25話 魔性

「つーわけで皆を集めたんだが、ミシェラは欠席な。ウチの領の魔物を討伐するのに忙しい。」


 ぐるっと顔を見回す。こうしてみるとウチの家って美形ぞろいだな。なんだか俺の悪人顔が浮いちまう。


「で、どうするのクロード。そのロクサーナとかいう女一筋縄ではいかないようですけど。」


「まあ焦んなよローズ、それなりに計画プランはあるんだ。とはいえこっちに来てない以上情報はまだ掴めてない。分かってるのは1週間後、ヴィゼル村のはずれ、その大屋敷を買い取って越してくるってことだけだ。」


 ヴィゼル村はウチの領の端っこあたりに位置する小さな村だ。とはいえ王国の中ではやや中央であり流通は多い。


 分かりやすく言うと王国の左側に俺の領地があってその右側に村ある感じ。


 物資の運搬もそこまで困ることはない立地としてはまあまあの位置に着いたと言えよう。


「すっごい美人なんでしょー?ボクあってみたいなあ。」


 お前は女だろバーバラ、俺が言うならともかく…ソッチもいける口なのか?


「あー…どのみち潜入する奴はいるだろうが…今回は俺が潜入、っつーか直接会ってみようと思うんだよな。」


 普通に考えて俺が何かに偽って騙しに行くのはリスキーすぎるしな。いくら俺の顔が割れていないとはいえ。


「あら、それでしたら他の誰かが騙しに行く、という事かしら。」


「んー、まあ、そうなる、のか?」


「歯切れが悪いわね。」


「一応考えてる計画はあるんだけどよー、準備がだるくてやるか迷ってんだよな。」


「私共でしたらいくらでもお使いくださいクロード様。」


「嬉しい事言ってくれるねえノルド。じゃあやってみるか!一番大がかりな仕掛けになるな。」


「もったいぶらずに早く教えなさい。でないと…」


「ああー!わかったからその手を止めてくれ。こわいんだよ。」


 ナイフが顔の横を通り抜ける感覚に慣れるなんて日は来ないだろうな。いつもびくびくさせられる。


「じゃあ今回の計画は――――――」


 というわけで計画を皆に説明する。ちょっと初めての試みだから上手くいくかはわかんねえけど。


「――――――ってのが今考えている計画プランだ。実際にそうなるかどうかはわかんねーからアドリブがいるがな。」


「すごいねー!できるの?クロード様。」


「わかんねえけど…多分大丈夫だろ。失敗したらそん時はそん時だ。が最初に潜入、というか接触するのはこういう理由もある。」


「成程ね。なかなか面白いわね。でも私の役目が薄いわね。」


「そうか?。」


 今回の俺の立ち位置って特殊なんだよな。今までにない感じだし。


「確かにね。」


「つかそんなことより怖いのはロクサーナの異名、別名、つまり彼女がどうやって引き抜きを行っているかどうかなんだよな。」


「魔性、だったよね。」


「なぜそう呼ばれるのかまではわかりませんでしたが。」


「別にリンネが気負うことはねえよ。なんなら異名が分かってるだけアドバンテージがある。」


 魔性、単純に考えれば彼女がそれだけ魅力的だってことなんだろうがそれだけで引き抜きを成功させてるとも思えないんだよな。


「正直催眠みたいなことされたらこっちはお手上げなんだよな、手の打ちようがねえ。」


「さすがにそれは無いでしょう。でなければこっちに追放なんて事にはならないわよ。」


「確かに、ローズの言う通りだな万能な能力を持ってないことを祈るか。」


 眼に何かあるらしいが目と目が合ったら即催眠、なんてされたらゲームオーバーだな。


「ああ、それと一緒に…二人かな、リンネとローズでいい。一緒にロクサーナと面会してくれ。計画プラン的にも必要だし、そば仕えなしで会いに行ったら逆に怪しまれる。」


「りょうかーい!」


「了解しました、クロード様。」


 元気のいい返事と落ち着き払った返事、返事一つで性格が出るというのも中々面白いな。


「よし!じゃあ行動はじめっか!引っ越してくるまで1週間だ、キビキビやんぞー!」


 パン、と手を叩いて全員行動を開始する。


 書類仕事に演技の仕込み、その他諸々やる事はいっぱいだ。1週間で終わるかねえ。


 立ち上がって広間から出る俺の胸には期待と不安が入り混じっていた。






 それから一週間、件の婦人ロクサーナは情報通りにヴィゼル村のはずれに越してきた。


「よーしなんとか準備も間に合ったな。一時はどうなるかと思ったがよ。」


 ギリギリ間に合った、と言って差し支えないだろう。作戦は実行できそうだ。


「もう約束は取り付けているんでしょうね。」


「ああ、手紙を送ってある。じきに返事が来るさ。」


 そんな会話があって翌日、ロクサーナ夫人から早速のお返事。内容は分かりやすく会いに行きたいという俺の手紙に対するオーケーの答え。


 越したばかりで十分にもてなせないが歓迎する、とのこと。


「いや良かったよ。会いたくないとか言われたらそれで計画終了だからな。」


「それは無いんじゃないの?」


「まあ無いとは思ってたががあるからな。とりあえずは一安心だ。」


 向こうも向こうで思惑はあるだろうが…上手くやるさ。きっとな。




 そして約束の日、3人で馬車に揺られていた。


「大丈夫?クロード様。」


「…ああ、悪い。ちょっと緊張してたんだ。」


「しっかりしてよねー。もうすぐ着くんだから。」


「わかってるよ。」


 しかし魔性の女ね、いったいどれほどの美人なのか、さすがに興味があるな。


 ガタンガタンとゆらゆら揺れた馬車の旅も終わりを告げて、たどり着いたのは現ロクサーナ邸。


 以前は別の貴族が住んでいたが没落したらしい。そのあたりの事はよくわからん。


 馬車から降りると彼女の使用人であろう数人と共に屋敷の中から魔性が出てくる。


 噂に違わぬ美貌、30歳らしいが年上の魅力、とでもいうべきか。しかし何よりも目立つのはその二つのそれ。


「ようこそおいでくださいました、クロード・ランスソード様。私こちらに棲むことになりましたロクサーナ・ブラッドアイです。どうぞよろしく。」


 恭しく一礼をする彼女の目はブラッドアイの名に違わぬ、


 引き込まれそうなあかだった。


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