32話 クロードという人物
side ムラサメ
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「うーん…。おはよう、セイラ…。」
「貴方はいつも朝が弱いですねムラサメ。」
「うーん…。」
寝ぼける頭を顔を洗って覚醒させる。今日は色々と街の人から話を聞かないといけないんだったっけ。
「それで、今日はどうするのです?ムラサメ。何か予定はあるのですか?」
「うーんとねえ、街の人にクロードって領主の事を聞こうと思って。」
「そうですか、まあ貴方に従うだけです私は。」
「ご飯食べたら早速いろんな人の話を聞きに行こうか。」
宿の朝食(トーストとかスープとか)に舌鼓を打った後、ランスソード領内の人間に聞き込みを開始する。
「しかしどうしてクロードという領主の事を探るのです?」
「うーん…なんとなく、かな。何か裏がありそうな気がする。それだけだよ。」
「…やはり逃れることはできませんね。」
セイラが何かぶつぶつ言ってるけど気にしない。いつもの事だしね。というわけで風の都ラヴィニアで何人かにクロードの話を聞いてみたけど…。
「ダメだあ…。皆言う事一緒だよ。ランスソード家過去最高の当主だとか優しさにあふれた慈愛の領主だとか激烈伯だとか。なんていうか褒める言葉しか見つからないよねえ。」
「…そうですね、なんとも完全過ぎるというべきでしょうか。」
そうなんだよね、大体こういう領主様みたいな人って万人に好かれることってないと思うんだけど…、なんだか逆に怪しく思えてくるよね。こうなると。
それでも諦めずに情報を探していると一人からあの家は厄介ごとを時々抱え込んでしまっている。そんな話を聞いた。
「ふむふむラッセルって貴族と一緒に詐欺に逢ったことがある、か…ちょっと面白そうだね。セイラ。」
「そうですね、ムラサメ。会いに行きますか?」
「そうしようか、王国都市ははちょっと遠いけど…今日中には着くよね。」
使えそうな情報を手に入れた私たちは早速移動した。といっても日が暮れてしまったので都市で宿を探して一夜を過ごしたけど。
日を改めて翌日、私たちは上流貴族、ラッセルさんと対面していた。
「私がラッセル・エルフォードだ。勇者様が私に会いたいとのことだったが…一体全体何の用でしょう?大したものは持ち合わせていませんが…。」
「ごめんね急に押しかけて、実は聞きたいことがあってさ…。」
そして街の人から聞いた詐欺について切り出してみる。
「ラッセルさんって最近詐欺に逢ったんでしょ?それもすごい大金を。」
「…!どこでその話を…、まあ隠しているとはいえ人の口に戸は建てられないというからな…。」
「実は色々あってその犯人を捜してるんだよね、ホラ、勇者って悪人を退治するのも務めだからさ、情報が欲しいんだ。」
犯人捜しをしてるってのは嘘だけど情報が欲しいのはホントだし。
「そうか、…さすがは勇者、だな。」
「今思い出してもイライラするよ。私は芸術…、つまりは画で少々取引を行っていたんだがあろうことに芸術家の情報、そして契約を約束する代わりに1000万を渡したんだ。」
「それは…ご愁傷様。」
1000万って…どれだけその画家に価値をかんじたんだろう。
「結局、その契約を持ち掛けた商人と芸術家は姿をくらましたし私は金を失っただけ、高い授業料だったよ。」
「確かクロードって領主も詐欺に逢ったんだよね?」
「ああ。彼は芸術家の画を買ったらしいが…、ぼったくられたことは間違いないだろうね。」
はは…、ラッセルさんはそういう風に認識してるんだ。
「ただ…その一件以降、私が抱えている若い芸術家と少し話し合ってね。もう賃金を払うのも難しいからクビだと告げたんだが…、彼ら、なんていったと思うね?」
「…金なんて要らない、じゃない?」
「はは!さすが聡明だな。未熟だった俺たちの画を唯一認めてくれたのはアンタだけだった、ってそう言ったんだ。金なら自分たちで工面するから私の画家でいたい、とね。」
…聞いた話じゃあ若い画家を食い物にしてる悪人だ、ってことだったけど。
「今じゃあ彼らの画で真っ当に取引してるよ。ビジネスの間に技術も向上していたようだ。」
どこか嬉しそうに語る彼の顔は悪人とは程遠いそれだった。事件のあと、自分を見つめなおしたということらしい。いいきっかけになった、と受け取るべきなんだろうか。
「ありがとう、ラッセルさん。僕たちはもうそろそろ行かなきゃ。」
「そうか、どうか頑張ってくれよ、色々とな。」
そうだね、頑張って決断しないと彼に悪いからね。
そのままラッセルさんに見送られながら彼の家を後にする。時間がまだ少し余っていたので王国付近で情報を集めていると、どうやらアストラ学園で一時的に講師やっていた。という話を聞いた。
流石に今から行くには遅いのでまた宿で一晩明かして朝に学園に出発することにした。長距離移動が続いたのでセイラが若干不機嫌だったけどまあ気にしない。いつもの事だ。
そうして学園に到着するとすんなりと中に入れて貰えた。いつも思うけど勇者という立場は何かっていうと便利だ。
「初めまして勇者さま、私は此処アストラ学園の学園長をやらせてもらっているオリーブと申します。」
「私はムラサメ、こっちはセイラ。ああ、それと敬語は使わなくていいよ。なんだか堅苦しいのって苦手なんだよね。勇者ってだけで偉いわけじゃないんだし。」
むしろ私が敬語を使うべきなんだけど…これはこれで苦手なんだよね…。
「…いえ、敬語が私の基本的な口調ですのでお気になさらず。」
「そっか、じゃあそのままで。」
「それで、勇者様が学園なんて場所にどのような御用でしょうか?」
「それが…。」
率直にクロードのことを知りたいなんて言うと少し不審がられそうだったけど…他に言いようもないのでそのまま聞いた。
「クロード様ですか…彼の学園での働きと言えば…。」
そのまま彼女はクロードの講師としての働きぶりを語り始める。それなりに長くなったけどまあ簡単に言えば良い講師だった。ということ。
「ただ…正直これまで話した事など些細な事です。彼は学園を、私を救った。ただそれだけで彼を優秀な領主として認めるには十分でしょう。」
「…へー気になるな。一体全体何をしたのか。」
嘘をつくのは苦手なんだけど、バレてないかな。何をしたかなんてとうに知っているんだけどね。
「あまり詳しいことは言えませんが恥ずかしい話、この学園はつい先日まで腐敗していた、そう言っても過言ではない状況でした。それを彼が正した、いや正すきっかけを作った、というべきでしょうか。」
「成程ね、だから学園長は彼の事気に入ってるんだね。」
「当然でしょう、助けてくれと頼んで助けてくれた相手を嫌いになることは無いですから。」
また、決断のための判断材料が増えた。果たして彼をどうするべきなんだろう。
程よい所で彼女との話を打ち切って学園を後にした。
残るは二人、か…おっといけない。これはオフレコで。でも面倒だなあ、私ってこういうのあんまりやったことないからなあ…。
情報収集を挟む必要があるのも原因かな。
セイラの顔色を伺いながら今日も宿で一夜を明かした。
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