33話 私の決断
side ムラサメ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌日。情報収集をしていると何やら前ギルド長が彼ともめ事を起こした。という話を聞いた。ただ問題なのは彼の居所だった。本当なら直接彼を訪ねて話を聞きたかったがそうもいかない。
なんせ事件の後、財も立場も失った彼はどこともしれず姿を消したのだ。会おうにも会えないのでギルドの職員の人に話を聞いてみた。
「え?マクベルがどんな人だったかって?そりゃあクズの一言だよ勇者さま。昔はああじゃなかったみたいなんだけどなんつーか…人が変わった?って感じだよ。いやもしかしたら本来の人格が出てきただけなのかもしれないけどね。」
「マクベル前ギルド長について?好きだっていうやつの方が少ないんじゃない?私も時々お尻触られてたし正直気持ち悪かったわね。でもまさかミシェラ様の暗殺を企ててたなんて…人が変わったとはいえそんなことするような人ではなかったと思うのよねえ…だって本質的には臆病だし、あの人。」
「マクベルさん?…まあ多くの人は嫌いだ、或いは好きではない。そういうのでしょうね。私も大好きだったとは言い難いですよ。でもね、全てが全て悪い人なわけじゃあないんですよ。私は秘書をしてましたけど…時々高ーいお酒をくれたり、息子の遊び相手になってくれたり。いい思い出が幾つかできたら嫌いになりきるっていうのは難しいんですよ、どうしてもね。」
大方集まった情報、というかマクベルの印象はこんなものだった。
「もうマクベルって人の事はいいんじゃないですか?私たちが調べるのはクロードの方でしょう?」
「…そうだね、これくらいにしておこうか。」
セイラのうんざりと言わんばかりの顔が私を見つめる。クロードの情報を集めるって体裁はしっかりしないとね。
「もうちょっとだけクロードの情報を集めたら色々と考えることにしようか。私がどうするべきか。」
「…私は貴方に従うのみですから。」
そうして街で話を聞き出し、つい最近ロクサーナという隣国貴族がランスソード家
に無礼な振る舞いを働きまたも国外追放された、という情報を得た。これで最後だ…と思ったまではいいものの。
「彼女に話を聞くのも難しいだろうね…。」
なんせ国外追放だ、さらに隣国まで情報収集とはいかない。いずれここを出るのは決まってるけど此処の問題を解決するのに国をまたぐ余裕はない。
マクベルと同じように話をきく…というのも難しい。なんせ彼女の住んでいた屋敷はもう空き家だ。誰もいないのだからどうしようもない…と困ってるところで偶々見つかったのがロクサーナから解雇された使用人だという人物。
なんだろうね、私って困ったときに都合よく欲しい人物が現れる傾向があるんだよね。なんていうか幸運な運命を歩いているような感覚?言い表しにくいけど。
「ロクサーナ様は自由なお方でした。いつでも、ね。ただし付き合わされる我々にとっては地獄そのものでしたよ。」
街の裏路地で使用人だったという彼は語る。
「だったら辞めちゃったら…って辞めたんだよね。」
「自分から辞めることはできませんよ。そんなことしたらいよいよ自分を許せなくなりますから。かつての主人を裏切っておきながら多忙だから辞めたいなどと…己が許しはしませんから。」
ロクサーナという人物は引き抜きを趣味にしているようで、彼もそのうちの一人なんだろう。
「ですので解雇宣告をされたときはようやく終わったのだと、そう思いました。自ら望んであの人の下についたというのに。」
「仕方ないんじゃないかな、騙されたようなものなんでしょ。」
私だって決断を後悔した数は数えきれない。
「…ただ裏切らなかったランスソード家のメイドは何故彼の下についているのでしょう。はっきり言ってあの一件以降、私は彼を見る目が変わってしまった。無論、何を喚こうが彼の名前に傷一つつけることはできないでしょうが…ロクサーナ様があの時おっしゃったことが真実であるのなら、彼はそのうちこの国に混沌をもたらすような、そんな気がしてならないのです。」
「わかんないけど、情報提供には感謝するよ、元使用人さん。」
彼から得られる情報はここらで打ち止めだろう。さすがにこれ以上聞いてるとセイラからまた小言を貰いそうだ。
「それでどうするのです?ムラサメ。おおよそ4名、彼とかかわりのありそうな人物から話を聞き出しましたが。」
「うん、そうだね。これ以上はいいよ。クロード・ランスソード、彼の情報は集めきったといってもいい。」
クロード・ランスソード
・ランスソード家の現領主、表向きは優秀な領主であり、領民からの好感も高い。
名実ともに歴代最高の名高い彼ではあるが実態は別。悪人から金銭を騙し取る事
に抵抗を覚えている様子はなく、かと思ったら学園を救っていたりする。良くも
悪くも行動が読めない。善人である振る舞いが基本だが悪に対する悪事は苛烈。
そして人の本質を見抜くというロクサーナが彼を見たときの評価。生きているだ
けで他者を害する化け物。
私の頭の中でまとまったおおよその彼の人物像はこんなところ。そして私がどうするかももう決めた。
「セイラ行こうか、彼の所へ。ああでもできることなら彼が一人でいるときの方がいいかな。だって―」
私は彼を殺すと決めたから。
セイラの悲しそうな顔が印象的だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます