20話 裏切り
side マクベル
ここ最近の俺ときたら人生の絶頂と言って差し支えなかった。長年トップの座についていたクソジジイが隠居してからというもの耐えに耐えた生活がようやく報われたというものだ。
「よお、ローゼ今日もしけた面してんなあ、おい。」
「私はもとよりこういう顔ですので。」
最近雇った受付嬢がいやにできるという話だったので少し俺の雑務をやらせてみたらこれが使えること使えること。
最近ときたらもうコイツに秘書をやらせておけば俺は大した仕事をせずとも済むぐらいだ。実にいい拾いものだった。
今日も今日とて手を伸ばすが、
「あら、ダメですよ、ギルド長。まだ、その時じゃありませんから。」
と、このようにローゼに触れようとしてもどこに目がついてるのかするりと抜けて届かない。
「ふん、可愛げのない女だ。」
聞けば年は13の
「今日は何か予定はあったか?」
「今日はあのミシェラに緊急の依頼をするとのことで昼頃からお呼びしていますが。」
「ああ、そうだったそうだった。上手くやらないとな?」
ニヤリと笑う俺に返すようにローゼも笑う。
そして少し経った後、予定通りあのミシェラ嬢がきた。
「どうも久しぶりですねマクベルさん。」
「いやーどうもご無沙汰してますな。今日も又折り入って話がありまして、まあどうぞ座ってください。」
そういってソファーに座りテーブルを挟んで対面する。
「あら?そちらの女性は?」
「こちらはローゼ、最近私の秘書をやらせてましてな。中々仕事ができるもんですから。」
俺の紹介にローゼが一礼して答える。まあ適当な自己紹介だった。
「それはそうと今日はミシェラ嬢に依頼がありましてね。これが今日お呼びした理由なんですが。」
そういいながら俺は羊皮紙を一枚取り出す。
「ふむ、アルコーンですか。」
「ええ、ここからは距離がありますがどうにも貴女の名声は既に轟いているようでしてね、そこまで難しい内容ではないのですが一応指名されてますので受けるかどうかの確認を、と。」
「問題ありません、依頼に大小はありませんから、受けましょう。」
「それは良かった。一応規則ですのでこんな仰々しく呼びつけましたが実際はこれだけですので。お時間を取らせましたな。」
「いえ、お気になさらないでください。では出立の準備をしますので。」
そういうと彼女は部屋から出ていく。
部屋の中から緊張が解ける。
「ふう、これでいいな?ローゼ。」
「ええ、上手くやりましたねギルド長。」
ローゼに言われるがままにやらされた演技だったが、難しいこともない。
「ハッ、しかしまさか本当にこんな計画をやる事になろうとはな。貴族様のやり口ってのは恐ろしいもんだな。」
「ふふ、騙される
俺がこのローゼからある話を、計画を聞かされたのは数日前の事だった。
―数日前―
「ギルド長、すこしお話が。」
「どうした、ローゼ何か問題でもあったか。」
コイツから話しかけてくるなんて珍しい。大体余程の用がなければ俺に話しかけてくることは無いのだが。
「実は最近頭角を現しているミシェラという女について、ある情報を掴みまして。」
「情報?なんだ。」
「実はあの女の兄であり領主、クロードの思惑があってウチに契約を結んだのではないか、と。」
「なるほど、噂の優秀な領主様ね、俺はいけ好かないが…俺のやり口がバレたか?」
ちょっとした自由ですら領主様は許してくれねえってことか?
「いえ、まだ証拠は掴んでいないようですがウラを取るために妹を送り込んだようで。」
「なるほどあの女が妙に嗅ぎまわってるのはそう言う事か。面倒だな。」
「それとミシェラが高難易度依頼を一人で片づけていくものですから他の冒険者、特に一線級の彼らがやや不満を持っているようです。」
「碌なことをしないなあの女は。」
低級、新米の冒険者が俺に何を言ってこようがどうでもいいがランクの高い冒険者にストライキでも起こされたらひとたまりもない。
「それに時間が経てばそのうち貴方の悪事の証拠をつかんで兄に報告するでしょう。立場も財も奪われるのが目に見えています。」
「チッ、どうする…いまさら冒険者をやめてくれなんて言い出せんぞ。」
「そこで、です。ギルド長。」
とたんローゼの纏う雰囲気が変わる。
「実はいい計画があるのです。聞きますか?」
「…言ってみろ。」
「そもそもおかしいと思いませんか?いきなり仕事のできる秘書がミシェラと同時期にここに来たこと。」
「っ!まさか貴様も!」
違和感はあったんだ、何かこう上手くいきすぎているような。
「ご想像に任せますがここで貴方にこれを打ち明けたことよく考えてくださいね?私は貴方の味方よ?マクベル。」
耳元でささやいてくるこの女の真意が未だに見えてこなかった。
「あの家も一枚岩じゃないってこと、私にもやる事がある。だから…今回のクロードの計画の一部を教えてあげる。」
「何故…なぜ私の味方をする気になった。」
それだけが分からなかった。
「そんなの単純、ツマラナイのよあの家。それと比べてこちらはとても…刺激的。」
まとわりつくような女の声が私を惑わせる。
「それで、どう?やってみる。」
「…ああ、好きにしろ。どうせ俺にはミシェラ嬢を何とかする策は浮かんでこない。」
「そ。じゃあ入ってきて。」
パチン、とローゼが指を鳴らすと俺の部屋の中にボロボロの外套を纏った明らかに表側ではない裏側に棲む人間が彼女のそばに立つ。
「これが私の…駒。最後の私だけの駒。」
そういうとボロを身に着けたナニカは彼女に傅く。上下関係は明らかだった。
「クロードの計画ではここから離れた街、アルコーンがあるでしょう?」
「ああ、知っている。」
特に何もない小さな街だ。
「そこで彼女に指名の依頼があるとでっちあげる。」
「…成程、彼女が此処を長く離れることが重要なのか。」
「よくわかったわね。そう、貴方の気が緩んだところを狙って悪事のウラを取る。そうして証拠を突き付けて貴方を失脚させるのが彼の計画。」
やれやれと言わんばかりにローゼは首を振る。
「それで、どうするのだ。まさかここまで来て証拠を取られないように気をつけろ、だけだなんてことは無いんだろ。」
「当たり前よ。何言ってるの。」
いつもの秘書の時の振る舞いとは一変している。これがコイツの本性なのだろうか。
「結局のところ、ギルドにおいてあの女がいるというのは冒険者の不満という面でも厄介、クロードだっていつかは証拠をとるでしょう。だから…」
一呼吸、そして彼女は告げる。
「
悪魔は俺に微笑んだ。
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