30話 祝勝会、邂逅
「はーい!かんぱーい!!!!」
今日も今日とて祝勝会、もう何度目かもわからぬそれだが何度やったって楽しいことは楽しいもんだ。
「まあ俺は今回なーんにもしてないんだけどな!」
そう、今回クロードこと俺は何にもしていない。最後にロクサーナに会っただけだ。
「ホントに上手くいくんだねー!正直びっくりだよ。」
バーバラがワインを飲みながら楽しそうに笑う。今回は3人の手柄だからな。
「んー俺もびっくり、アクセルの頑張りにはさすがに称賛を送らざるを得ないよな。」
そう今回一番頑張ったのはアクセル君です。口調も振る舞いも俺を真似てもらいました、勿論語りもな。
一応気づけるポイントはいくつかあったけどね。
「しかし…さすがに今回の作戦は穴が多過ぎよクロード。相手が相手ならすぐにばれていたでしょうね。」
はは、ローズはいつも手厳しいことで。
「それは俺も反省点。ちなみにどの辺がまずかった?」
「そうね…連れていくメイドの人選は考えた方がいいわ。ちょっと都合が良すぎる。」
それは確かに。二人とも主人を裏切りそうなやつを選んだのはちょっとやり過ぎだったかな?
ああ、勿論裏切りそうってのはアクセルみたいな根が真っすぐなやつが主人だった場合ね。
「ま、上手くいったからよしってことで、人の本質を見抜く眼を持ってるせいで状況を読む眼が衰えてたんだろうよ。」
そう彼女は赫の目、ブラッドアイで人の本質を見抜く。そうして他陣営の中から裏切りそうな人物、離反しそうな主人たちと反りの合わないはぐれ物に声をかける。
そして夢を与えて釣り上げたなら、待ち受けるのは彼女の手駒になった地獄の日々だけ。使い潰せばさようなら。彼女が追放されたのもほぼこれが原因だ。
だから彼女の眼にエサを与えた。アクセルという誠実な主人と、相性の悪いこの二人。というよりウチで働いてる奴なんて癖強すぎてイカレタ奴ばかりだが共通するのは騙すのが好きってこと。さすがは悪徳貴族のお家だな?
「しかし、クロード様に扮するのはコレでさいごにしたいですね、もうこりごりです。」
「安心しろよアクセル、こんなの普通出来ないからよ。隣国で俺の顔も家紋も屋敷もまともに見たことが無いってのが重要だったんだしな。」
この国の貴族や領民たちにはまず使えない、ロクサーナ婦人だからこそできた裏技だ。
顔も、屋敷も、家紋ですら、全てが偽物、しかも上流貴族に完全に扮して近づいてくるなんてマトモな頭してたらまず思いつかない。
「んーでももし何かの間違いでヴィゼル村の人にクロード様の事聞かれたら困っちゃうんじゃない?」
何言ってんだよバーバラ、お前も手伝ったことだろうに。
「だからこその下準備だろ?どんだけ大変だったと思ってんだ。俺の偽家紋の押された書類づくりに屋敷(別荘)の購入。村への根回しも完璧よ。新しくあそこに移住するかもしれないってな。実際はリゾート感覚の扱いだけど。」
「それに、おそらく聞かれないでしょう。こんな仰々しい屋敷にまで住んでいるのにクロードでない別人だと疑うのはむしろアクセルの演技に問題があるでしょうから。」
つまりはアクセルが上手くやったってことだ。
「でもよくわかったね。ロクサーナが屋敷…えーっと別荘の方ね。そっちに尾行をさせて私たちの確認するだなんて。」
「相手の思考になると簡単だぞ。いくら裏切りそうな相手だからと言って実際にそうなるかどうかはわからない。であれば密偵を送り込んで様子を探るのは当然だ。」
「だから私達に別荘での振る舞いでもアクセルを主人とした演技を続けさせたのですね。」
「リンネ、正解!2週間も別荘で演技するってのはさすがに大変だったか?」
「いえ、特には。むしろ普段より楽でしたよ。」
「え?どういうこと?それって暗に俺の世話が大変だって言ってるわけじゃないよね⁉ねえ、ちょっと!答えてお願い!」
大丈夫だよな?裏切られたりしないよな?
「リンネっていつもそうだよねーもっと素直になればいいのに。」
「私はいつも素直ですよ、自分の心に。」
どう受け止めればいいんだその台詞。
「でも一億だよ!一億!今までで一番大きい金額じゃん!」
ホント、ロクサーナには頭が上がらないね。
「気前のいいこったよなあ。上手くいってると思い込んでる奴はすぐにこうやって投資しちまうんだよな。だから俺たちに喰われるんだ。」
あの性悪女、大方クロードことアクセルの絶望する顔を見たくてこんな取引にのったんだろうが欲を出し過ぎだ。裏切っているとはいえ元はこっちの陣営のリンネ、バーバラの提案ってだけで疑うべきなのによ。人間調子がいいと目が狂うんだろうな。例え赫く輝こうとも、な。
「しかし、彼女はどうなるのでしょう。」
「どうした、アクセル。ロクサーナに情でも湧いたか?」
「いえ、そういう訳ではないんですが…。」
「そうだなあ…貴族の家に上がり込んでは罵詈雑言をお見舞いして、俺の知らない偽造の契約書なんてものまで持ってるんだし?国外追放なんじゃねえのかねえ。」
「それで珍しく最後にネタ晴らしをしてたのね、貴方。」
そうそう、もう彼女が俺に関わることはほぼ不可能なんでね。ちょっと景気づけに色々喋ってみたけど…。全て黙殺されるしな。本当に、可哀そうな事。
「いやーただ別荘からこっちに誘導するために家財から何まで全て一旦引き払ったのは面倒だったな。しかももう一回持ち込むのか…。面倒だな。」
「別にいいんじゃない?あっちってバカンス用の別荘なんでしょ?ゆっくりやってもよさそうだけど。」
「面倒な事は一度に終わらせたい性質なんだよ。ま、いいがね。」
引っ越しってのはいつだって面倒だよな。
「クロード様、ミシェラ様がお帰りのようです。」
「お、ちょうどいいじゃんミシェラも途中参加できるのは幸運だな。やっぱアイツ持ってるんだろうな。」
マクベルを騙して以降、特にミシェラに隠す理由もあまりないのでパーティ参加に作戦参加も可能なのだが今回は魔物討伐言ってからな、俺のこれは趣味を兼ねてるもんだからさすがにそちら優先ってわけだが。
「ただいま戻りました、お兄様。」
「お帰り、今丁度祝勝会やっててなミシェラも一緒に…。」
俺の言葉は止まる。ミシェラ、ではなくその隣。
「実は魔物との戦闘中に助けてもらった方がいまして…。」
そういいながらミシェラは隣の人物を紹介し始める。
「こちら、ヒイロ、ムラサメさん。当代の勇者様です。」
俺を殺す
つーわけでここまでが第4章。どうだったかな?皆は気づいたかな?ちょっと意地悪だったのは認める。激烈伯のイタイ名前を初めて聞いてる下りなんかが分かりやすかったか?
まあいい。重要なのはこれから、だろ?次が最後の最終章。とはいっても善人が服を着て歩いたような最高の領主様が勇者に打ち倒されるなんてことあり得ねえけどな。
4章のエンドロールはここらで御仕舞い。最終章のヒントは勇者、そして裁き。
それでは皆様、ごきげんよう。
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