終章 俺と勇者と裁きの日

31話 勇者とは

 祝勝会の最中の来客、ということで取り敢えず一旦お開きにして来客モードにスイッチを変える。


「いやー失礼失礼。お恥ずかしい所をお見せしました。」


「いや、こっちこそゴメンね?なんかパーティやってたんだろ?私のせいでお開きになっちゃって。」


 彼女はヒイロ・ムラサメと名乗った少女。彼女こそがこの俺が今いるゲームの世界の主人公。討魔伝~なんたらかんたら~の勇者様ってわけだ。確か女神から貰った情報では男と女とどっちでも選べるシステムだった気がするが…。この世界では女らしい。


「いえいえ、そんなのいつでもやれることです。重要なのは勇者様の歓待の方ですよ。」


 この世界では勇者という存在は周知されている。というより世代ごとに勇者と魔王が生まれるシステムだったはずだ。正直俺は魔物と戦わないし勝手にやっててくれって話だが…。


「ははは、ごめんねホント。あ、そうそう紹介忘れてた、この子はセイラ、今は一緒に旅をしてるんだ。」


「お初にお目にかかります、セイラと申しますわ。回復魔法が得意ですの。」


「成程、今はお二人で旅をなさっているというわけですか。」


 このセイラとかいう女、どこかで見たことあるような気がするんだが…。


「うん、そうなんだよね。でもホントはもうちょっと仲間が欲しくってさー、例えば…すごい腕の立つ剣士とか。」


 おいおい、ミから始まる誰かの妹が適任じゃねえかよ。


「うーんそうですねえ…何分私は公務に忙しいものですからそういった魔物との戦いに自信のある人物というのはなかなか…。」


 めちゃくちゃ知ってるけどちょっと伏せておく。まだ勇者と俺がどういう関係になるか決まってない段階でいきなりミシェラを投げるのは危険だろ。


「そっか、じゃあ仕方ないよね。ところでちょっと言いにくいんだけど…トイレ借り手良いかな?もうちょっとヤバくて…。」


「ああ、構わないよ。ホラ、バーバラ、案内してあげて。」


「はーい、こっちだよ勇者様。」


 手招きするバーバラについていって勇者様は客間を出ていく。残されたのは俺とセイラと名乗った少女だけ。うーん何を喋るか…。というより確か本来のストーリーにセイラなんて仲間いなかったような…。


、クロード様。」


「…失礼、お恥ずかしながら貴方の事を私は記憶していないのだが…。」


「忘れたんですか?貴方を、だというのに。」


 この世界に?っつーことはまさか…


「まさかお前は…。」


「ええ、貴方の死後を担当した女神セーラのこの世界での現身うつしみです。」


 神が来てるのか?そんなことが可能なのか?おいおいおいどうするんだコイツ。こっち来てから騙すことしかしてねーぞ。


 …終わりか?


「何を考えているかは知りませんが、このセイラという身は全能ではありませんよ。当然貴方がこれまで何をしたのかも知りません。」


「そう、かよ。まあ別にやましい事なんてないがね。」


「調子が出てきましたか?でも安心するのは早いですよ。裁くのは私ではなく勇者、ムラサメなのですから。」


 そう、それだ。それが問題だ。


「そう、あんたに聞きてえんだ。本来のストーリーと比べて、勇者が俺と逢うのが早過ぎる。確か24歳がその日だったはずだろ?俺はまだ14だぞ?」


「色々あるのですよにも。まあやることは簡単です。貴方がムラサメに斬られるか、斬られないか。それだけですよ。」


「ふーん?死ななきゃいいってわけか?だがそれなら正直、簡単イージーすぎる。裏がありそうで怖いんだがよ。」


 極論を言えば口八丁でウチの領に滞在する間、騙しちまえばそれで終わりだろ?今までで一番簡単まであるよな。


「はあ…貴方はまだ勇者とは、主人公とは何か。理解が足りていませんね。」


「…まあゲームは前世じゃやってこなかったからな。正直よくわかってねえけど。」


「いいですか?貴方にヒントをあげますが…勇者とは、主人公とは悪を許さず、見逃さない。否、


 わかりますか?ゲームにおいて悪人に騙されて悪事を見逃しましたなんてんです。だから彼女は何があろうと貴方の悪事を


 そう、宿命づけられている。そうして沙汰を下すのです。貴方が生きるべきかどうかを。」


「…成程、要は隠し事は出来ねえってことでいいのかい?」


「ええ、そうです。貴方が今までうまくやってきたのかもしれませんが事今回は意味がない。そう思っていただいて結構。詐欺に騙しが通用しない。文字通りの常識外チートですから。」


 常識外チート、ね。つまりは俺はもうどうしようもないってことか?


「俺は…どうすれば…。」


「どうもしなくてよいのです。ただ身を任せればいい。勝手にこちらが貴方を暴き、そして裁く、その運命に身を任せればよいのです。伝えた通り善行を積んだなら何も問題ないでしょう?」


 美しく微笑んだ彼女の顔は俺にとっては死刑宣告そのものだった。


「いやーごめんごめん待たせたかな?」


 勇者が部屋に戻ってくる。俺は上手く笑えているか?


「いえ、お気になさらず。それで…。」


 二人の顔を見やる。


「実は私と勇者様だけで折り入って話がしたいのです。ですのでそちらのセイラさんには…。」


「成程、わかりました。私は宿に戻ります。いいですね?ムラサメ。」


「え?ああ…私はいいけど…。」


「では失礼して。ただ…。。クロード様。」


 そう言い残して彼女は部屋を出る。残されたのは俺と勇者様だけ。分かってるよ。何をしようと無駄なんだろうが、俺はやれることをやるだけだ。


 例え無駄だと言われようが準備を、備えをしない理由にはならない。それが俺の流儀だ。


「それじゃあ…。ちょっと長くなるけど、俺の話に付き合ってくれよ。ムラサメ。」


 これが俺のやるべきこと。俺と彼女の話は長く長く、夜になるまで話は続いた。


 俺の命は、裁きは、もうすぐそこだ。


 その日の夢はムラサメに斬られ、血しぶきをあげる俺が映っていた。まるで俺の未来を暗示するように。





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