22話 訪問、慟哭

 sideマクベル

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 翌日、二日酔いの頭痛に悩まされながら今日の雑務をこなす。


「おい、ここはどうなっているんだ!」


「す、すみません。すぐに手直ししますので!」


 チッ、使えん。ローゼの代わりに今まで使っていた秘書を代役にしたが…こうも違うとはな。やはりあの女が異常だったというべきか。


「そういえば、今日は何か予定は入っていたか?」


「いえ、今日はなにも無かったかと…では、失礼します…。」


 そういうと代役の男は部屋を出ていく。


 ったく…。ただ…なんだろうか、今日は嫌に胸騒ぎがする。第六感、とでもいえばいいのか。


 ナニカを見落としている。そんな感覚、俺にとって都合のいいことが起きすぎているような。そんな気分。


 とんとん拍子で事が進んで、それに疑いを持たなかった自分。何が、何がおかしい?


 理解できないナニカに怯えていると、コンコンと部屋をノックする音。


 心臓が脈打つ、誰だ。何が来ている。


「さっき出たばかりですいません。ちょっとお話したいことが。」


 聞きなれた代役の男の声。杞憂だったか。


 そうだ、一体何に怯えるというのか。俺が選ばれているからこその現在だ、むしろ勝ち誇り堂々とするのが筋なのだ。


 ガチャリと部屋に入ってきた男が一礼して顔を上げる。


「先ほどマクベルさんに面会したいと申している者がいまして。」


「誰だ?」







「ミシェラ・ランスソード様です。」








 は?








「お通ししますか…ってちょっとミシェラさん!」


 男の制止を振り切ってズカズカと部屋に入ってくる。


 はそこにいた。


「な、なん…なんで…?」


「どうなさいました?。」


 あ、あり得ない!明らかに死んだはずだ!そう、ブローチ!!あの時確かに受け取ったんだ!


 そして目を見開いてみた彼女の胸元には


 


「なっ…‼」


「先ほどからどうしたのです??」


「はあっ…、はあっ…。い、いや失礼した。少々取り乱してしまったね。」


「でしたら良いのですが。」


 大丈夫、大丈夫。まだ大丈夫だ。まだバレてない。この女が生きている。その事実は確かに不味いがまだ大丈夫だ。


 大方暗殺に失敗してローゼがその場しのぎで誤魔化したのだ。そうに決まってる!


 大体、バレる可能性などないのだ。アルコーンでの襲撃と私に関連性がない。


 ただ、依頼クエストの完了を報告に来た。それだけのはずだ。


「で、ではミシェラ嬢こちらにおかけください。」


「ええ、失礼しますね。」


 こちらの動揺に気づいてはいるがアクションはない。責め立てる様子がないことからもバレてないはずだ。


「それで、どうでした、依頼クエストの方は。」


「特に問題ありません、きっちり完了しましたよ。」


 このタヌキ女が!お前の兄クロードがでっちあげた依頼クエストなのはローゼから聞いてんだよ!


「ただ…」


「ただ?」




「ちょっと興味深い話を聞いたんです。」




「ほう?」


 なんだ、新たなクロードの策か何かか?


「マクベルさん、何か隠していること。ありませんか?」


「はは、不当な取引の事でしたら前にも―」


「いえ、それではなく。」


 真白の女はすっと立ち上がる。立ち上がってフラフラと歩いたかと思えば話の続きをしゃべり始める。


「マクベルさんは大事なものを持ってるんじゃないですか?」




「大事な…。物。」




 歩きついた終着点は。




「例えばそうこの机の―」




「だっ駄目だ‼」




「二番目の引き出し―」




 駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目だ、駄目なんだッ‼




「底を外せば、この通り。」



 俺のサインが書かれた暗殺計画に血濡れのブローチ。それだけで俺の人生の終わりを告げるには容易かった。



「やっぱり、。」




 朗らかに笑う彼女はとても清廉潔白な白ではなく。薄汚れた灰にしか見えなかった。





 side クロード

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「しかし…。ミシェラから話を聞いてみれば成程これは…。許されませんね?マクベルさん。」


 顔面蒼白で項垂れているマクベルは今、ミシェラに連行されて俺の屋敷に縛られた状態で座らされていた。


「ふんふん、成程?ローゼという女と共謀してミシェラを殺す、つまりは暗殺する予定だった。しかもこの紙には貴方の直筆のサインまである。言い逃れは…、難しいねえ。」


「ち、違うんだ!俺は騙されたんだ!じゃないと、じゃないとこんなことには!」


 騙された、ね。一体誰に騙されたんだろうねえ?


「ふーん、騙されたら俺の妹を殺してもいい。そういいたいのか?」


「ヒイッ…!」


 あらあら怯えちゃって。でもまあ確かにこのままだとマクベルは死ぬしかないもんな?


「ま、待ってくれ!そうだ!ローゼ!あの女を出してくれ!アイツも俺と一緒にミシェラ様を…。」


「ああ、そういえばこの紙にも書いてあるが…。?」


「…は?」


「そんな女ウチにはいないんだがねえ。」


 一体誰なんだろうなローゼってさ。


「馬鹿な!俺はこの女から領主様が俺を嵌めようとしてる計画を聞いたんだ!あんたの家にいないわけが…。」


「いないって言ってんだろ。何度も言わすなよ。」


 見苦しいことこの上ない。本当にね。


「それはそうとを衛兵、或いは騎士団にでも見せればお前は間違いなく死刑になるだろうな。」


「ど、どうか勘弁を!死ぬのだけは!」


「そうだよなあ?死にたくないよなあ?だ、か、ら。契約をしよう。」


 俺は一枚の紙を取り出す。


「こ、これは…。」


 そこに書いてあるのは簡単なこと。全財産を俺に明け渡したうえでギルド長の座を退く、ただそれだけ。


「こんなの…、どうやって生きていけば!」


「どうやって生きる?いい冗句だな。代わりにをバラさずにおいてやるんだぜ?死なずに済むんだ。どうやったって生きていけるだろ?」


「ぐうっ!ぐぐぐううううう…。」


 苦痛に歪んだ顔。これが見たくてやってんだよ。


「わかった!だから…だからその紙は…。」


「ああ、俺は約束は守る男だよ、マクベル。」


 サラサラと彼は名前を書いていく。契約成立、だな。


「よし、じゃあコイツは預かっておくよ。今日は帰れ、後日ウチの奴に私財を取りに行かせる。」




「ああ、失礼させて、も、ら…。」




 マクベルの動きが止まる。まるで信じられないものを見たかのように。




 成程ね、ローズもだな。




「ク、クロード様!アイツだ!アイツ!アイツが俺と一緒に暗殺を!」




「うーん?」




 俺はゆっくりと指さす方を見ると当然そこにはローズの姿が。




「見えないなあ?君の言うローゼなんて女はどこにいるのかな?」




「な!なにいって…いや、まさか。全部か⁉全部なのか⁉裏切りすらも何もかもが!全てがお前の計画だっていうのか⁉」




「計画?なにいってんのかわかんねえや。」



「こっ、この嘘つきがああああああああ!!!!!!!!!!」



 ランスソードの屋敷に哀れな男の慟哭が響きわたった。


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