28話 見抜く眼

 side ロクサーナ

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 あぁツマラナイ、どいつもこいつも使えないったら無いわ。私は夢を与えただけ、それだけなのに国外追放?


 馬鹿馬鹿しい。馬鹿や無能どもからマシな部下を引っ張っただけ、それだけでこの仕打ちなんて…まあ引っ張った後どう使かは私の自由だけど。


 処刑されなかっただけマシ、そう思うしかないわね。


 隣の国の亡命先は辺境の村のはずれ、多少流通があるとはいえこの私がこんな扱い…いいわ、私への試練という事でしょう。


 身分も失い、あるのは金としもべたち。すぐに成り上がってやるわよ。この眼さえあればどうとでもなる。


 そして移住してすぐ、どのようにこの国での積み上げ、そのとっかかりを作るかというとき丁度いい手紙が来た。私に目を付けた耳の早い誰か。


 差出人はクロード・ランスソード。うわさは聞いている。圧政ばかりの悪徳領主から突然変異で現れた善意の塊。今じゃあ時の人よね、この国では。このスピードで私に接触するのもなんだか怪しいけど。


 返事は勿論オーケー、何の目的で近づいてきてるのかわからないけど精々うまく使ってあげましょうか。




「ごめんなさいね、まだあまり片付いてないの。」


 嘘、失礼の無いよう急ごしらえとはいえできうる限りの準備はしておいた。


 来たのは3人、クロード本人に傍仕えのメイド2人。そうね…


 


 まだ話すらしてないけどまず顔がいい、加えて無駄にでしゃばることもない。主人を立てようという思考が基本的に備わっている。


「どうぞ、ダージリンはお好きかしら?」


 の紅茶を彼に飲ませる。そうよ、そうそう。しっかり飲むのよ。薬が早く回るように。


 そろそろかしら、3人を赫い眼で見つめる。そうして見つめれば…3人の本質が見えてくる。


 ふふ、私ってやっぱりツイてるわよね、ホント。こんなに都合のいいことあるわけないわ。幸運の女神に愛されてるみたい。


 なんだかクロードが手を組もうだの下級貴族からその地位を奪い取ろうだのと喚いているけど関係ない。ぜーんぶもらえば解決するでしょう?


「…。申し訳ない。ロクサーナ婦人。話の途中で申し訳ないんだがお手洗いをお借りしても?」


 来た来た、そういって彼は部屋から出ていく。残されたのは私とメイド2人。


「ねえ、貴女達。」


 突然の私の声掛けに彼女らは身構える。


「不満が、あるんじゃない?」


「…なにが、でしょうか。」


「彼は優秀よねえ、頭も回るし人気もある。仕えるには申し分ないけど…例えばリンネと言ったわね貴女。」


「…。」


「本当は物足りないんじゃないの?刺激的な生活、例えば男を騙して手玉に取るような、そんな生活。誠実な彼の下では難しいんじゃないの?」


「それは…。」


 正解でしょうね。だって眼が教えてくれるもの。この眼が見抜くのは人の本質。


 優秀、誠実、実直を地で行くあの領主様と比べてこの二人のメイドは正反対。


 人を騙すことが本懐の劇物達、正直くらいのイカれてる振り切れ方。


 私が使ってあげるわ。だから感謝してよね、クロード様。


「バーバラだってそうでしょう?本当はもっともっと遊んでいたいし、お洒落だってしたいわよねえ。でもあの人はそれ許してくれないんじゃない?」


「…うう。」


「ねえ、私のところに来なさい。望むもの、望むこと、全て与えてあげる。」


「でも…。」


「クロード様を裏切るわけには…。」


 悩んでるわね。仕方のないことだけど。でもあまり時間を無駄にするのは嫌いなのよね。


「1週間あげるわ、そしたら返事を頂戴。クロード様にはばれないようにね。もし喋ったら…。ふふ考えない方がいいわよ。」


 期限と脅しを提示して反応を伺う。


「よく考えることね、一生彼に仕えるのか、私の下でやりたいことをやるのか。」


 人は夢を、やりたいことを棄てられない。ただ使える相手が変わるだけ、だったら自分の本質を見抜いてくれる相手良いのは道理というもの。時間の問題でしょうね。


「…?失礼、お待たせしました。」


 遅れて彼が戻ってくる。ふふ、本当に遅い。もうなにもかも、手遅れなのに。


 そして彼の取引の決定を遅らせて期限を作る。


「そうね、2週間。」


 1週間で答えを出して、1週間で私に土産を持ってきなさい。二人とも。


 それもできないようなら必要ない。ある種彼女らを試すテストでもある。無能を引き抜いたって私がタノシク無いし。


 そして帰った彼らを見送って1週間、返事は2人揃って私の下に来るという内容。


 しかも彼の悪事の証拠を持ってくるなんていうおまけ付きで、彼に効く取引内容まで教えてくれる始末。可愛そうにねえ、こんなに部下に愛されてない主人も珍しいわ。しかも弱点まで敵に教えられるなんて。


 時は経って1週間後、つまりは彼との楽しい取引の時間。


 彼は私との協力関係を結ぶつもりなんでしょうけど…、ごめんなさいね?全部もらうわ貴方の財も、立場も、部下も、プライドも。




「何をやってるんだ!答えろリンネ!」




 何が起こったかわからないって顔、そうよね、誠実が服を着て歩いたような貴方が裏切られるなんてこと考えているわけもないわよね。この間抜けな顔を見るために生きてるんだから。


 そして彼のから貰った情報で本当の取引を始める。




「およそ、1億。貴方にあげるわ。」



 彼が何より大事にするのは領民やイメージよりも身内、つまりは仲間に重きを置いている。例えどれほどの財をなげうってでも。


 だから仲間を取り戻すために働かせる。当然逃げられないように契約はさせるけどね。直筆のサインに家紋の印、これがバレれば今まで頑張って築き上げた努力も水の泡、仲間も帰ってこないとなれば頑張るしかないわよね?


 そして彼は怒りに震える手で名前を契約書に書き記し、印まで押し切ってしまう。


 あーあ、終わっちゃったわね。ご愁傷様。これからは私のためにキリキリ金を稼いでもらおうかしら。ま、こんなの守るわけないけどね。の契約書は私が持っている。


 2年が経ったらクロードを告発して何もかもを終わらせる。まあ多少の根回しはいるでしょうけど2年もあれば十分よ。


 働くだけ働いて、得られる物は何もなし。いや、やめましょう。メイド2人は返してあげましょう。


 使いつぶしてボロ雑巾みたいになったら彼にもお似合いでしょうしね?


 これからが本当に楽しみね。




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