第四章 隣の魔性、ロクサーナ

24話 親愛なるお隣さん

「~♪」


 広間にバーバラの鼻歌が響く。


「どうしたバーバラ。えらくご機嫌だな。」


「そりゃそうだよ!見て!コレ。いいでしょ~。」


 そういって俺に見せてくるのはイヤリング。デザインの凝った高そうな代物だ。


「この前のマクベルのお金を皆に分けてくれたでしょ?それで買ったんだ~。」


 成程ご機嫌の理由はこれらしい。


「意外と隠し持ってたからなあ、みんなで山分けしても結構な額になったしな。」


 大体ターゲットから奪った財産はほとんどを領地経営に使うが残りはみんなで山分けするのが普通だ。こんなボーナスがあるおかげでウチで働くやつに辞めたがる奴はいない。


「バーバラはいっつもアクセサリーとかだよな。リンネは…おちょうどいい。おーい!」


 丁度通りかかったリンネを呼びつける。


「リンネっていっつもボーナス何に使ってんの?」


「…秘密です。」


「んなこと言うなよ殺生な、俺とお前の仲だろ?」


「秘密です。」


 有無を言わさぬこの雰囲気、これ以上聞くと危ないな。何が飛んでくるかわからん。


「それよりも、です。クロード様。少し気になる情報が。」


「お、なんだ?まーた新しい鴨でも見つかったか?」


「まあ、そんなところかと。」


 おやおやタノシイことは尽きないね。コレだから人生はたまんねえ。


「実は先日頂いた休暇の折、隣国の旧知の友と逢っていたのですが…。」


 いつも思うけどリンネの交友関係って広すぎないか?ギルド関係者しかり、なんか手広いよな。


「面白い情報が聞けまして、どうにもこっちの王国に越してくる貴族がいる様なのです。」


「貴族が?珍しいな。」


 大体貴族は属する国から離れることはない。そして離れる時というのは大抵…


「まあ、簡単に言えば追放されてくるようです。」


「だろうな。」


 追い出される場合が殆どだ。亡命とかまあいろいろあるけど今回はなんでこっちに来るのやら。


「どうにも自分の勢力を強めるためにありとあらゆる陣営から引き抜き、勧誘を行っては荒らしまわっていたようで。」


 スカウト、ヘッドハンティング、言い方は色々あるが恨みを買うことは間違いねえな。


「なーるほどねえ、そんでいよいよ我慢の限界が来たってとこか?」


「隣国の王も扱いに困った果てが追放という選択だそうです。」


「結果だけ見ると失敗しているようにみえるがなあ。」


 勢力を伸ばすために勧誘してたのにやり過ぎて国外追放って本末転倒なかんじだな。


「で、今回、王国ウチに来ると。」


「ということです。まあ王が爵位や貴族の階級を与えるかどうかはわかりませんがそもそも一大勢力です。資産家としての力だけでも見過ごすには危険かと。」


「オーケー、オーケー。狙っていこう。悪人かどうかはわからんが…まあなんかやってんだろ。じゃねえと国外追放とまではいかねえはずだもんな。」


 引き抜きだけで国外追放はさすがに難しそうだしな。なんか細かな悪事も積んでんだろうよ。


「貴族の名前はロクサーナ・ブラッドアイ。年は30の婦人ですね。」


「ん?女性なのか、てっきりジジイみたいなのを想像してたよ。」


「ええ、それもかなりの美貌です。ただ夫をとったことはないようで。噂では彼女をめぐって殺し合いすら起きたこともあるとか。」


 まさに傾国ってか。是非あってみたいもんだがね。


「そりゃあ…怖いな。」


「あまり情報はありませんが、別名魔性のロクサーナ。加えて特別な眼を持っているというのが囁かれている噂です。」


 特別な眼、ねえ。大方何らかの魔法を使えるのか或いは何かを見抜くのか、ってとこか?


「うーんこっちに越してくる前に色々と準備してえな、なんか考えてみるかねえ。」


 手を打てるだけ打った上で接触したい所だ。無策で騙せるほど甘い相手じゃあないだろうしよ。


「情報ありがとな。ローズやミシェラ達にも話しとくよ。こっちに越してきて情報取れたら作戦会議だな。」


 どれ程の金を持っているかなんてわからんが間違いなくしゃぶりがいのある相手だろう。楽しみだ。


「それでは私はこれで。」


「あいよー。」


 あ、結局リンネのボーナスの使い道聞きそびれちまった。まあいつでも聞けるし別にいいか。


「そういえばクロード様はお金何に使うの?」


 バーバラが尋ねてくる。


「ん?俺か?そうだなあ…。」


 正直お洒落とかあんまり興味ないしな。いや勿論領主として恥じないような外見にはしているが個人的な趣味でどうこうってわけじゃないんだよな。


「なんか別荘みたいな場所買いたいな。こう屋敷の皆で遊びに行けるように。」


 俺の領地だから好きに買おうと思えば買えるだろうしな。


「いいじゃーん!ボクも連れてってよね!」


「当り前だろうが、皆連れてくよ。」


 良い立地の屋敷を探しておくかね。


「失礼しますねお兄様。」


「おお、ミシェラか。どうした?」


 ミシェラが広間に入ってくる。最近は冒険者ギルドも辞めちゃって暇してるんだろうか。


「実は…」


 話の内容は大したことではなく嘆願書の中から魔物討伐の物をいくつか見繕って叶えに行く、というものだった。


 いつも思うがミシェラが強いとはいえ領主さまの嘆願書に魔物討伐とか頼むもんなのだろうか。ギルドに頼め、ギルドに。


「うん、大丈夫。家をちょっと空けるってことだろ?お前に逢えないのは寂しいけどそれ以外に問題はないよ。」


 王家が開催するパーティとかになら参加が必須になるので問題だが、そういった催しも特にない。


「そうですか、では早速出立の準備をしますので。」


 どこか上機嫌なミシェラは部屋を出ていく。


「しかし今回もミシェラは不参加かなあ。仕方ねえけどよ。」


 この前の働きぶりから考えると結構、いてほしい人材になっているんだが…無理強いしてもな。第一、性格を考えると不参加の方がいいのか。


 となると今回の作戦はとりあえず俺、ローズ、リンネ、バーバラ、ノルド、アクセルの6人か。


 全員が全員騙しに行くかはわからんが下調べと含めると…まあいい。こういうのは後回しだ。とりあえずは引っ越しまでの準備だ。


「っしゃあ!気合入れていくか!」


 行動開始、ロクサーナとかいう隣の貴族様には悪いがこっちに来て早々、痛い目に遭ってもらおう。


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