23話 ワイン
「かんぱーい!!!!」
カランとグラスの重なる音が響く。今日は祝勝会、羽目を外すのがマナーってもんだ。
「よっしゃああ!!飲むぞ!食べるぞ!無礼講じゃあーい!!!!!」
「ふふ、お兄様ときたらお酒が入るとすぐこれなんですから。」
「騒々しいったらありゃしないわね。」
「騒がしいのは嫌いじゃないくせにー。」
「ぶち殺すわよクロード。」
ぶち殺すって…最近言葉遣いが荒くなっている気がするんだよな。俺の悪い影響が出てるかもしらんな。
「うーんおいしい!クラウディの料理っていつも思うけどすごいよねー。」
「おいなんだバーバラその肉!俺も食いてえよそれ!」
「ダメですー。ほしかったらクラウディに頼んできたら?残ってるか知らないけど。」
「マジかよ!今すぐいかねば!」
肉が俺を待っている!いそいで厨房に駆け込んでクラウディからなんちゃらドラゴン(よくわからん)の凄い高そうな肉をもらってパーティに戻る。
「すごいウマいなコレ。」
こっちの世界に産まれてよかったこととはいくつかあるが魔物の飯がウマいってのがでかい。よくわからんけど竜とかの肉ってどいつもこいつも味がいい。なんでだろうな?
「それじゃあさあ?早く教えてよクロード様、今回の作戦内容。」
「お、んじゃあいつものやりますか!」
恒例の作戦内容報告。まあ終わるまでは最低限の人間に内容は留めておかないとどこでバレるかわかんねーしな。大体祝勝会でやるのがお決まりだな?
「つってもそんなに俺は今回頑張ってねーんだよな。ミシェラとローズの演技力がモノをいう作戦だった。」
俺は屋敷でお留守番してただけだしな。
「本当に苦痛だったわクロード次はもっとましな役を用意しなさい。」
次もやってくれるのね…てっきりもう二度とやらないとか言いそうだったが。
「なあアクセルどうだったんだ?ローズの演技は。」
そう今回は二人に加えてアクセル・ブライト君にも一肌脱いでもらったんだよな。
「それは…。」
「分かってるわよね、アクセル。」
「…普通でした。」
「絶対普通じゃなかったんだろ!明らかに口止めしてんじゃねーよ!怖がってんだろーが!」
「…普通でした。」
「これしか言えなくなっちゃってるじゃん!どんな教育したんだよ!」
「煩いわね、少し黙って頂戴。」
一体何されたんだアクセル。何を言われたらそんなbotみたいな発言を繰り返すマシンになるんだ。
「まあいいや、ちょっと話が逸れたな。今回の作戦ってのは別に大したことじゃない。マクベルの危機感を煽って、そして仮初の裏切りで油断させて、ソレでお仕舞い。そんだけだ。」
「色々端折り過ぎだよクロード様、ボクにもわかるように教えてよ。」
「あー悪かった。まずミシェラがギルドで名を上げる。時間は多少かかってもいいからな。」
「結構楽しかったですよお兄様。」
そりゃあ良かった。こういう事やらせたのは初めてだが中々うまくやったもんだ。
「そんで同時にローズにも潜入してもらって少々仕事ができる受付嬢ぐらいになってもらおうと思ったんだが…お前は上手くやり過ぎだな。だれが秘書にまでなれって言ったよ。」
「でもそっちの方が楽だったでしょう?」
「いやそーなんだけどよ…。」
仕事が出来過ぎる、頭が切れる、意志をくみ取れ過ぎるのも考えもんだな。
「んで頃合いを見てまずはローズがマクベルに嘘の噂を流す。」
「それがアレだよね?あのーえっと…。アレ!」
「アレって…まそうだな。ローズが高ランク冒険者の不満のもとであり、かつ俺の指示によってギルドに潜入したスパイのような存在だってことを認知させる。」
イマイチ要領を得ないバーバラの答えに俺が補足する。でもこういうところがバーバラの良さだよな。素直というかなんというか。
「しかしそのようなことに何の意味があるのでしょう。」
珍しくリンネが聞いてくる。あんまり俺が喋ってると口を出さないよう控えめに立ち回る癖がある。俺としてはこう、もっと話しかけてくれてもいいんだが。
「重要なのはここ短期間でマクベルの周りに人が増え過ぎた、近づきすぎたことだ。まあ俺の失敗なんだがよ。商人のリンネに冒険者のノルド、これは失敗に終わったがコイツに加えて俺の妹のミシェラ?怪しいにもほどがあるってもんさ。」
