第8話 訃報
エタニティ部隊のメンバーは、各自休息を取っていた。
ミーリアは、かいた汗と雨に濡れた体を流す為、自室にある広い浴室のシャワーを浴びていた。
ミーリアは壁に頭を寄せ、そして考え事する。
(あの日から、グレン先輩が帰ってこない…)
(何かあったのかも——)
(すぐに帰ってくるって…言ってたのに——)
不安な思いを頭中に巡らせ、暫くその場に突っ立っていた。
「——のぼせた…」
自分の状態に気づいたミーリアは、顔をほんのりと赤らめ浴室を出る。
バスローブを体に巻き、タオルを頭に乗せ、自室の大きなベッドに腰を掛けて、窓に打たれる雨をボーッと眺めていた。
エタニティ部隊に配属してからの3年間、ミーリアが任務に行く時は常にグレンが同行していた。
グレンと離れる事が殆ど無かった為、ミーリアは今まで感じた事の無い、大きな不安を覚えていた。
——コンコン
部屋のドアが鳴る。
「…ミーリアいる?」
外からドアをノックしたのはマーラだ。
「マーラ?少し待ってて」
ミーリアは急いで部屋着に着替えて、ドアを開ける。
「マーラ、どうしたの?」
「…最近、元気が無かったから様子見にきた」
「あら、心配してくれるの?優しいね。中に入って」
「…うん」
マーラは部屋に入り、アンティーク調の綺麗な椅子に座る。
「何か飲む?」
「…ミルクティー。ミルク多め」
「本当好きね。それ」
「…うまいから」
ミーリアはマーラの飲み物と自分の飲み物を書いた紙に、マジックレターの魔法をかける。
すると、紙は一人でに動き出し部屋を出ていく。
「珍しいね。マーラが一人で来るなんて」
「…うん」
二人の間に沈黙が続く。
普段のマーラは一人で行動する事が少なく、常にルーラが隣にいる。
そして、いつも率先して話すのはルーラの役目で、マーラはそれに一言付け加える程度しか話さない為、会話は苦手としている。
「——…ごめん」
「何でマーラが謝るのよ」
「…私、口下手だからその——」
「ううん。来てくれただけでも嬉しいよ。ありがとうマーラ」
「…うん」
「誰かと会って話したい気分だったから!少し元気出た!」
ミーリアは無理に元気を出そうとしていた。
「…やっぱり、変——」
——コンコン
再びドアが鳴り、マーラの声は途切れる。
ミーリアは立ち上がり、ドアへ向かう
「丁度飲み物が来——」
「ミーリア王女!」
その声は、飲み物を運んできたメイドとは違い、ラザレオに仕える兵士の声だった。
ミーリアがドアを開ける。
「どうしました?」
「エタニティ部隊に伝令です!至急、隊服に着替えて謁見の間にいらしてください!」
「何かあったの?」
「アンドレア王から、直接お話があるそうです!」
「分かったわ」
ラザレオ兵はそのまま下り、ミーリアはドアを閉める。
「…どうしたの?」
「分からないわ。とりあえず、着替えて集合しましょう」
マーラは部屋を後にし、ミーリアは直ぐに支度をする。
ミーリアは隊服に着替えて部屋を出ると、ラザレオに仕える大勢の兵士やメイド達が慌ただしく、廊下を小走りで駆け抜けていた。
(何があったの…?)
ミーリアは不安になりつつも、小走りで謁見の間に向かう。
謁見の間の前には、ウォレンとマリアとデルバとルーラがすでに来ていた。
「マーラ見なかったか?」
ウォレンがミーリアに尋ねる。
「先程まで私の部屋に来ていたので、部屋に戻って隊服に着替えてると思います」
「そうか」
「珍しいな!マーラが一人で動くなんて!」
デルバは驚いた表情をする。
「いい事じゃないのぉ〜!もっと自発的に動けるようになれば私も安心だわぁ」
マリアはおっとりとした口調で話す。
「そうそう!マーラも僕離れしないといけない歳なんですよ!」
ルーラは胸を張って言った。
「ウォレン隊長、これは一体…?」
ミーリアは、いつもとは違う城内の異変を問う。
「分からん。俺も何があったかは知らされてないんだ…」
すると、後方から小走りで、隊服に着替えたマーラが合流する。
「…遅れました」
「いや、大丈夫だ。中に入るぞ」
ウォレンは大きなドアを開ける。
中にはすでに、ラザレオの兵士達が隊列を組んで待っていた。
エタニティ部隊は、太々しく座るアンドレア王の前へ行き、膝をついて頭を下げる。
「任務中のグレン・エンドメルを除いたエタニティ部隊、計6名ここに参上致しました」
ウォレンは代表して言う。
「うむ。早速だが——」
アンドレア王は、ガルーマに顎で指示する。
するとガルーマは一歩前に出て、布に包まれた何かをエタニティ部隊に見せる。
「訃報です」
ガルーマは布を解き、それを見せる。
そして、エタニティ部隊に衝撃が走った。
それは、刃が折れボロボロに朽ちた青黒い剣だった。
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