第6話 水平線
世界の最南端にある孤島に、グレンとアーシャは転移していた。
沈みかけた月光が広大な島を照らす。
辺りは、さざ波の音と海鳥の鳴き声だけが聞こえる。
砂浜の波打ち際に、アーシャはへなへなと座り込む。
「もう、何が何だか…」
状況が理解できずに、呆然とするアーシャ。
グレンはアーシャから少し離れた場所に座り込む。
「これから、どうするんだ?」
「さっきも言ったでしょ。国を作る。ヘルサイズを」
アーシャは強い眼差しで答えた。
「国の作り方なんて俺知らんぞ」
「当然でしょ。私も知らないんだから」
「知らないのかよ…」
黄昏れる二人。
「——ねぇ、魔眼って何?」
たまたま発動させた魔眼についてグレンに聞く。
「難しい質問だな。俺も詳細はあまり知らないんだ」
「いや、それは無理があるでしょ!時間止めたり、転移したりしてたでしょ!」
「時間停止と転移は俺が作った魔法だ。それに使う膨大な魔力量を魔眼でどうにかしてるだけだ。魔眼は補助系の力って俺は認識してる。正しい認識なのかどうかは知らんけどな」
「補助ねぇ」
「言っとくが、あくまで俺の認識だからあんまり鵜呑みにするなよ。俺の目は青いがアーシャの目は赤だ。俺とは違う力があるのかもしれん」
「へぇ〜。そういうもんなんだ」
アーシャはイマイチ、ピンと来てないようだった。
黄昏れる二人の沈黙を切り裂くように、グレンは呟く
「俺がラザレオを滅ぼす」
「——えっ?」
「今やラザレオは、世界で一番力のある国だ。アーシャの言った通り、血と骨で築き上げた、偽りの国。当然、そんな国を野放しにしてはいけない」
「待って——」
「力を持っている国を滅ぼせば、後は好きなように——」
「違うでしょ!」
アーシャは堪らず立ち上がる。
「そう言う事じゃないでしょ?また、同じ過ちを繰り返す気なの?」
「相手はラザレオだ。生温いやり方は通用しない。それに、俺達が生きてるとアンドレアが知れば、血眼になって殺しにくるはずだ」
「私は——」
「それに、俺は父親を殺したんだ。今更、過ちの一つや二つなんて同じ事。罪なら俺が全部背負う。アーシャにはもう——」
アーシャはグレンに駆け寄り抱きしめる。
「グレン!アンタと私はもう、エンドメル家の最後の家族なんだよ。グレンにどんな過去があるのか知らないし、出会ったばっかりだけど、それでも血が繋がった家族なの。家族が過ちを犯そうとするのを、私は黙って見てられない。罪を抱えてるのなら、私も一緒に背負う。一人には絶対にさせない」
アーシャは抱きしめた腕を解き、グレンの手を握る。
「それに、ラザレオはアンタの故郷でしょ?そこには思い出も仲間もいたはずよ」
グレンの頭の中に、エタニティ部隊の仲間達の姿が過る。
「いつかアンタが帰る場所なんだから、消したらダメ」
空と海を割く水平線から、眩い朝日が二人を差す。
「ちゃんと歴史を正して、ヘルサイズも取り戻して、もれなくみんな幸せになるの!私達はルーク・エンドメルの"血を分けた子"なんだから、その意思を継いで、平和な世界を作り上げるの!それが…私達にできる償よ」
アーシャは握りしめたグレンの手を離した。
目に涙を浮かべるグレンは、消えるような声を絞り出した。
「——ありがとう」
「うん!一緒に頑張ろう!」
この時、初めてアーシャは笑顔を見せた。
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