「成程。」
「実際ミシェラについてはかなり警戒してたと思うぜ?だっていきなりギルドに来るんだ、アイツの心労は相当だったろうな。」
また騙しに来たのか?それとも些細な悪事がバレたのか?どちらもあり得るがゆえに気が気じゃなかっただろうよ。
「そこで、だ。いっそスパイだとバラしてやる。しかも作戦内容を伝えるおまけ付きでな。さらに優秀な秘書様が自分の方についてくれるというんだ、こんなにいいチャンスはない。間違いなく手を伸ばすさ。」
「おおー頭いいんだねクロード様って。」
「そりゃあそうだろ?なんてったって優秀な領主さまだからな。」
ハハッ笑える。つかいままでバーバラは俺の事頭いいと思ってくれてなかったのか?ちょっとショックなんだけど。
「そして裏切りを演出するのに役立ったのがローズの演技とアクセル君です。拍手―!!」
パチパチパチと部屋の皆から拍手がなる。アクセルはどこか所在なさげだ、こういうことに慣れていないのかもな。ローズは当然みたいな顔してるけど。
「アクセルは何やったの?」
「簡単に言うと暗殺者のフリだな。悪-い奴の演技を仕込むのに難儀したぜホント。」
やっぱり根っからの正義感が邪魔をして悪い奴感出なかったんだよな。本人も「なんでこんなことを…。」とか言ってたけどウチに勤めるってのはこういうことだよアクセル君。
結局最後はノリノリだったし案外悪い気はしなかったんじゃなかろうか?
「んでもってミシェラを暗殺する契約をさせる。この時点では私財は奪わないしどちらかというとローズの今後に重きを置いたような内容を書いてあるからそんなに疑いはしない。最悪血濡れの証拠だけでもどうにかなるしな。」
そう契約書を書くのを渋ろうが血まみれのブローチを何故かマクベルが持っていればミシェラが強引に俺の屋敷に引っ張る事も出来たろう。あとは尋問して暗殺を企てたことを聞き出せばいい。
現実はもっと簡単だったがな。
「んで、暗殺は成功したと思い込んでるマクベル君にミシェラが登場、契約書を見つければ彼の悪事はこれにてお仕舞いってね。ざっとこんな感じだ、わかったか?」
「なるほどねー、悪趣味だよねクロード様って。」
「酷えなあ、おい。みーんな陰に隠れてマクベルのこと見てたくせに。」
人の苦悩する様子なんてそう見れない。これはラッセルの時も言ったか?ローズなんてわざわざちょっとアイツに見つかるようにしてたからな。俺よりよっぽど趣味悪いだろ。
「はい!説明おーしまい!食べるぞ!」
そして宴は再開する。こーんなシケた話より飯と酒に気をやれよな。何十人で行われているこのパーティは結構規模がでかい。
というのもこのランスソード家雇っているメイドやら使用人やらが他の貴族よりも格段に多いからな。来客等の表のメイドたちと騙しやら偽装を行う裏のメイドたちで単純に人手が足りないんだよな。
「あ!つか思い出した!ローズ!なんで俺が大事にとっておいた50年物のワインをマクベルにあげちゃったんだよ!絶対必要なかったろ!」
「はあ、前も言ったでしょう?マクベルの信用稼ぎに必要だったって。」
「今日のために楽しみにとっておいたのに~!」
「貴方ワインならたくさん抱えているでしょう。一本くらい変わらないわよ。」
「結構レアなやつなの!…まああんまり引きずってもな。」
そうローズの裏切り、それは俺のワインを黙ってマクベルにプレゼントしたこと。ちょっと前に俺が怒ってたのはそれな?
「
「どこ見て喋ってんだよ。」
一体誰に向けて言ってんだか。あんまり4次元の壁超えるの良くないんだぜ?このお話は好き放題やってるがね。
と、いうわけでここらで一旦幕引きを。どうだったかな?権力を手にしたとたんに人が変わってしまうってのは良くある話だよな。
今回のマクベルもその一例。ともあれ悪は裁かれるってね。本当に救えない悪は俺だけど。
そんじゃあ3章はこの辺で、4章はどんな奴を騙すんだろうな?
ヒントは隣国、そして敗北。それでは皆様、ごきげんよう。
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