35話 俺と勇者と裁きの日

 side セーラ

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「やはり悪性の心は変わらない、そういうことなのでしょう。」


 転生の間、人の魂の道行きを決めるこの場において、私は失望していた。


「監視の目との接続も切断。後は彼の御霊が上がってくるのを待ちましょうか。」


 いつだってそうだ、人というものは変わらない。例え転生をして別の人生を歩んだのだとしても、その本質までは変わらない。


 裁きを私が下すわけにはいかないが勇者というが判断したというのならそれは正確な物。


「悪い癖ですね…何度も何度も。」


 人の可能性を棄てられない。例え他の神から笑われようとも、更生の機会を与えれば誰であろうともいつかは改心をする。そう信じている。今回もまた失敗だとしても。


 彼はもう来世で人として生きるのは難しい。畜生道に落とさざるを得ないだろう。


「…本当に、残念。」


 彼が救済される日は遠いだろう。悪とは言え人を六道の輪廻の輪に落とすのはいつも心苦しい。しかし…


「遅い。遅すぎる。」


 まだギリギリ息があるという事だろうか。しかしあの出血、現身の眼から見ても即死だったはず。


 待てど暮らせど御霊は上がってこない。




「成程、ですか。」




 全てを理解した私は何百年ぶりに犯した過ちにを感じずにはいられなかった。








 side クロード


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 「はーい!お疲れー!!ちょっと帰んないでよ!もう終わりだから!終わりー!」


 既にスタスタ帰ってしまっている勇者サマを呼び留めるように大声を張り上げる。まさかそのまま帰るつもりじゃなかったんだろうな。


「…なに?もうネタバラシするのクロード。」


 何言ってんだよ勇者様、もう終わっただろうが。逆にここを逃したらいつネタバラシするんだよ。


からまあいいだろうってな。ミシェラももう起きていいぞ。」


「お疲れ様です、お兄様。上手くやれてましたか?」


「もー完璧だ完璧!正直俺じゃあ目で追うのが精いっぱいだったもん。」


 3人で談笑する中一人置いてきぼりを食らっているのはセイラだけだった。


「なに、が…。どういう…。」


「あーまあそうなるよな。アレだから、ちゃんと順を追って説明するから。」


 と、言うわけで。話は数日前、初めて勇者と会った日に遡る。




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「で?セイラを追い払ってまで私としたい話ってのは何かな?」


 勇者一人、部屋に残して話をする機会を得た。重要なのは此処だろう。俺が生きるか死ぬかを決める


 神の現身うつしみことセイラは何をやろうと無駄だといったがやれることはあるはずだ。


「話、そうだな。大事な話だ。」


 どうするか、こればっかりは勇者が勇者であることを信じるしかないか。


「俺は…。」









 







「…どういうことかな?クロード。」


 笑顔にひびが入り、途端に部屋の空気が変わる。


「どういうことも何もない、今言ったことが真実であるというだけ、俺は君に殺される人物だということだ。」


 本来ならって言葉がそのまま真実になって欲しいと願うばかりだが。


「自白?今ここで殺されたいってこと?」


「そうじゃない。ただ…俺の人生4つの話を先にお前に語ってしまおうってだけの話さ。さっきのはモノローグだよ。」


「…話が見えてこないな。」


「まあ聞けよ。そして話を聞いた後で会いに行って欲しいのさ。その最後にお前に俺をか、判断してくれ。」


 かくして男は喋りだす。




 例えば、若き才ある画家を食い物にしていた貴族の男の話。




 例えば、才を求めた果てに止まれなくなった教育機関の女の話。




 例えば、望んだ権力に目が眩み、全てを失ってしまった喪失者の話。




 例えば、夢を与えて地獄に引きずり込む、見抜けなかった赫い女の話。




 勇者は何も口を挟まず、唯々俺の話を聞いていた。まるで判決を下す閻魔のように、黙々と思考を巡らせるだけだった。


「以上が俺の人生だ。異常な俺の罪悪だ。わかったか?俺がどういう人間か。」


「…まあ、大体の事は。でも…。」


「そう、あくまでこれまではの話。だから確実に俺を知るにはやっぱり重要人物を訪ねてみなくちゃいけない。でも勇者様は得意だろ?なんてことは。」


 だって勇者だもの。それが彼女の人生ストーリーの重要なきっかけだから。


「いいよ、それで。話をまとめて決断したらもう一度会いに来るよ、クロード。でもなんで僕だけに話したの?セイラに聞かせても良かったと思うけど。」


 それが一番大事なんだよ、勇者様。


「実を言うとな、お前が席を外しているときに少し彼女と喋っていたんだが…彼女には何かが取り憑いている。そう思うんだ。」


「…ずっと旅をしてきた私が分からなかったのに君がそれを見抜いたといいたいの。」


 一転、彼女の顔に疑惑の色が映る。


「別にお前を騙そうってわけじゃないんだ、本当に。騙したいのは別。なんならこの事をセイラに喋ってしまっても構わない。ただ俺が死んだと思うことがセイラに取り憑いた何かを祓える条件になるかもしれないって、そう思っただけさ。」


