第3話 不穏


グレンを乗せた箱馬車は、王都を離れ最寄の町へ向かう。

「どうして馬車に乗る必要があるんだ?転移ならラザレオの水晶を使えば良かったんじゃないのか?」


グレンは対面に座っている、アンドレア王の直属の兵士に尋ねた。


「ご自身の立場は重々承知していると思います。今現在ラザレオ城には、各国から様々な客人がいらしております。中にはこれから外交を重ねて、このラザレオ王国と親密な関係になりたいと、縁の遥々来られてる方もいらっしゃいます」


「なるほど。俺の存在は、両国の外交に悪い印象を与えかねないって事ね」


「理解が早くて助かります」


「俺はこれからどうすればいい?」


「先程もお伝えした通り、ヘルサイズに残る——」


グレンは言葉を遮った。

「そうじゃない。魔族の殲滅なんて直ぐに終わる。その後だ」


「申し訳ありませんが、アンドレア王のお考えは一介の兵士に理解出来るはずもありません」


「そうか。そうだよな」


箱馬車の中には沈黙が続き、ついには人気のない町に到着した。

その町には灯りが一切なく、薄暗く気味が悪い。


箱馬車は転移水晶の前で停車し、グレンは馬車を降りる。


「最後に一つ」


箱馬車から顔を出した兵士はグレンに言葉を残す。


「アンドレア王から言伝です。"お前に任せる最後の任務だ。これが終われば自由だ"と。それでは健闘を祈ります」



兵士が言葉言い終えると、箱馬車は転移水晶を一周して来た道を戻る。



「自由ねぇ。安い言葉だ」


グレンは転移水晶に手を翳すと、水晶が発光し、グレンは一瞬にしてその場から姿を消した。



一方、浮かない顔をしているミーリアは、グレンに言われた通り大広間の扉の前まで来ていたが、入るのを躊躇していた。


不安、心配、そして後悔。

彼女の頭の中は、グレンの事で一杯だった。


「…どうしたのミーリア?」

後ろから声を掛けてきたのはマーラだ。

気配もなく後ろから声を掛けられたミーリアはビクッとする。


「もう!驚かさないでよ!マーラ!」

「…ドアの前で突っ立てるの不自然」

「あぁ、ごめんね!中に入ろうか」

マーラはミーリアの違和感に気づく。

「…グレン先輩と何かあった?」

ミーリアは少し驚いた表情をするが、それを隠すように平穏を保つ。

「ううん。何でもないわ。いつも通り揶揄われてお終いよ!さっ!中に入ろう!」


マーラに話しかけらた事によって、張り詰めた緊張の糸が解け、ミーリアはやっと扉を開けて大広間に入った。


扉を開けると、ミーリアの帰りを待っていた各国の上流階級の人達が拍手喝采でお出迎えをする。


会場は一気に盛り上がり、場の雰囲気がガラッと変わる。


遠くから憧れの目で見る人もいれば、直ぐにミーリアの元へ駆けつけ、ダンスの申し込みをする人もいた。


そして、会場の奥に太々しく座るアンドレア王は、自分の娘を自慢げに見ていた。


「さすが、ミーリア王女ですね。もうラザレオ王国の顔と言っても過言ではないかと」

ガルーマがアンドレア王に話しかける。


「いずれはこの国を背負って立つ人間であるからな。これくらいは当然。とは言え、ミーリアもまだまだ子供だ。成人になるまでは私がサポートしてあげないとな。ハッハッハ!」


娘を褒められて上機嫌なアンドレア王は、注がれたワインを鯨飲する。


そして、飲み干したワインをガルーマに渡し、アンドレア王は真剣な面持ちで尋ねる。


「ガルーマ。あの件はどうなった?」


アンドレア王は周りに聞こえない程度の声で、ガルーマに話しかける。


ガルーマは腰を曲げ、アンドレア王の耳元で答える。


「はい。既に手配済みです」


「そうか。これで本当に最後だな」


そう言ってアンドレア王は席を立ち、窓の外の綺麗な満月を眺めた。

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