけない存在だ。ここから出る時は常にそれを着けてろ」
そう言うと、グレンは再び創造錬金でマスクを作り出し、自分に着ける。
マスクをつけたグレンを見てアーシャが一言申す。
「なんか、変態じゃない?」
「うっせぇ!!お前も早く着けろ!」
「はいはい。グレンは五月蝿いですね」
アーシャはブツブツと何か言いながら、マスクを着ける。
すでに辺りは真っ暗になり、月光が二人を灯す。
グレンはアーシャに手を差し出す。
「な、何よ?」
「転移する。掴まれ」
アーシャはグレンの手を握った。
2人は一瞬にしてそこから姿を消し、この島から一番近い国、ニンファへ転移した。
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