第9話 任務
「し…信じられません!何かの間違いではありませんか!?」
ウォレンは大きく動揺する。
「ウォレン。気持ちは分かるが事実だ。この剣を見れば尚更」
アンドレア王は髭を触りながら話す。
「グレンに限って、そんなはずはねぇ!!」
デルバが声を荒げる。
「この剣を見ただけで、どうしてグレンが死んだと分かるのですか?遺体は見つけたのですか?詳しく説明して貰っても宜しいでしょうか?」
マリアは真剣な表情で問う。
そして、ガルーマが口を開く。
「3日前の夜、グレン・エンドメルに魔族残党狩りの任務を命じました。魔王国についたグレン・エンドメルはそこで、複数のヘルシャドードラゴンに遭遇し、戦闘の末、命を落としたと思われます」
「おかしいです!グレン先輩はヘルシャドードラゴンなんかに負けるはずがありません!」
ルーラが立ち上がり声を上げる。
「…同感。グレン先輩が死ぬ訳ない」
マーラもルーラに続く。
「魔王の支配下にあった魔族達は主人を失い、一時的に暴徒化したと思われます。そして、グレン・エンドメルの遺体は、ヘルシャドードラゴンによって、焼き尽くされたと、痕跡から判断致しました。残念ですが、遺体を見つける事はできませんでした」
ガルーマはメガネを直しながら答える。
「仮にそれが事実だとして、どうしてそんな危険な任務に、一人で行かせたのですか!?」
ウォレンは堪らず立ち上がる。
「すまない。私の独断で決めたんだ。彼を認め、彼の能力を買ってたんだがな」
アンドレア王は太々しく話す。
この国の最高権力者の判断を、否定する事ができないウォレンは、悔しそうに唇を噛む。
ウォレンだけでなく、エタニティ部隊のメンバーは告げられた事実を素直に受け取れずにいた。
少しでも話に矛盾や語弊があるのなら、全力で突っつくつもりでいるエタニティ部隊だったが、グレンが愛用していた青黒い剣の有り様を見て、何も言えなくなっていた。
「追悼式は直ぐにでも行う。準備が出来次第、兵を使って通達する」
アンドレア王が解散を命じ、各々追悼式の準備を始めた。
その場を動けずにいたミーリアは、マリアに肩を持たれその場を後にする。
それに続き、エタニティ部隊も部屋を出る。
「——ウォレン」
アンドレア王が名を呼ぶ。
ウォレンは踵を返し、再び王の前に膝をつく。
「こんな事になって、本当に申し訳ない」
アンドレア王は改めて謝罪をする。
「い、いえ…。私も未だに信じられませんが、もしこの話が本当なのであれば、アンドレア王は悪くありません。私の…隊長としての指導不足が原因です。昔から本気で闘う事をせず、手を抜く癖があったのは知っていました…。俺が…もっとしっかり——」
「そう、自分を責めるでない。君はいつもよくやってくれている」
「いえ…私にはもったいないお言葉です」
「君は謙遜が上手いな——」
アンドレア王が話を続けようとすると、ガルーマがアンドレア王の名前を小声で呼ぶ。
「おっと、すまない。話が脱線してしまったな。君を呼び止めたのは次の任務に来て貰うためだ」
アンドレア王はガルーマに呼ばれて気付き、目的の話を始める。
「…次の任務ですか?」
「そうだ。10日後、南の国ニンファに私と来てもらう。エタニティ部隊の各員にも伝えてくれ」
「——一つだけ、質問しても宜しいでしょうか?」
「よかろう」
「なぜ、このタイミングなのですか?」
アンドレア王は髭を触り出した。
「前から決まっていた事なんだ。こんな時にこんな話をしてすまないと思っておるが、ニンファとは外交をしなければならないのだ」
「お答えいただき、ありがとうございます」
ウォレンは膝をつき深々と頭を下げる。
気づけば、周りに人は居なくなり、ウォレンとアンドレア王とガルーマの三人だけになっていた。
「——それと、これは別件なのだが、来年でミーリアは成人になる」
アンドレア王は、唐突に娘を語りだす。
「この国を担う王女として、申し分ないと思っておる」
「私も、ミーリア王女の活躍は近くで見てきました。エタニティ部隊に就任してから、立派に成長していると思います」
「そうか!そうか!」
アンドレア王は、嬉しそうに相槌を打つ。
「それで、私は君を——」
アンドレア王は、髭を触るのを止める。
「ミーリアの結婚相手として、どうかと思っておる」
衝撃的な話にウォレンは耳を疑った。
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