第三章 入れ替わった頂点、マクベル
17話 冒険者ギルド、不穏
「あー人を騙してえ…。」
「くだらないことを言ってないでさっさとそれを片づけたらどうです?」
最早何度目かもわからない俺とローズのいつものやり取り。
「書いても書いても嘆願書が減らねんだよ…。ローズもちょっと手伝ってくんねえ?頭いいんだし。」
「あら、妻は夫を支えるのが役目、だからこそ労いの言葉をこうしてかけているというのに。」
「労いっていうか発破だよね。」
「愛の鞭ということね。」
嬉しくねえ…。飴と鞭にしては鞭の配分が多すぎなんだよ。なんでローズは俺と婚約しようと思ったんだマジで。最近それが分からなくなっている。
「なんかいい鴨はいないのかねえ…。」
「そうそう都合よく悪人がいるわけがないでしょう。」
「甘いねローズ、人は根本的には悪人なんだよ。金や権力に目がくらめば人という生き物はいくらでも本性を現すもんだ。」
「貴方のように、ですわね。」
耳が痛えや。
「失礼します、お二人方。」
取り留めのない会話を広間でしているとリンネが腰を折って話を切り出してくる。
「どうした、リンネ。」
「いえ、先日休暇を頂いた折に友人と過ごしていたのですが…。」
どうにも金の匂いがする。稼げそーないい匂いが。
「最近冒険者ギルドの様子がおかしくなってきている。と。」
「あー冒険者ギルドかウチの領には一つだけあったか。」
冒険者ギルドは大都市などに構えてあることが多く、王国の中にも何組合かありウチの領ではラヴィニアの街に一つあったはずだ。
「ええ、そこで間違いありません。友人はそこで受付嬢をやっているのですが…最近ギルド長が入れ替わってからというものやりたい放題しているらしく。」
「面白そうじゃん。いいね、調べてみよう。時間はたっぷりかけていい。忍び込む必要は…まだいいか。とりあえず周辺から洗ってみてくれ。」
「メンバーは私とノルド、バーバラでよろしいですか?」
「ああ、それでいい。アクセルにやらせてみてもいいけど…まだ早いか。よし、じゃあ3人で頼む。」
そんなに切羽詰まってないしな。つい最近使用人になってやることが探偵業務ってのはちょっとかわいそうだし。
「了解しました。」
「よーし騙しがいのありそうなやつが来たもんだ。楽しみで仕方ねえな。」
「まずはそれをかたづけなさい、クロード。」
「…ッス。」
タノシイ鴨がやってこようと目の前の書類の山という現実は何も変わりはしなかった。
およそ2週間ぐらいたっただろうか。
「クロード様、例の冒険者ギルドについて大体の情報がそろいましたのでご報告に上がりました。」
「お、終わったか。俺ときたら楽しみで寝れなかったんだから。」
「そういう割には毎日グッスリでしたけれどね、クロード。」
なんでローズが俺の睡眠事情を知ってるのだろう。いや冗句を返してくれただけか。
…そうだよな?
「まずギルドの様子についてですが…。」
リンネがギルドについての報告を始める。話をまとめてみるとこんな感じだ。
まず最近ギルド長が隠居して繰り上がりで新しいギルド長マクベル・アーランドが就いた。ギルドがおかしくなってきたのは此処からだ。
ギルドというのは魔物の素材の買取も行う。ただこの買取の価格が全体的に悪くなった。加えてそれを加工屋に卸すのだがそこに吹っ掛けて高額で売りつけているらしい。
通常、こんなことをすれば同業の他の組織に客は流れるがなんせ冒険者ギルドはウチの領じゃあ一つだけ。王国の管理も受けていないためある種の独占状態ってことらしい。
いったいどうなってんだこのゲーム世界。色々杜撰だろ設定が。俺としてはやりやすいが。知識を流し込まれただけで遊んだことはないが…。本当はクソゲーだったとかそんなところなんじゃねえのか?
「―というのが冒険者ギルドの様子になります。またこれに加えてギルド長となったマクベルの振る舞いも酷いようで。」
「まあ権力握ったトップになったらやりたい放題なんだろうよ。」
「その通りです。受付嬢へのセクハラに暴力行為は日常茶飯事だそうで。」
いいねいいねえ。ナニやったって俺の心も痛まねえ。精々俺にしゃぶられてくれよマクベル君。
「また、マクベル個人についてもある程度抑えましたのでこちらを。」
そういって彼女は俺に羊皮紙を手渡す。いつも思うけどこいつら仕事が早いな。
マクベル・アーランド
男。35歳。前任のギルド長が隠居するまではトップの右腕を務めていた。
トップの座についてからはあくどい商売と横暴な振る舞いを見せ始め今やだれも逆らえなくなっている。
特に今の副ギルド長には力で支配しているためだれも止められない。また、良くも悪くも豪快な性格で女好きの酒好き。毎晩のごとくやりたい放題している。
個人の趣味は武器集め、特に英雄が用いた武器など
「ふーん、成程ねえ。」
「これが彼の情報になります。」
ざっと見終えた後で紅茶を飲んでいるローズにも手渡す。どうせみたいだろうし。
「ただよ、冒険者ギルドって結局冒険者がいて成り立つもんだろ?さすがにトップがコレだと契約している冒険者が黙ってねーんじゃねえの?」
「確かに一部では反感を買っていますが、新人ばかりだそうです。つまり実力ある冒険者たちに対してはキチンと素材を適正価格で購入しているようで。」
「成程ね、まさしく自由な取引だ。街の住人からの
「さすがにそこまで手は出していないようです。」
ま、最後の良心ってところかね。
「さーてどうやって騙すか…つっても大体浮かんでるビジョンはあるんだが…。」
「流石ですねクロード様。」
「いや…ひねりがねえんだよ。今の案。やり方がラッセルの時と丸被りになっちまうんだよな。」
俺としては遊びを利かせた騙しをしたい所なんだが。
「つまりは私が武器商人となって高額で粗悪品を売りつける形でしょうか。」
「そうそう。おあつらえ向きに武器が好きらしいし。…まあいいか、使えそうな手段を使わない理由もないしな。」
「了解しました。ではその手筈で行きましょう。」
なーんか嫌な感じがするんだけどな。
「うし、まあ武器の物語性はノルドに適当にでっちあげさせよう。数日アイツには冒険者になってもらうか。適当なさすらい傭兵みたいな感じで。詳細は後から皆で集まって詰めていこう。とりあえず今はこれでいい。ありがとうリンネ。」
「いえ、では私は仕事に戻りますので。」
綺麗な一礼をして広間から出ていくリンネ。ウチの使用人とメイドはどうにも振る舞いがらしい。背筋が立っていると言えばいいのだろうか。
「クロード。」
ローズが呆れた顔で羊皮紙を机に置いて問いかける。
「貴方本当にその作戦で行くつもり?」
「ん?…まあそうなるかな。特に面白そうな案も浮かばねえし。」
ひとつため息をついてローズは続ける。
「貴方、失敗するわ。」
それだけ言って彼女は部屋に戻っていった。
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