18話 失敗、いつもの+1

「ああ、もう上手くいかねええええ‼‼‼」


 あれから一か月後。屋敷で叫ぶ俺の姿はとても滑稽に映っていることだろう。


「だから言ったでしょう、失敗する。と。」


「いやなんとなく俺も上手くいかない感じしてたけどよ、失敗するの久しぶりだからちょっと萎えるんだよなあ。」


 このクロードとしての生ではあまり不自由も失敗もしてこなかったが故に今回の些細な失敗も少し堪える者がある。


「はあ…、とは…。まさかと思うけどクロード、貴方失敗した理由が分かってないわけではないでしょうね。」


「いや、分かってる分かってる。お前の父さんと違ってアレだろ?アイツは、マクベルは目が利いたって話だろ?」


 今回マクベルを騙すにあたり、リンネにそこら辺の武器を伝説的な物語ストーリーをでっちあげさせて売りつけてみたがまあ失敗。


 偉業に対して武器の使い込みが浅いと武器の目利きをして見せたわけだ。実際、作った物語ストーリーに対してやや貧相な武器ではあったが馬鹿にはわからないレベルには仕上げてもらったんだが。


 結局ビジネスでやってたラッセルと趣味でやってるマクベルとでは力の入り方が違ったわけだ。


「まったく、好きであること、熱中していることがあると自然と目が肥えるんだろうな。計算外だった。」


「それで?次はどうするの、クロード。リンネの顔は割れたわよ。ノルドも怪しいでしょうね。」


 そう、今回の失敗でリンネは直接会うのは一発アウト、ノルドも武器の物語を作るうえで一か月冒険者をやってもらったためキツイ。


「アクセル使うのはもう確定に近いだろ?んでバーバラ?この二人で冒険者?浮かんでこねえー…。」


「貴方本気で言ってるの?だとしたら貴方の評価を人間から猿に落とさなくてはならないけれど。」


 コイツにとっての人間の基準ラインが高いと思うのは俺だけだろうか。


「…いや、言いたいことは分かる。ただ。」


「…貴方前から思ってたけど頑なにミシェラに本性を隠すのは何なの。」


「いやなんつーかよ、アイツはイイヤツなんだ、わかるか?ランスソード家こんなとこに産まれたのが間違いってぐらいの奴なの。」



 実際はアイツに俺の本性を知られたくないってだけだが。ゲームの本筋では裏切られるわけだし。


「貴方って人を見ているようで見ていないのね。呆れたわ。」


「あん?どういうことだよ。」


「あの子は貴方が思うほど真っすぐではないわよ。それに彼女を使わないと今回は不可能に近い、そうでしょう?」


 確かにミシェラを考慮すれば選択肢はかなり広がる。広がるんだが…。


「うーん…。大丈夫か?ミシェラが本当の俺を知ったら幻滅しそうなんだよなあ…。」


あの娘ブラコンに限ってそれは無いわよ。本当に。」


 なんかあの娘の言い方がおかしかった気がするが…。


「それとも何?ミシェラをいつまでも仲間外れにするつもり?」


 それは薄々思ってはいたが…。大丈夫だろうか。


「まあやってみるか。最悪何とか誤魔化せばいいだろ。」


 渋々ローズの言い分が合理的であることは理解しているため従わざるを得なかった。


 そして数刻、いつもの面子の中にミシェラを加えた作戦会議が始まる。


「それでお兄様、これは何の集まりなんです?」


「それは当然クロードが失敗したからこうして貴女を交えて作戦会議のやり直しをしようってことになるわね。」


「…どういうことです。お兄様が、というのは。」


 剣呑な雰囲気を漂わせ始めたので俺が大体のいきさつを説明する。ただし金を巻き上げようみたいな部分はカット。あくまで悪人を成敗する体で話している。


 ホントはマクベルの隠しているだろう財産をしゃぶりたいとか言えるわけない、マジで。


「なるほど、大体の事はわかりました。お兄様がまだ本当の事を打ち明けてくれないのは気になりますがいいでしょう。それで私は何をすればよいのでしょうか。」


「…そうだなミシェラにはマクベルの管理するラヴィニアのギルドで冒険者になってほしい。基本的にミシェラにやって欲しいことは無いんだ。ただギルドと契約して、普通に魔物を倒す、或いは街の依頼クエストを聞いてくれればそれでいい。」


「それだけでしたらいくらでも。やっとお兄様のになれた気がしますね。」


「はは…。」


 なんだかまるで俺のやっていることに気づいていたかのような…。


「それでアイツの出方を伺いたいな。ミシェラへの対応で作戦を組み立てたいが…。」


「だったらもう一人、つまりは私が中に入ればいいでしょう。」


 ローズが意外な提案をする。お前ってお留守番担当みたいな雰囲気あったけど。猫かぶったりできるんだろうか。


「まあローズがそう言うなら…。バーバラでもいいかなと思ったんだが。」


「多分今回はバーバラより私の方がでしょうから。」


「なら頼む。しかしリンネ、悪かったな今回は。危うく捕まりでもしたらとんでもないところだった。」


 実際リンネが上手く逃げおおせたからよかったものの俺の作戦ミス一つで捕まったり殺されたり、悪い想像に事欠くことはない。


「いえ、クロード様が気に病まれることは何一つございません。全て私のミスですので。」


「そうやって全部背負い込むな。今回は明らかに俺の見立てが甘かった。すまん。」


 リンネはなんというか俺が全能の何かだと思っている節がある。所詮人間、失敗もするしやらかした数など数えきれない。


「クロード様がそう仰るのでしたら私からはこれ以上は何も。」


「リンネは真面目過ぎなんだよねー、ボクみたいにもっと気楽にいかなきゃ。」


「あなたはもう少し気を引き締めなさいバーバラ。」


 しかし今考えると今回の作戦ミシェラとローズがメインか。上手くやれるのか?未知数すぎて正直読めん。


「まあいい、それじゃあとりあえずミシェラは冒険者として、ローズは…受付嬢として雇われる、ってことでいいんだよな?」


「私が冒険者をやると思って?」


「まさか。」


 それはそれでちょっと面白そうと思ったのは内緒な。殺されるから。


「うし、じゃあ潜入して見てくれ、そこからのマクベルの動きを見ながら適宜、作戦を考えてみる。それじゃかいさーん!」


 いつもにミシェラを加えた作戦会議は意外とあっさり終わってしまった。俺が神経質すぎたか?これなら今後も上手いことやればミシェラも加えてやれるかもしれんな。


 ただローズが受付嬢か…。周りの人間全てが馬鹿だと思ってそうなローズが愛想を振りまいて冒険者と接する…。


 できるか?ことあるごとに皮肉とナイフのオンパレードになりそうだが。まあやれるって言ってるんだしやらせてみて損はないか。


 それにワンチャン雇用してもらえませんでしたとかだと面白いし、いじりがいのあるネタになりそうでそれも期待してしまう。


 まーどう転んでも何とかなる範囲だろ。あからさまに騙しに行く動きをいきなりするわけじゃないしな。


 楽観的な構えで彼女らの働きに期待しつつ。今回はお留守番をリンネたちと過ごす方法を考えていた。




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