幕間の小話

「でもさークロード様、結局嘆願書で学園をなんとかしてくれーみたいなこと書いてた人って誰なんだろうね。」


 学園での騒動も終わり総括と反省を行っていた中でのバーバラの質問。


「やはりサリアという女の子だったのでは?」


「多分違うなリンネ、おそらくだがコイツの差出人は学園長だ。サリアがこんなことをする理由がないし。」


「なるほど。」


 ただ…悪の権化を成敗してくれ、だなんていったい自分の事をなんだと思ってたんだろうなあの学園長は。


「しっかし今回は消化不良だな。結局誰も騙せてないし。」


「絶対に騙さなきゃいけないわけでもないしいーんじゃない?」


「それはそうなんだけどよ…。」


 実際お金も、人材も確保できるゆえに結果だけ見れば万々歳だが俺の詐欺欲が満たされねーんだよな。


「おっとそろそろ時間か?」


「ええ約束では頃合いかと。」


 そう、今日は新人の使用人が我が屋敷に来る日だった。


「ようこそ、君の名前は…アクセル・ブライトか。」


「領主様、俺…私は…。」


「口調を変えなくていい、自然体のままでいろ。そして君の考えていることは間違っていない。私ことクロード・ランスソードは表向きは優秀な領主だが目的のためならば少女を非難し他者を焚きつける火種として扱うことも辞さないクズ野郎で間違いない。」


「…。」


 新人は何も言わない。


「ただそれはそれとして一定期間は私のもとで働いてもらう。その後はどう生きても結構。それが学園長との契約だ。さて早速で悪いが仕事は教育係を付けるのでな、そいつから学んでくれ。」


「わかりました。」


「それじゃあ教育係の紹介だ。入ってくれ。」


 俺の言葉で部屋に入ってくるのはアクセルも見たことある人物。


「やりたいようにやった気分はどう?少年よ。愚痴ならちゃーんと聞いてあげるよ。」


「領主様…貴方は…。」


「そういうことだよ、アクセル。俺はこういう人間だ。じきにうちのやり方にも慣れる。頑張れよ、英雄ヒーロー。」


「その呼び方はやめてくれ。領主様。」


 お前がどう言おうとあの時のお前は英雄ヒーローだったよ、アクセル。





「いよっしゃああああ‼‼‼‼人材も金も手に入ったぞおい!!しかも500万だぞ!なんで⁉あの学園長太っ腹すぎだろ‼つかどんだけ金持ってんだよ!」


 新人をシリアスモードで迎え入れた後は祝賀会、色々と上手くいったので良かった会を開催中である。酒も入ってテンション爆上がり。


「なあ、バーバラさん…。これは一体…。」


「どうしたのアクセル?」


「いや、その…。」


「あーお酒飲みたいんだね?ボクがもってきてあげよう。」


「そうじゃなくて…。」


「おいおい、どうしたアクセル。もっと飲め!もっと食え!」


 最近のガキときたら遠慮ばかり覚えて良くないな、もっとこう俺のようにやりたいことへの欲望を全開にしないと。


「なんていうか違い過ぎないか?皆の前で振舞う貴方と。」


「何言ってんだ?知らなかっただけだろ?本来の俺はこっちなんだよ。パーティ好きだし金も好きだし騙すのも好き!あとミシェラな!」


「あら、私の事は好きではないようですわね。」


「ウソウソウソ‼ローズも大好き!ね、ちょっとしたジョーク!だからそのナイフを仕舞おう、な。頼むよマジで。」


 いかんな酒が入ると気が抜ける。ナイフハラスメントのことが頭から抜けちまう。


「…まあいいでしょう。私も今は気分がいいので。」


 学園長との契約で500万は入るわ人材確保の手段も一つ手に入ったわでかなり気分がいい。ローズもなんか知らんけど喜んでるし皆ハッピーで最高ってわけ。


「しかし最初学園に入った時はどうなるやらと思ったが…なんだかんだ上手くいくんだよな。やっぱり俺って天才か⁉」


「表向きは、でしょう。実際の貴方はクズの詐欺師でしょうに。」


「はははだーい正解‼俺の一番の理解者はローズか?やっぱりローズなのか⁉」


「そうかなあ一番の理解者ときたら身近なメイドがいると思うんだけど?」


「じゃあバーバラか?皆俺の事好きすぎじゃねえ?」


「調子に乗り過ぎですよ、クロード様。」


「ハイ…、スミマセン。」


 リンネの声って怖いんだよな、なんつーかこう命を脅かされそうな感じ。ローズといい心臓を狙われてる感じがすごいんだけど。


「クロード様、そろそろお見えになるかと。」


「マジか!もうこんな時間?よし皆急いで準備するぞー!」


 パンパンと手を叩いて散らかった部屋を片付けてより豪華な飾りつけを皆で始める。


 所詮今までのパーティーなど前座も前座。


 今回のパーティはもう一つの側面がある。それは…、


「ただいま戻りました、お兄様―」




「「「誕生日おめでとう!!!」」」




 屋敷に帰ってきたミシェラに全員で歓迎をする。そう、今日はミシェラの誕生日であり、サプライズパーティーという面もあるのだ。


「お兄様これは…?」


「お帰りミシェラ。今日はミシェラの誕生日だからね。今年は賑やかにしたくてサプライズパーティーにしたんだ。それに。」


 呆気にとられるミシェラに説明しながらプレゼントを取り出す。


「ほら、開けてごらん。」


 驚きながら装飾の施された箱をミシェラが開けるとそこには一つのブローチ。


 薔薇をかたどったソレは特注で作らせた世界に一つだけのオリジナル。


「綺麗…。」


「ミシェラに似合うと思ってね。」




「なあ、バーバラさん。」


「どうしたのアクセル。」


「あの人はどれがホントの顔なんです?」


「どれもこれも、だよ。領主としてのクロード様もクズとしてのクロード様も兄としてのクロード様も。全てが本当で全てが正しいんだ。大丈夫すぐ慣れるよ。」


 なんだか後ろが騒がしいがどうでもいい。今重要なのはミシェラのパーティーだ。


「さ、おいでミシェラ。今日はミシェラが主役だからな‼」


 ミシェラの手を引いてパーティーは幕を開ける。


 皆で飲むわ食べるわの大騒ぎ。過去一の規模の喧騒は夜遅くまで終わることはなかった。

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