19話 三者の目

 side ローズ

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 あれから数日、ギルドの受付嬢になるのに必要な魔物の知識、及び冒険者の契約等々、私は頭に叩き込んで今ギルドの受付嬢としてここに居る。


「おはよーちゃん。」


 明るく挨拶をくれるのはリリーという受付嬢の一人、年は私よりやや上といった所か。


「ええ、おはようございます。リリーさん。」


「今日もクールだねえローゼちゃんは。」


 私がクールかどうかはさておき愛想を振りまくというのはいくら演技でもやりたくなかった。特に冒険者などと言う頭の弱そうな人たちに媚びを売るなど…。


「今日もご指導、よろしくお願いしますね。」


「うんうん、指導係の私がしっかり教えてあげよう、といいたいんだけど正直覚えが早すぎてもう教えること殆どないんだよねー。」


「リリーさんの教え方が上手いからですわ。」


「うーんそう言ってくれるのは嬉しいけどホントにミスしないからねえローゼちゃん。普通、新人の子はミスばかりするものなんだけど…。」


 普通を装うのであれば私は不適任でしょうが今回は優秀な人材でなければならない。ギルドの長マクベルに近づくのは早いほどいいでしょうし。


「はあ最悪、ローゼちゃん。入ったばかりでこんなこと見せたくなかったけど…。」


 リリーさんが私の手を引いた先にはギルド長と事務員。ただ目を引くのはギルド長が事務員の尻を触っているという点。


「ね、こういうこと。あまり近づかない方がいいよ。」


「成程、わかりました。」


 実際にセクハラを堂々行う馬鹿がいるなどあまり考えたこともなかったが猿の中にも本当に知能の足りない愚か者がいるというのはある種の発見だろうか。


 しかし彼女の忠告とは裏腹に私はあの男の側近ぐらいにはならなくてはならない。


「はあ…面倒ですわね。」


 誰にも聞こえないように発した独り言はギルドの片隅に消えた。




 side ミシェラ

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 私が初めて参加した作戦会議から2週間、今はギルドの一室で例の男と対談していた。


「お時間を取らせて申し訳ないミシェラ嬢。」


「お気になさらないでくださいマクベルさん。私も一度話してみたいと思っていたのです。」


「それはありがたいお言葉です。しかしまさかミシェラ嬢が冒険者としてウチで契約していただけるとは。」


「あくまでランスソード家の令嬢という立場を優先して、という条件付きではありますが。」


「とんでもない。貴女の武勇は既に領内に轟いている現状、ウチに来たとなれば高難易度の依頼や注目、全てがいい方に傾いてましてな。」


 私はただ兄さまの役に立てればとランスソード領に蔓延る悪人から魔物を問わずだけの事ですが。


「それで、話というのはなんでしょうマクベルさん。」


「おっと失礼、話が逸れてしまいましたな。というのも貴女にも高難易度依頼の受注権限を解放しようと思いましてな。いえ、もとより貴女の実力は知っておりますが何分規則ですから。」


 そう、私は最初から難易度の高い依頼をこなして名声を上げようと思っていたものの規則として冒険者として登録してからある程度は権限を与えられないらしいのだ。


 というわけでここ最近は簡単な依頼をこなす日々を送っていた、といっても人助けに大きいも小さいもないので全力でこなしたけど。


 ただ兄さまは私に名声を集めて何をする気なんだろう。


「それは良かった。救える人が増えるのは嬉しい事です。」


「流石はあのクロード様の妹君、兄妹揃ってランスソードの希望と評されるわけですな。」


「名に恥じぬ働きをするまでですよ。それと…。最近他の冒険者の方から聞いたのですが、一部の方に不当な価格で魔物の素材を買い取っているという噂が流れているのですが…。」


「申し訳ない、最近は注目を集め過ぎたのか嫉妬でそのような根も葉もないうわさを流している不届き者がいましてね。困ったものです。そんな事実は何一つ証拠もありはしないというのに。」


 実際価格の取引についての証拠はまだ出ていない、兄さまの予想だと大方、ギルドとの契約解除を盾に口封じをされているのだろうとのこと。


 弱小冒険者は領を出て別のギルドに行くのも一苦労。悪知恵とはこのことをいうのか。愚かさも極まると同情も難しくなってくる。


 ただこうなるとリンネがどうやって友人の受付嬢から話を聞きだしたのかが気になるけれど。


「…そうですか、余計なことをお聞きしました。それでは私はこの辺りで失礼しますね。」


「ええ、帰りもお気をつけて。」


 別れの挨拶を述べて部屋から立ち去る。もうこの男の顔を見たくないとそう思った。


 どれほど嘘と虚勢で隠そうがにじみ出る悪意と下心が私を包んでいる気がしたから。




 side クロード ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 作戦会議から一か月。いよいよアイツ、マクベルを騙す算段を立てようという段階に来ていた。


「さて、こうして大分経ったが…アレだな。思ってた以上に二人がすごくうまくやったからちょっとびっくりしてるんだよね、今。」


「私とミシェラの評価も正しくできていなかったのね。残念だわ。」


「いやそうは言うけどよ、たった一月でミシェラは一線級の冒険者になっちゃったしお前に至ってはマクベルの右腕の秘書になっちゃったじゃん。どういう事なんだよ。」


 普通に受付嬢でよかったんだが近すぎないか秘書って。それに右腕って何やったら一月でそこまで行くんだよ。


「マクベル君が前ギルド長の右腕になるのにどれほど苦労したか知ってるのか?もう一回羊皮紙読むか?泣けるぞ?」


「知らないわよ、それに泣きたいのは私よ。早くあの男を騙して終わらせて、あの愚かな猿の秘書だなんて吐き気がするから。」


「そうだな、愚かだから俺に骨の髄までしゃぶられるんだ。さっさとおいしくいただいてしまうとしようか。…そういえばローズ、お前セクハラは大丈夫なのか?そんなに近づいたらさすがに目を付けられそうなんだが。」


「私があの男に体を触らせると思う?」


「想像できねえ、聞くまでもなかったな。」


 さて、どう騙すかだが…大体はもう頭ん中にビジョンはある。


「ウチの領でラヴィニアから一番遠い街っつったら…アルコーンあたりか。あそこを使おう。作戦は――――」


 俺はローズに今回の作戦の内容を伝える。


「―――ってな感じでまあ最後はミシェラががどうこうで上手くやればいいだろ?」


「…まあ及第点でしょう。まだ人間として認めてあげるわ。」


「光栄なことで。それに使えそうだからってに一か月も練習させたんだぜ?いいお披露目のタイミングだろ。」


 練習したけどやっぱ要らなかったわなんて俺なら泣いちゃうね。


「うーしそんじゃあミシェラにも計画を伝えておくから今日はもう休め。働き詰めなんだろ?ローズも。」


「別に大したことはありませんが、厚意は受け取りましょう。」


 かくして俺とローズの話は終わり、明日からは計画実行だ。悲しいねえマクベル、お前の天下は1年と持たなかったようで。


 精々俺たちの肥やしになってくれ、ギルド長サマ。


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