「なんで君が死ぬことが祓う条件になるのさ。」


「あー…説明が難しいんだよ。だからこれはおまけみたいなもんだと思ってくれて構わない。俺の推測が間違っている可能性の方が大いにあるからな。」


「…。」


「ホントに騙す気はねえんだよ。何なら勇者様が騙す側だぜ?折角ならいつも旅する相棒の驚く顔を見てやろう。それぐらいの気構えの方がいいさ。」


 騙すってのは相手ありきの行為。反応リアクションがなきゃやる意味がねえからな。


「まあ、わかったよ。」


「それで、だ。こうして俺が君に胸襟を開いて話をした理由。つまりは決断したとき俺にお合言葉で教えて欲しいのさ。俺を殺すか殺さないかってことを。」


「意味があるの?それ。」


「大ありだよ!」


 そう言うと俺は重ね着してある高価な服から動物の血で作った偽の血液が入った袋を取り出す。本当は血糊が欲しかったが作れなかったので代用品だ。


「俺は服に色々仕込んでてね。これもその一つ。もしお前が俺をと決めたなら俺の腹部を切り裂いてくれ。そうすればこいつで大量出血したように見せかけられる。」


「変な物作ってるんだね。それで?と決めたときは?」


「別に何も考えなくていい。ただ殺せ。でも俺にも抵抗のチャンスが欲しい。だからこその合言葉だ。殺すと決めたら、と言い。殺さないと決めたならと言ってくれ。」


「意味あるの。それ。」


「殺さないと決めたなら俺も抵抗をしないが、殺すと決めたなら生き延びるために死ぬ気で抵抗させてもらう。その判断がしたいだけだよ。」


 どうせセイラが隣にいるんだろうから合言葉がいるってだけだ。


「私が嘘を吐く可能性もあるけど。」


「吐くのか?嘘を。」


「どうかな。」


 お前が人を殺すかどうかという時に嘘を吐くなんてありえないくせに、そうだろ?なんだから。


「いいよ、じゃあ私はいくね。君の事、ちゃんと見極めなきゃいけないから。」


 俺と勇者との一対一での話はこれが全てだった。


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「…とまあこんな感じだ。分かってくれたか?」


「分かってくれたか?じゃないですよ!なんでこんな回りくどい事…。」


「そんなの簡単だよ、お前の騙された顔が見たかった、ただそれだけだよ。まあホントはもう一つ見たい顔があったんだが見に行くわけにはいかねえしなあ。」


 流石に女神さまに会うために死ぬってのはちょっとリターンが微妙過ぎだ。


「面白い顔だったよ、セイラ。」


「もう!ムラサメまで!」


「でも悪い事ばかりじゃなかっただろ?窮屈な神様の眼がなくなったわけだしよ。つってもこれは俺も自信なかったがな、何なら俺が普通に死ななくても解決する話かもしれねーし。」


 実際は女神様の気分次第だったかもな。


「でもミシェラさんとの戦いは本気でしたよ?もしこれでミシェラさんが死んだりしたら…。」


はねえだろ。だってお前は勇者のサポートがメインの魔法使いだ。回復が専門の奴に殺されるなんてミシェラに限ってそれはない。二人ともいい機会になったんじゃないか?全力ギリギリを出せる相手なんてそういないだろ?」


「うん。共闘したことはあったけど敵にしたのは初めてだから。私の仲間に欲しいぐらい。」


「私も久しぶりに楽しかったですよ勇者様。」


 実際勇者が俺を殺すと決断したなら俺も加勢に入るつもりだったし、実際本気同士のぶつかり合いだったらどうなってたんだろうな。


 考えたくないことではあるがどうせ負けるんだろうよ、だってって相場が決まってるもんな。


「つーわけでこれからウチでパーティやるから二人とも来いよ!パーティ名はカミサマ騙した記念だ!」


「ミシェラ、こういう事言いたくないけど君の兄さんって名前のセンスは無いんだね。」


「そうですか?私は好きですけど。」


「ホントに君は兄狂いブラコンだね。あ、そうそうパーティはいいけどクロードに言いたいことがあるんだ。」


「ん?なんだ?俺はもう早く肉が食いたくて仕方ないんだが。」


 料理長クラウディの肉が俺を待っている!




「今回は見逃したけど、時が経って君が変わってしまったら。その時は私がもう一度会いに来るよ。きっちり。」




「いつでも来いよ、今度は本気で相手して騙してやるから。」




 瞬間、剣呑な色を漂わせるが勇者の


「じゃ、パーティいこうか!」


 そんな明るい声で霧散する。


 そして勇者御一行を加えたパーティは夜が明けるまで続いた、過去一番の騒がしい声が止むのはいつになる事やら。


 眠くなって来たころに差した日の光は俺の未来をも照らしているようだった。




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 と、いうわけでだ。これにて俺の話はオシマイ。めでたしめでたしってな。



 色んなやつを騙したが最後は神様ってのは中々締まりがいいんじゃねーか?



 読者おまえらは楽しんでくれたか?もしそうだったならこれ以上に嬉しいことは無いよ。



 ではそろそろお開きに、これにて最終章は閉幕。



 ここまで付き合っていただいた皆様に盛大な感謝を。



 またいつか出会える日までごきげんよう。



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